ぶっ飛び感が半端ない!!"ドラッグムービー"「マンディ~」のしびれるトリップ度
映画は退屈な日常から解放してくれる有り難いツールだ。だとすれば、近日公開される「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」のトリップ度は今年最強、否、近年で最強。冒頭から幻覚のような地獄絵が展開し、やがて、それが残虐で笑えるリベンジマッチへとシフトしていくプロセスは、まさに"トリップムービー"。ぶっ飛び感が半端ない。その間、普段味わえない恐怖と快感が絶え間なく提供された後に待ち受けるのは、限りなく美しい幻想の極致なのだから。
1983年のアメリカ、カリフォルニアの某所。血塗られた過去を持つ主人公、レッドが最愛の妻、マンディと人里離れた湖畔のコテージで幸せに暮らしている。しかしある日、道を歩くマンディを車中から見初めた狂気のカルト集団"新しき夜明けの子供たち"のリーダー、ジェレマイアは、特殊な餌さえ与えれば命令に従う異形のバイク集団"ブラック・スカルズ"にマンディの捕獲を依頼。彼はマンディをアジトで欲望の捌け口にしようとするが、自分を笑い飛ばしたことにぶち切れて、念のために拉致してきたレッドの目の前で、無残にも彼女を焼き殺してしまう。以上が話の前段だ。
海外メディアから「イメージは一貫して超自然的」(ニューヨーク・タイムズ)、映画に感動した監督のギレルモ・デル・トロからは「クレイジー、グッド!」等の高評価を獲得しているポイントは、主にこの前半部分に集中している。湖畔に面したベッドルームでレッドとマンディが毎夜愛を語らう夢と現実が交差する時間、教祖に従うカルト集団の非人間的な風貌、LSD製造人の実験材料にされて以来、特殊な薬によってのみ生き続ける体になったという"ブラック・スカルズ"のおぞましいルックスと生態、ロックスター気取りで信者たちを手なずけるジェレマイアのナルシストぶり。それらが、イギリスのプログレッシブ・バンド、キング・クリムゾン等の叙情的なサウンドをバックに綴られる時、観客はいつしか映画の中へと取り込まれ、うっとりしている自分に気づくはず。この種の特殊で完成された世界観を持つ映画だけが与えてくれる、不安と快感の真っ直中にいる自分に。
そして、物語は異常さに笑いをプラスした怒濤の後半へ。灰になったマンディにリベンジを誓ったレッドは、有刺鉄線の手錠を痛みに耐えながら外し、拉致された際に負った脇腹の深い刺し傷もなんのその、自ら鋳ったT型の剣を武器に、時にはそれをチェーンソーに持ち替え、着実に敵討ちを決行していく。このあたりから、レッドを演じるニコラス・ケイジがファンも忘れかけていた生来の魅力を発揮する。レッドが妻を殺され茫然自失状態から脱して、テーブルの上にてんこ盛りにされていたコカインを思いっきり吸い込み、ついでに"ブラック・スカルズ"が餌にしている緑色の液体も試しに一口飲み、超ハイになっていく件は、ケイジ独特のコメディセンスと、憎めない風貌抜きに成立し得ないもの。当初は監督からジェレマイア役をオファーされ、一度は断ったケイジだが、製作総指揮の一員に名を連ねる俳優のイライジャ・ウッドから「もう一度脚本を読んでみて欲しい」と説得され、迷った末に決断した甲斐はあった。
「カサンドラ・クロス」(76)や「ランボー/怒りの脱出」(85)等で知られるギリシャ人監督、ジョルシュ・パン・コスマトスを父に持つ監督・脚本のパノス・コスマトスは、映画作りのノウハウを父親から、彫刻家だった母親(両親共に死去)からクリエイティビティを学んだとコメントしている。恐らく、「マンディ」の限りなくクレイジーで、また、この世のものとは思えないムードとアートワークは、母親からの影響ではないだろうか。
ドラッグを愛するキャラクターが数多く登場し、彼らの何かに憑かれたような言動を描き、観る側も一緒にぶっ飛べる合法的映像体験。それが「マンディ~」では味わえる。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』
11月10日(土)より、新宿シネマカリテ他にてロードショー
公式ホームページ:http://www.finefilms.co.jp/mandy/
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