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任天堂、スイッチ海賊版を煽った匿名ユーザーの実名と住所を特定して提訴。その執念の捜査方法が明かされる

多根清史アニメライター/ゲームライター
(写真:ロイター/アフロ)

任天堂は非公式エミュレータの取締りを含めて、海賊版の横行につながる動きを封じ込めることに力を注いでいます。

海賊版が動くようNintendo Switchを改造する業者や、その手引きやノウハウを教えて稼いでいる人々は、任天堂にバレないと高をくくっているはず。それが、どうして次々と身元を特定されて裁判に引きずり出されているのか? 

そうした訴訟の1つでは、「任天堂の修理窓口」と「ネット掲示板」がカギになっていたことが明らかとなりました。

これは今年夏、任天堂が改造ハードウェア販売店「Modded Hardware」と大手匿名掲示板Redditの海賊版コミュニティr/SwitchPiratesでモデレーターを務めた「Archbox」こと米アリゾナ在住のジェームズ・ウィリアムズ氏を提訴した件に関すること。販売業者はさておき、匿名だったウィリアムズ氏も身バレしたということです。

海外ゲームメディアGame Fileが裁判所への提出資料を調べたところ、事の発端は2023年、任天堂が法律事務所Mitchell Silberberg & Knuppを雇い、海賊版Switchゲームを販売するオンラインストアの調査を依頼したことでした。

その過程で「Archbox」が見つかったとのこと。特に決め手となったのは、「SwitchPirates」コミュニティと同じユーザー名で「phoenix」コミュニティ(アリゾナ州フェニックス住民の集う場所)に投稿し「ミッドウェスタン大学には非常に優れた検眼クリニックがある」と述べていたことでした。要は、うっかり住んでる場所と通ってる大学を自白していたわけです。

警告を発する2日前、被告の住所に修理済み製品を送った任天堂

写真:Splash/アフロ

さらに弁護士事務所は、今年2月に少なくとも2つのニンテンドーアカウントとウィリアムズ氏を紐づけました。そして任天堂の製品ライフサイクル管理部門の従業員が、ほぼ同時期に「暫定的に」Archbox=ウィリアムズ氏だと特定したとのことです。

その時点で、任天堂は「アリゾナ州にいるジェームズ・ウィリアムズ」のメールアドレスをつかんでいました。その情報に基づき、社内の修理追跡システムで調べたところ、同氏からの修理依頼が2つ見つかり、配送先の住所まで書かれていたそうです。

つまり、海賊版にどっぷり関わってる人物が、任天堂に修理に出していたことになります(改造済みスイッチか、そもそもスイッチかどうかは不明)。

その後、任天堂はウィリアムズ氏に警告状を送り、同氏もこれに署名。「自分ができる範囲で、あらゆる要求や要請に従い、協力する」と約束したとのこと。警告を送る前に、任天堂は修理済み製品の1つを届けていたそうですが、「住所は分かっているぞ」とチラつかせていたのかもしれません。

が、任天堂はウィリアムズ氏に連絡を打ち切られたため、所定の期限までに裁判所に訴えられなかったそうです。そのため、任天堂は海賊版につき責任があると主張する相手と連絡を取るためにできる限りのことをしたという証拠を提出し、デフォルト判決(被告が適切に応答しなかった場合、裁判所が原告の請求を認める)が得られたとのことです。

一般的に海賊版の摘発については、ゲーム企業が警察に訴え、実際の捜査はお任せというイメージを漠然と抱きがちです。

が、今回のケースで任天堂側は「スイッチが発売される数年前にさかのぼり、匿名掲示板から住所などの個人情報をしらみつぶしに捜索」「ニンテンドーアカウントとその人物を紐づけ」「得られたメールアドレスによる修理依頼から、送付先の住所を特定」という地道な作業を積み重ね、自力で匿名ユーザーを丸裸にしたことになります。

海賊版の横行を煽っておきながら、任天堂に修理依頼を出すうかつさがなければ特定されなかったのでは?とも思えますが、いまやネット上には様々なSNSやコミュニティもあり、完全に足跡を隠すのは不可能なのでしょう。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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