任天堂、非公式エミュレータの取締りを強化。3億円以上の和解金支払や関連Discordサーバーの閉鎖も
Nintendo Switch後継モデル、通称「スイッチ2」の噂話や自称リークは、3月初めからピタリと止まっています。2025年3月発売説が有力になっており、今後は本格的にサードパーティも巻き込んでリリースに向けて始動、つまり守秘義務も厳しさを増している裏返しなのかもしれません。
そんななか、現行スイッチの非公式エミュレータに関して、任天堂が取り締まる動きが活発化しています。
一般的にエミュレータとは「ゲーム機などの動作を別の機械やソフトで再現する」こと。スイッチの場合は、主に「PCなどにスイッチ用ゲームを読み込ませ、遊べてしまう」ソフトを意味しています。
非公式エミュレータ「Yuzu」が海賊版ティアキンを助長?
まず2月末、任天堂は非公式エミュレータ「Yuzu」を提訴。まもなく開発元のTropic Hazeが和解に応じ、Yuzuの公開・開発を中止するとともに、240万ドル(約3億6000万円)の和解金を支払うと約束。
それだけでなく「Yuzu本体またはYuzuのソースコードや機能の一般への提供、配布、マーケティング、広告、宣伝、販売、テスト、ホスティング、クローン、配布、その他の方法での取引」も停止。ウェブサイトや関連サービスも閉鎖されることになりました。
任天堂は、Yuzuそのものが著作権を侵害したと主張したわけではありません。そもそもエミュレータが直ちに違法になることはなく、たとえば元のソースコードなど「任天堂に著作権のあるもの」が組み込まれたとき、初めて権利侵害となる。この訴訟では、そこは争われていません。
その代わり、任天堂はYuzuが暗号化の複数の層を回避することを「主軸として設計」されていると述べ、開発者らが不正な暗号キーを入手できるサイトを紹介したことを指摘。
そうした事実をもとに「大規模な違法コピー」を助長していると主張した格好です。具体的には、発売前だった『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の海賊版が100万回以上もダウンロードされた同時期に、Yuzuの有料会員も倍増しており、エミュレータにより被害が拡大した可能性もあると示唆していました。
任天堂の主張は「こういう関連があるかもしれない」「違法行為を助長した可能性がある」ということで、Yuzu側としても法廷で争う余地はあったかもしれません。
が、著作権にまつわる訴訟は長引く傾向があり、しかも争うなかで真っ黒な証拠が出てくることもありうる。そんな諸々を考えた結果として、和解に応じたと思われます。
派生エミュ「Suyu」と 「Sudachi」のDiscordサーバーも閉鎖
それから約1か月後。Discordはスイッチエミュレーターの「Suyu」と 「Sudachi」のサーバーをシャットダウンし、リード開発者のアカウントを完全に無効化。どちらも、元々はYuzuの派生ソフトとして始まったものです。
上記の和解案には、Yuzu開発者らがYuzuやそのコードを使ったクローンの配布や宣伝において、第三者と「積極的に協調し参加する行為」を禁止する項目があり。とはいえ、和解案の対象となった誰かが、SuyuやSudachiのプロジェクトに協力している証拠はありません。
Discord広報は「合法的かつ有効なDMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)の要請にはすべて応じ、遵守している」「今回の例では、これらの素材の取り下げを求める裁判所の差し止め命令もあり、それを守る方向で行動を起こした」とコメントしています。
さらにGitHubもエミュレータや改造したゲーム機で使われるスイッチ用ソフトの復号化に関するいくつかのプロジェクトを削除。こちらも、任天堂からのDMCAテイクダウン要求に応じたと明記しています。
ただし先月、Suyuプロジェクトのモデレーターの1人は、Yuzuが踏んだ法的な地雷を避けるため苦労したと語っていました。すなわち「システムファイル、ROM、暗号化キー、シェーダーキャッシュの要求、リークされたゲームなどに関する議論」など、海賊版に関する全ての議論を厳しく禁止するDiscordサーバールールを守っていたとのこと。
しかも、Discordの著作権とIPポリシーは、DMCAテイクダウン要求には「侵害されていると思われる素材が、弊社サービスのどこにあるのかの説明」を含めることを必須と規定。SuyuとSudachiはともに、Discordの外でエミュレーション関連ファイルをホストしており、同社サーバー内には存在しないはず。
Sudachi開発者のJarrod Norwell氏は、Discordから規約に違反したとのメールを受け取ったと報告。それ以上の詳細は教えてもらえなかったそうです。
Discordも営利企業であり、サービスを提供する相手を選ぶ自由はあるということでしょう。その真実は「任天堂と事を構えることを避けた」だけかもしれません。
エミュ取締りはNintendo Switch2(仮)の後方互換性とセット?
スイッチを改造して海賊版を動くようにするツールを売りさばいていた組織の一員も、一生かけて賠償金1450万ドル(約22億円)を支払い続けることになりました。
今回、DiscordやGitHubといった大手プラットフォームも動いたことで、スイッチ用ソフトの海賊版や、それを助長するものは衰退に向かいそうです。
が、長らく買い続けてきた合法的な現行スイッチ用ソフトが、いずれ確実にやって来るハードの生産終了にともない、遊べなくなるとすれば困りものです。後継機のスイッチ2には、噂通り後方互換性(過去ハードのソフトが遊べる機能)があると期待したいところです。