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Nintendo Switch後継機種、なぜ現行スイッチのソフトが動く?任天堂の戦略を深掘りしてみる

多根清史アニメライター/ゲームライター
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

任天堂がついに、Nintendo Switch後継機種(以下、スイッチ2)では現行スイッチ向けソフトも遊べることを発表しました。数か月前から噂されていたことが、ようやく公式に裏付けられたかっこうです。

実は後方互換性(前世代ハードウェア用のソフトが動く)は、当たり前なようで当たり前ではありません。なぜなら、まさに初代スイッチにはWii Uとの後方互換性がなかったからです。先代とのソフトウェア的な縁をバッサリ切っていたため、今回のアナウンスはある程度は驚きがあったわけです。

なぜスイッチ2は、現行スイッチのゲームを遊べるようになるのか?考えられる理由をいくつか挙げてみましょう。

競合のソニーやマイクロソフトもそうしてるから

写真:ロイター/アフロ

Xbox Series X|Sは初代Xboxから歴代ハードすべて、PS5もPS4との後方互換性があります。そのおかげで、本体ローンチ直後の専用ソフト不足を補えていました。特にXbox=マイクロソフトはWindows PCでも30年以上にわたり後方互換性を維持しており、戦略以前に「当たり前でしょ?」と捉えているのかもしれません。

逆に、なぜスイッチではWii Uとの互換性を切ったのか。これは容易く想像がつき(あくまで推測です)1つはゲームソフトの媒体が異なるから。Wii Uは光学ディスクを使っていましたが、スイッチはゲームカードです。

スイッチ本体はぼ携帯ゲーム機であり、ディスクドライブを載せることは体積的にも消費電力的にも合理性があるとは言えません。ソニーもPSPでは光学ディスクのUMDを採用しましたが、後継のPS Vitaではカートリッジ式にしており、ちょうど同じ道をたどっています。

また、搭載チップのアーキテクチャが異なることも大きいでしょう。初代スイッチはNVIDIAのTegra X1=Arm系、Wii UはIBMのPowerアーキテクチャであり、互換性を持たせることは難しかったはずです。

旧作のデジタル販売で利益を上げ続けられる

写真:ロイター/アフロ

ゲームハードは1~2世代で後方互換性が途切れることは珍しくありませんが、スマートフォンともに数年越しにキープされるのは当たり前です。

iPhoneの場合、iOS 11(2017年リリース)以降は古い32ビットアプリは動かなくなったものの、裏返せば7年前の64ビットアプリは普通に動きます。その間、iPhone X~iPhone 16まで7回も世代交代しているのに。

任天堂は現行スイッチ向けに過去作のコレクションやリマスターを出していますが、それらは2世代前のWii止まり(『スーパーマリオ3Dコレクション』等)。わざわざ一世代前の旧作を時間とコストをかけて移植するより、そのまま利益を上げ続けるほうが理にかなっているでしょう。

この路線はゲームボーイ~ゲームボーイアドバンスへの原点回帰ともいわれますが、DSと3DS、WiiとWii Uとも2世代で打ち切っているので(間に細かなマイナーチェンジはあったとはいえ)一度は「捨てた」のかもしれません。

スイッチは歴代ハードのなかで最強の「お客様との接点」

写真:ロイター/アフロ

上記の決算説明会でも、任天堂は「お客様との接点の強化」とのフレーズを何度も繰り返していました。

なにしろ、スイッチのシリーズ本体累計販売が1億4604万台、ソフトウェア累計13億6100万本、年間プレイユーザーが1億2700万とのことゲーム機は「毎日のように電源を入れ、遊ばれること」が最大のハードルですから、後継機がスイッチとの縁を切るなんてあり得ないでしょう。

また任天堂のゲームは「どうぶつの森」や「スプラトゥーン」シリーズなど数年単位でプレイされるものが少なくありません。もしもスイッチが経年劣化で動かなくなれば、後方互換性のおかげで「代わりのスイッチ」以上にスイッチ2に買い替えられる可能性もあります。

海外大手パブリッシャーとの関係性

写真:ロイター/アフロ

過去に任天堂は何度も、海外の大手パブリッシャーに大作ソフトを供給してもらえなかった時期がありました。ちなみに、世界的に大人気の「Call of Duty」シリーズでは、任天堂ハード向け“最新作”は2013年にWii U向けに発売された『Call of Duty: Ghosts』です。

現行スイッチもその傾向がありましたが、最近は風向きが変わりつつあります。要は「スイッチの性能が他社ハードよりも低く、マルチプラットフォームのタイトルを出したがらなかった」海外大手が、スイッチの大成功を見て、かなり前の旧作をボチボチ移植しています。

その代表例が、『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版 』を発売したTake-Twoです。同社のCEOは「下位互換性はカタログにとって良いこと」と言いつつ、スイッチ2につき「(新作の対象から)除外することは決してない」とコメントしています

ライフサイクルの末期にある現行スイッチに新作(?)を投入したのも、後方互換性を織り込んでのことでしょう。また、スイッチ用の旧作も、スイッチ2ではDLSSによりプレイ体験が改善される可能性もあります

以上は任天堂の思惑(推測)でしたが、後方互換性は古いビデオゲームの保存にも影響するとの指摘もあります

実際、3DSやWii Uのダウンロード版ソフト販売が終了したのは、スイッチに後方互換性がなかったことと無関係ではないでしょう。スイッチ用ソフトは、そうした悲しい事態は起こらないと祈りたいところです。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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