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両親を看取った辛い実体験が出発点に。余命僅かの人々に献身的に寄り添う女性たちと出会って

水上賢治映画ライター
提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭

 最新のドキュメンタリー作品と世界のドキュメンタリストが集う、アジア最大級のドキュメンタリー映画の祭典<山形国際ドキュメンタリー映画祭>(※以後、YIDFF)。山形県山形市で2年に1度の隔年開催される同映画祭だが、昨年の第17回は新型コロナウイルスの感染拡大で初のオンラインでの開催を余儀なくされた。

 それから約1年、「スクリーンで作品を」といった声が多く寄せられたことを受け、来年10月の<山形国際ドキュメンタリー映画祭2023>のプレイベントとして「YIDFF 2021 ON SCREEN!」の開催が決定!

 先月7日(金)~10日(祝・月)までフォーラム山形を会場に、「理大囲城」や「カマグロガ」などの受賞作をはじめ、昨年の<YIDFF2021>でオンライン上映された作品がスクリーンでリバイバル上映された。

 それに続く形で今月から毎回恒例の<ドキュメンタリー・ドリーム・ショー――山形in東京2022>がスタート。

 こちらでも独自のプログラムを加えたラインナップで<YIDFF>の作品を一挙上映する。

 そこで、この機会に昨年の<YIDFF2021>の開催時にリモート取材に応じてくれた世界の監督たちの話をまとめてインタビュー集として届ける。

 今回は、インドのニューデリーで在宅緩和ケアに携わる3人の女性チームに寄り添った「私を見守って」をピックアップ。

 手掛けたファリーダ・パチャ監督と撮影を担当したルッツ・コナーマンに訊く。(全四回)

「私を見守って」を手掛けたファリーダ・パチャ監督(右)と撮影を担当したルッツ・コナーマン 筆者撮影
「私を見守って」を手掛けたファリーダ・パチャ監督(右)と撮影を担当したルッツ・コナーマン 筆者撮影

インドでまだまだ認知されていない「緩和ケア」に着目した理由

 訊くとインドでは在宅での緩和ケアはまだまだ広まっておらず、人々に認知もされていないという。

 その中で、このテーマに目を向けた理由を監督はこう明かす。

パチャ「数年前、わたしはインドの農村部のお医者さんについてリサーチをしていました。

 そのときに偶然、今回のニューデリーの緩和ケアチームの記事を目にしたんです。

 その記事を読んだ途端、心を揺さぶられました。

 というのも、その少し前にわたしは両親を看取っていたんです。

 わたしはアメリカの映画学校で学び、修了後に故郷のインドへ戻ると、病に倒れた両親を世話するという現実が待っていました。

 その日々は6年間続きました。この時間は振り返るとわたしの人生でもっとも辛く心に傷を残した時期でした。

 でも、一方でいろいろと学ぶことができ、大きな見識を得る機会にもなりました。

 振り返ると、両親が息を引き取ったとき一緒に家にいられたことには感謝していますし、二人が孤独でなくてほんとうによかったと心から思っています。

 記事に触れたときに、この6年間のことがいろいろと思い出されました。

 それで、さまざまな人を『看取る』ことになる彼女たちに関心を寄せることになりました」

首都のデリーでさえ、緩和ケアを提供している病院は2つか3つしかない

 インドではまだまだ認知されていないということだが、現実はどのような感じなのだろう?

パチャ「さきほど言ったようにわたしはアメリカの大学に留学して、アメリカに4年間住んでいました。

 なので欧米の社会ではすでに『緩和ケア』が定着していることは知っていました。

 でも、母国であるインドにこのような『緩和ケア』が存在していることはまったく知りませんでした。

 実際、インドでもまだまだ知られていないといっていいです。

 たとえばわたしが調べたところで話すと、ここ首都のデリーでさえ、緩和ケアを提供している病院は2つか3つしかありません。

 それぐらいインドでは緩和ケアに関する施設も少なければ、かかわる人もまだまだ少ないといっていいでしょう。

 で、実は今回の緩和ケアチームというのは、どこかの病院が運営しているのではないんです。

 NGOが立ち上げたものなんです。

 NGOがノウハウを作って、医療従事者を訓練して、映画で映し出されているように、医師と看護師とカウンセラーがチームとなって、死期が迫ってる方々を訪問するという方式をとっている。

 NGOの取り組みなんです。

 このNGOは25年前からこの活動をしていて、はじめたのは女性です。彼女はインドの緩和ケアのパイオニア的存在です。

 なぜ、彼女は緩和ケアを始めたかというと。自身ががんになってしまって。大変苦しい思いをしてなんとか命をとりとめたがんサバイバーなんです。

 そのときの経験から、心の支えになってくれる存在の必要性といったことを感じた。

 そこで『緩和ケア』の重要性を感じて、このNGOを立ち上げたようです。

 ですから、この緩和ケアは主にがん患者に向けたものになっています。

 いずれにしてもインドでは彼女たちのような『緩和ケア』の専門組織はまだまだ知られていないのです」

(※第二回に続く)

<ドキュメンタリー・ドリーム・ショー ‒‒山形in東京2022>ポスタービジュアル 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭
<ドキュメンタリー・ドリーム・ショー ‒‒山形in東京2022>ポスタービジュアル 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭

<ドキュメンタリー・ドリーム・ショー ‒‒山形in東京2022>

期間:2022年 11月5日[土]~11月26日[土](予定)

会場:新宿K's cinema(11月5日[土]~11月18日[金])

アテネ・フランセ文化センター(11月19日[土]~11月26日[土])

主催:シネマトリックス

詳しくは公式サイトへ → http://cinematrix.jp/dds2022/

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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