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サービス業の人間味が薄まることにならなければいいが

前屋毅フリージャーナリスト

日本の国内総生産(GDP)の約6割までを占める存在になってきているのが、サービス業である。それだけ農業や工業が衰退してきている、ということでもある。

ともかく、そうしたサービス業の成長にあわせて政府は、「生産性」を高めるための人材教育を急ぐようだ。サービス業の経営者から現場で働く人までを対象として専門教育を行う学部・学科を、2014年度から5年間で全国50大学に置く目標を設定するという。「近く閣議決定する新成長戦略に盛り込む」と『日本経済新聞』(6月20日付 電子版)が伝えている。

それが、ほんとうにサービス業の発展につながるのだろうか。サービス業は、人と接する業態である。そこで生産性ばかりを追求していくと、ややもすると「人と接している」という感覚が希薄になってしまう。生産性をあげるために客の回転率ばかり優先するあまり、飲食店での接客がぞんざいになる、といったことになりかねない。

さらに現在、サービス業の最大の課題は人件費となってきている。サービス業の最大のコストは賃金であり、これをいかに低く抑えるかで利益は大きく違ってくる。安い賃金で生産性を高める働き方を実現することが、大きな利益につながる。

ところが最近は、人手不足で賃金が急上昇している。人手が集まらず営業時間の短縮や閉店にまで追い込まれているところもあるくらいだ。

そういう状況のなかで、生産性を高めるための人材教育を急ぐという政府の意図はどこにあるのだろうか。賃金コストを抑えながら生産性を高めるための知識やテクニックをもつ人材を育てようとしているのだろうか。

工業は生産性を高める人材を育成することで、効率化が急激にすすんだ。それと同じことを、サービス業でもやろうとしているのだろうか。

言うまでもないが、サービスは物を大量生産するのとは違う。同じような考えで生産性をあげようとすれば、人を物と同じように扱うことにもなりかねない。人を人ともおもわない頭だけのサービスになる可能性もあるのだ。

そんなサービス業に発展できるはずもない。せっかく人材育成を目指すなら、人を物と同じではなく、人を人としてみるサービス業を発展させていくような人材づくりまで考慮したシステムづくりが必要だ。そこまで盛り込んだプランが、政府に期待できるだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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