ナウシカ実写版『ウィンド・プリンセス』にみる、アニメと実写の違い
『風の谷のナウシカ』の実写版が話題になっている。と言っても、ブラジル人監督クリス・テックスがオマージュとして作った映画で、製作に宮崎駿監督もスタジオジブリも関わっていない。
テックス監督はポケットマネーを投じ4年の歳月をかけたらしいが、お金儲けが目的ではないので無料公開されている。16分ちょっとの短編。まずは見てほしい。
↓題名は『ウィンド・プリンセス』(WIND PRINCESS)
どうだろう? YouTubeのコメント欄が絶賛の声にあふれるに相応しい出来栄えだと思うがどうか。
これを見てから、オリジナルの『風の谷のナウシカ』を久しぶりに見直し、何回か見比べながら見た。
わかったのは実写とアニメの違い。違いから見えてきたのは実写ならではの難しさだ。この短編から学んだことを書いていく。
■アニメの真似をすればリアリズムを失う
例えばナウシカの服の質感が違う。ここから何がわかるか?
アニメ版はより軽そうで伸縮自在に見える。素材的に近いのはポリエステルだろうか。実写版の方は革、バックスキンでゴワゴワした感じ。素材の違いが色味にも反映され、アニメ版は明るい青だが実写版は黒っぽい青になっている。
これ、面白いことに実写版の方がリアリズムがあるのだ。
オリジナルのコピーを作るなら、化繊で色も明るくした方がいい。が、砂漠での戦闘による耐久性、手作りであるとするなら皮革が自然だ。化繊にしていたら、昔の戦隊もののユニフォームのようなチャチなものになっていただろう。
ただ、革にしたことで失われたものがある。
スカートのはためきだ。本家にもオマージュにも「風」という単語が入っている。スカートが揺れることは、風を表現するための重要な道具になっていた。革だと固いし、実写の方はスカートの丈も短い。よって、バタバタと揺れにくい。
揺れにくいのは髪の毛もそうだ。
アニメではヘルメットから髪の毛が出ていて、これが常に揺れていて風を表現していた。だが、実写では出ていないので、風が伝わりにくい。
これ、私が監督なら女優の髪をもっと長くしていた。ヘルメットを脱ぐとワサっとたおやかな髪が出てきて激しく風に舞うイメージ。オリジナルのナウシカ像を変えてしまうかもしれないが、そのマイナスよりも風を表現できるプラスの方が大きいと思う。
■実写で生まれる重力。リアルの重さ
実写版には、ああ地球って重力があるのだな、と感じさせられた。信号弾を撃つライフル銃は重そうで片手で持つには大変そうだったし、砂に足を取られてもっそりと走る感じになる。アニメのように軽やかに躍動感たっぷりには動けない。
だけど、これこそがリアルなのだ。
実写なんだから物には重さがある。重力と戦いながら人は立っているし、物を持っている。アニメでは気にならなかったディテールだ。
重力があるから女優にとっても撮影チームにとっても重労働になる。オームの死体の一部を実物大で作って女優は実際によじ登らないといけないし、撮影チームは実物大の飛行機メーヴェを持ち上げて飛んでいるような姿勢を取らせなくてはならない。
↓このビデオでは撮影の裏側を見ることができる
飛行シーンがやはり最大の難関だったと思う。
機体を持ち上げて左右に揺らし、女優の体も揺れる。姿勢も大事で、足がピンと伸びていることで、もの凄いスピードの飛行物に引っ張られている感が出る。
これ、横から撮影するんじゃなくて、女優をぶら下げて縦に撮った方が足が伸びて姿勢が良くなるんじゃないか、と思ったが、そんなことはとっくに提案済み、却下済みだろう。
すべてが思うようにはならない。制限だらけの中で工夫するのが自主映画だ。
■宮崎駿監督に会うのなら……
日本へ行って宮崎駿監督に会うのが夢だという。勝手な想像だが、動画の再生数やいいね!の数では彼は会わないと思う。会うとすれば同じ映画監督として敬意を表して会うのではないか。
宮崎監督は代償を求めない愛のエネルギーで突き進んできた人だ。愛のために私産を投げ打つ姿勢は、苦労していた自身の若い時の姿にも重なる。愛にほだされるかもしれない。
クリス・テックス監督の夢が叶うことを祈っている。
※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭