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「シリア革命」で息子4人を失った老婆が、残された最後の息子の釈放をアル=カーイダに懇願

青山弘之東京外国語大学 教授
Ebaa News、2020年2月23日

息子の釈放を懇願する老婆

シリアのネット活動家らは5月12日、SNSを通じて、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者に息子の釈放を懇願する老婆のビデオ・メッセージを拡散した。

ハートゥーン・スワイリーヤを名乗るこの老婆は、メッセージのなかで、4人の息子を「シリア革命」で亡くし、残る5番目の息子がシャーム解放機構によって、罪状を明らかにされないまま逮捕・拘束されていると語った。

拘束されている息子の名前はラーイド・スルターニー。

夫に先立たれ、4人の息子を失ったハートゥーンさんにとって、ラーイドさんは唯一の働き手で、彼女はジャウラーニー指導者にこう懇願した。

私はあなた(ジャウラーニー指導者)に息子のラーイドを恩赦して欲しいのです。私はアッラーに助けを求め、それからあなたに助けを求めます。私にはアッラー以外に糧を得る術がなくなってしまっています。『私の仕事を楽にして下さい』(コーラン)。

シャーム解放機構の対応

イドリブ県で「シリア革命」の主導者を自認するシャーム解放機構は、参加の治安機関が逮捕・拘束したいかなる容疑者の容疑も、司法当局の許可なくして公表しないとの姿勢を示してきた。

だが、ハートゥーンさんのビデオ・メッセージが拡散されたのを受けて、5月13日に広報関係局が異例の声明を出し、ラーイドさんが、道路封鎖、略奪強盗の容疑で審理を受けており、シャーム解放機構が管理する刑務所に収監されていると発表した。

声明はまた、「シリア革命」に参加して死亡したという4人の息子のうちの3人についても、窃盗団のメンバーで、道路封鎖に関与、シャーム自由人イスラーム運動によって殺害された12人のメンバーのなかに含まれていたと付言した。

シャーム自由人イスラーム運動は、トルコが後援する国民解放戦線(国民軍)を主導する武装集団の一つで、シャーム解放機構と同じくアル=カーイダの系譜を汲むが、自由シリア軍を自称している。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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