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新生シリア軍の幹部士官を独占したシャーム解放機構(シリアのアル=カーイダ)と外国人過激派

青山弘之東京外国語大学 教授
Telegram (@syriafree25)、2024年12月24日

シリアのバッシャール・アサド政権を崩壊に追い込んだシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線、「シリアのアル=カーイダ」)が主導する旧反体制派が、新生シリア軍の創設に向けた動きを始動した。

新生シリア軍の幹部士官任命

シリア軍事作戦総司令部(旧「攻撃抑止」軍事司令部)の総司令官を名乗るアフマド・シャルア(シャーム解放機構指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー)は12月24日に「革命諸派」と会合を開き、すべての武装組織を解体し、国防省のもとに統合することで合意した。そして4日後の12月28日、シャルア司令官は決定第8号を発出し、新生シリア軍を指揮する幹部士官を任命した。

「シリア・アラブ共和国・軍武装部隊総司令部・国防省」が発表した同決定の内容は以下の通りである。

シリア・アラブ共和国
軍武装部隊総司令部
国防省

慈悲深く慈悲あまねきアッラーの御名において

至高なる国益に基づき、軍武装部隊の発展と近代化を推進し、安全と安定の確保を図り、軍の任務の要件に応じて、最高水準の効率性と組織力を達成するため、また信念と献身の精神で宗教と祖国に奉仕し、これを守り続け、すべての階層と階級へのシリア・アラブ軍の能力に対する信頼を強化し、課題に立ち向かい、勝利を達成するため、
以下を決定する。

決定第8号

第1条
以下の名前の記された士官を「少将」に昇格する。
ムルハフ・アフマド・アブー・カスラ
アリー・ヌールッディーン・ナアサーン

第2条
以下の名前の記された士官を「准将」に昇格する。
ムハンマド・ハイル・ハサン・シュアイブ
アブドゥッラフマーン・フサイン・ハティーブ
アブドゥルアズィーズ・ダーウード・フダービルディー
アブドゥー・ムハンマド・サルハーン
ウマル・ムハンマド・ジャフタシー

第3条
以下の名前の記された士官を「大佐」に昇格する。
アフマド・マフムード・ルズーク
アラー・ムハンマド・アブドゥルバーキー
マフムード・ファウズィー・ハーミディー
ナシュワーン・ムハンマド・ハンザル
ムハンマド・フセイン・ハーッジ・アリー
マウラーン・タルスーン・アブドゥッサマド
ハイサム・ハーリド・アリー
アブドゥル・サムリーズ・ヤシャーリー
ウサーマ・マイーン・カッザ
サイフッディーン・マアムール・ムハンマド・タージーリー
ウサーマ・アワード・フサイン
ムハンマド・アブドゥッラフマーン・シャイフ・ムハンマド
ハムザ・アブドゥンナースィル・ハミーディー
アブドゥルカーディル・マフムード・ターフーシュ
ズィヤード・ムハンマド・ハールーフ
アブドゥッラティーフ・アブドゥルカリーム・サラーマ
ムアーウィヤ・イッズッディーン・サアドッディーン
ハサン・ムハンマド・アブドゥルガニー
フサイン・アブドゥッラー・ウバイド
イブニヤーン・アフマド・ハリーリー
ハーリド・ムハンマド・ハラビー
アブドゥッサラーム・ヤースィーン・アフマド
アキール・ムハンマド・アーミル
アムジャド・ムハンマド・ジャースィム
アフマド・アブドゥルシャーミー
アシュハド・アフマド・サリービー
ムハンマド・スライマーン・ハティーブ
アースィム・ラーシド・ハワーリー
ムニール・ムナウワル・シャイフ・ジュムア
スフィヤーン・ムハンマド・シャイフ・サーリフ
アフマド・ムハンマド・ジャースィム
アフマド・ハサン・ナークーフ
ジャミール・シャハーダ・サーリフ
ムハンマド・ハーリド・ハリーフ
ムハンマド・ディヤー・サーリフ・タッハーン
アフマド・マフルース・ハーリド・ダルウィーシュ
アフマド・イーサー・シャイフ
アフマド・ムハンマド・リズク
ムハンマド・アクラマ・マンスール
ズーカルナイン・ズヌール・バスル・アブドゥルハミード
ムハンマド・ハーリド・バユーシュ
ターリク・ムハンマド・カマール・サウラーク

第4条
本決定を関係者に通知し、2025年1月1日より実施するものとする。

総司令官 アフマド・シャラア
ダマスカス、2024年12月28日

決定第8号(SANA、2024年12月29日)
決定第8号(SANA、2024年12月29日)

誰が大将になるか?

旧シリア軍では、少将の上に中将、一等中将、大将という階級があった。大将は、大統領に与えられる階級で、シリア軍武装部隊総司令部の司令官を兼務していたハーフィズ・アサド元大統領、バッシャール・アサド大統領が務めていた。中将(および一等中将)は、シリア軍には存在しない階級だったが、ハーフィズ・アサド元大統領の盟友で、32年にわたり国防大臣を務めたムスタファー・トゥラースを他の将官(少将、准将)、そして参謀長(中将)より上位に位置づけるために設けられていた。

新生シリア軍においては少将が現時点では最上位と位置づけられている。だが、シリア軍事作戦総司令部の司令官であるシャルアが上位の階級に就くことは確実だと思われる。

将官を独占したシャーム解放機構

新生シリア軍は、決定第8号に名前が挙がっている49人の士官のもとで創設、編成されていることになる。だが、その顔ぶれから「シリア国民の軍」としての様相を感じ取ることは困難である。

第1の理由は、7人の将官のほぼ全員がシャーム解放機構の幹部であることだ。

少将に任命された2人のうち、ムルハフ・アフマド・アブー・カスラは、12月21日に暫定国防大臣に任命された人物だ。ハマー県ハルファーヤー市の出身(生年は不明)で、「アブー・ハサン・ハマウィー」、「アブー・ハサン600」の別名で知られていたシャーム解放機構の幹部の1人だ。長らくシャーム解放機構の軍事部門司令官を務めていたが、2024年初めからシリア北西部各所で続いていた同機構に対する抗議デモへの対応をめぐる指導部内の意見対立が原因で2024年6月25日に解任されていた人物ある。

アブー・カスラ(Aljazeera、2024年12月22日)
アブー・カスラ(Aljazeera、2024年12月22日)

もう1人の少将であるアリー・ヌールッディーン・ナアサーンは軍武装部隊の参謀長に任命されていた人物である。ハマー県タイバト・イマーム市の出身(生年は不明)で、「アブー・ハムザ」の別名で知られていた離反士官で、アブー・カスラと同じく、シャーム解放機構の幹部の1人である。

ナアサーン(drbtmyz.com)
ナアサーン(drbtmyz.com)

准将に任命された5人のうち、アブドゥルアズィーズ・ダーウード・フダービルディーを除く4人が、シャーム解放機構の幹部である。

一方、大佐に任命された42人のうち、シャーム解放機構のメンバーでないことが明らかなのは、イッザ軍(トルコの支援を受け、シャーム解放機構とともに「決戦」作戦司令室を主導してきた国民解放戦線に所属する組織)司令官のジャミール・シャハーダ・サーリフ、シャーム解放機構から分離した自由人(アフラール)軍司令官のムハンマド・ディヤー・サーリフ・タッハーン、シャームの鷹旅団(国民解放戦線に所属する組織)司令官のアフマド・イーサー・シャイフ、自由イドリブ軍(国民解放戦線に所属する組織)司令官のムハンマド・ハーリド・バユーシュの4人に過ぎない。

シャルア司令官は12月29日、アラビーヤ・チャンネルのインタビューに応じ、そのなかで、ムハンマド・バシール暫定内閣がシャーム解放機構の幹部やシリア救国内閣の閣僚によって独占されていることについて、以下のように述べている。

現在の任命形態は、現段階の必要性によるもので、誰かを排除するためのものではない…。この時期における配分(権力の分配)を行えば、移行プロセスを破壊することになるだろう。

この発言の是非はともかく、シャーム解放機構が新生シリア軍の指揮権を事実上独占していることは、将官の顔ぶれから一目瞭然である。

外国人過激派の登用

「シリア国民の軍」としての様相を感じ取ることが困難な第2の、そしてより深刻な理由は、外国人が少なからず含まれている点である。

5人の准将のうち、シリア救国内閣軍事士官学校創設者(2021年創設)であるムハンマド・ハイル・ハサン・シュアイブは、「アブー・ハイル・タフタナーズ」の別名で知られるシリア人である。また、アブドゥー・ムハンマド・サルハーンも、ダマスカス郊外県グータ地方出身で、「アブー・イサーム・グータ」の別名で知られ、2010年代後半に東グータ地方の司令官(アミール)を務めていた。

しかし、残りの3人はいずれも外国人である。

アブドゥッラフマーン・フサイン・ハティーブはヨルダン国籍のパレスチナ人である。「アブー・フサイン・ウルドゥンニー」の別名で知られている彼は、ヨルダン大学医学部を卒業後、2013年にシリアに渡り、ヌスラ戦線に加わった。シャーム解放機構内では、アブー・カスラとともに軍事評議会のメンバーとして、反体制武装組織諸派間の問題の処理を担当してきた人物である。

アブドゥルアズィーズ・ダーウード・フダービルディーは、トルキスタン人、すなわち中国新疆ウイグル自治区出身者(ウィグル人)で、「アブー・ムハンマド・トルキスターン(あるいはトルキスターニー)」という別名で知られている。シャーム解放機構と長らく共闘関係にあるアル=カーイダ系組織のトルキスタン・イスラーム党の司令官である。

そして、ウマル・ムハンマド・ジャフタシーは、トルコ人で、シャーム解放機構の軍事部門を統括してきた人物で、「ムフタール・トゥルキー」という別名で知られている。

大佐に任命された42人のなかにも、外国人が少なからず含まれている。そのなかの筆頭がアブドゥル・サムリーズ・ヤシャーリーである。「アブー・カターダ・アルバーニー」、「アブドゥルジャシャーリー」といった別名で知られているヤシャーリーは、1976年生まれ、北マケドニアの首都スコピエ出身のアルバニア人で、2012年にシリアに渡り、イドリブ県でアルバニア人、コソボ人、マケドニア人、セルビア人からなる「アルバニア人グループ」結成した人物である。2016年に米財務省は、シリアのアル=カーイダとつながりがあるとして彼をテロリスト「特別指定国民」(SDN)に指定している。

また、マウラーン・タルスーン・アブドゥッサマドはタジキスタン人、アブドゥッサラーム・ヤースィーン・アフマドは中国人(ウィグル人)、アラー・ムハンマド・アブドゥルバーキーはエジプト人、イブニヤーン・アフマド・ハリーリーはヨルダン人である。

なお、49人の士官のうち、「テロリスト」の指定を受けているのは、アブドゥル・サムリーズ・ヤシャーリー1人だけである。だが、12月26日に総合諜報機関長官に任命されたアナス・ハッターブもまた、米国によって2012年12月にSDN、2014年に国連安保理アル=カーイダ制裁委員会によってテロリストに指定されている。「アブー・アフマド・ルクーズ」という別名で知られていた彼は、1986年生まれ、ダマスカス郊外県ジャイルード市出身。ヌスラ戦線創設者の1人で、シャーム解放機構の治安部門を統括、総合治安機関の長官を務めてきたシャルア司令官の側近の1人と目されている。

ハイジャックされていた「シリア革命」

「シリア革命」は、自由と尊厳、そして民主主義を希求するシリア人自身の成果であると信じたい。しかし、バッシャール・アサド政権打倒という軍事的論功行賞の結果として選ばれたと見られる新生シリア軍の士官らの顔ぶれを見ると、「シリア革命」が、その歓喜や称賛の影で、国際テロリストを含む外国人過激派によってハイジャックされ、シリア人の力の及ばない外部の力が存在していることに改めて気づかされる。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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