宗教的寛容を掲げるシリア軍事作戦総司令部(HTS)の統治に対する不安と疑念が偽情報をきっかけにデモに
バッシャール・アサド政権が崩壊して初めて迎えて2024年12月25日のクリスマスの夜――シリア各地のキリスト教地区では、クリスマスツリーやイルミネーションで飾られ、例年通りの賑やかな光景が広がっていた。
緊張した空気に包まれたクリスマス
だが、その一方で、街は緊張した空気に包まれていた。2日前の12月21日、ハマー県のサラミーヤ市では、8人の外国人がクリスマスツリーに放火するという事件が発生していた。ムハンマド・バシール暫定内閣の内務省が所轄する総合治安局(シャーム解放機構(HTS)の総合治安機関)は12月23日、放火犯を逮捕し、クリスマスツリーは修復された。だが、現場に配置されていた総合治安局の要員が放火現場を傍観する様子は、新政権の過激な狂信主義への疑念をさらに深める結果となった。
拡散された偽動画
12月25日にSNSなどで拡散された一本の動画が、この疑念を怒りへと変える引き金となった。ビデオには、アレッポ県アレッポ市のマイサルーン地区にあるアラウィー派のシャイフ・アビー・アブドゥッラー・フサイン・ブン・ハムダーン・ハスィービー廟が襲撃を受ける様子が映し出されていたのだ。
この動画に関して、内務省は、アレッポ市解放時の正体不明のグループによる襲撃を撮影したもので、こうした情報の拡散がシリア国民の間に不和を助長しようとするものだとする広報局声明を発表した。また、ハスィービー廟でシャイフを務めるアンマール・ムハンマド師とアフマド・ビラール師も声明を出し、ビデオが12月5日に撮影されたものであることを明らかにした。
しかし、これをきっかけとして、住民らが各地で抗議デモを展開した
デモが発生したのは、ラタキア県のラタキア市、カルダーハ市、ジャブラ市、タルトゥース県のタルトゥース市、バーニヤース市、タルトゥース県のサーフィーター市や複数の村、ヒムス県ヒムス市のザフラー地区、ハダーラ通り、フドリー地区、ワーディー・ザハブ地区、ザフラー地区、サビール地区、アッバースィーヤ地区、ムハージリーン地区、ダマスカス県のマッザ区、ハマー県のサルハブ市など。いずれもアラウィー派が多くする都市や街区だった。
デモ参加者は、ハウィービー廟の襲撃犯の処罰に加えて、アフマド・シャルア(アブー・ムハンマド・ジャウラーニー)を司令官とするシリア軍事作戦総司令部に統合されている外国人戦闘員の退去、ダマスカス郊外県のアドラー刑務所やハマー県のハマー刑務所に収監されているシリア軍将兵の釈放、「個人の身分」(アラウィー派への帰属)を理由とする窃盗や暴行などの取り締まりの強化、そして治安維持を求めた。
このうち、ヒムス市ではデモ参加者に向けて、総合治安局が発砲し、1人が死亡、5人が負傷した(総合治安局が発砲したか確認できないとの報道もある)。
機関銃を携行し、覆面をした迷彩服姿の戦闘員や治安要員が各地に配置され、厳戒態勢が敷かれた。
新政権は、シャルア司令官ら幹部が宗教寛容を喧伝し、マイノリティ宗派を抑圧することはない強調している。また、ハスィービー廟襲撃の動画については、イランによる煽動だとの主張がSNSなどで拡散されている。
しかし、シリア軍事作戦総司令部に所属する武装集団の戦闘員や総合治安局によるマイノリティ宗派の住民に対する暴行や殺人が頻発し、治安が悪化するなかで、アル=カーイダの流れを汲むとされるシリア軍事作戦総司令部による新たな統治に対する不安は払しょくされるどころか、日に日に増大している。