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中高生イレブンがプロチームを立て続けに撃破!メニーナの快進撃で盛り上がる皇后杯がアツい

松原渓スポーツジャーナリスト
初の4強進出を決めた日テレ・東京ヴェルディメニーナ(写真提供:東京ヴェルディ)

【WEリーグ勢を連破】

 皇后杯で番狂わせが続いている。

 中高生選手たちで構成される日テレ・東京ヴェルディメニーナが、プロのWEリーグで首位を独走するINAC神戸レオネッサを2-1で破った。

 それだけでも衝撃的な結果だが、12月29日の準々決勝では、同じくWEリーグの大宮アルディージャVENTUSに4-0で大勝し、初のベスト4進出を決めたのだ。先発メンバーの平均年齢はなんと16.3歳。

 しかも、ほぼベストに近い布陣で臨んでいたINAC神戸や大宮に対し、メニーナが自分たちのサッカースタイルを貫いて勝利を引き寄せたのだから驚きは増す。

 大宮戦ではテンポよくボールを動かしてスペースを作り、ワンタッチパスやドリブルなど、コンビネーションと個々の武器を効果的に使ってゴールに迫った。攻撃パターンが多彩で、4ゴールはすべて異なる形だった。

 若さゆえのスタミナに加えて、個々が確かな戦術眼とスキルを持っているから、終盤になってもプレーの質が落ちない。大宮の選手たちにとって、後半は悪夢のような45分間だったかもしれない。

 大量得点の火蓋を切ったのはFW土方麻椰(ひじかた・まや)だ。1回戦からの4試合すべてでゴールを決めてきたエースは、ドリブルからゴール左隅に鮮烈なミドルシュートを決め、チームの勢いを加速させた。

土方摩椰(写真提供:東京ヴェルディ)
土方摩椰(写真提供:東京ヴェルディ)

 また、4ゴール中3つのゴールに絡んだのがFW松永未夢(まつなが・みゆ)。左足の独特のボールタッチとスピードで異彩を放った。松永は中学3年生(15歳)だ。

「代表選手もいる(相手)チームにどうやって戦うかとか、自分のどのようなプレーが通用するのかを考えてできることが、とっても楽しいです」

 試合後に松永が語った率直な感想からは、格上相手のチャレンジを楽しんでいる様子が伝わってくる。

松永未夢(写真提供:東京ヴェルディ)
松永未夢(写真提供:東京ヴェルディ)

 メニーナは、WEリーグの日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織で、日本代表選手を数多く輩出してきた名門だ。皇后杯は18歳以下の選手たちが中心となって戦っているが、15歳以下の年代で日本一を決める全日本U-15女子サッカー選手権大会(決勝が12月27日に行われた)でも、優勝している。

13歳から18歳までの選手たちが揃う(写真提供:東京ヴェルディ)
13歳から18歳までの選手たちが揃う(写真提供:東京ヴェルディ)

 メニーナを率いる坂口佳祐監督は、皇后杯でプロチームを立て続けに破った選手たちを称えつつ、警鐘も鳴らした。

「WEリーグの相手に結果を残して自信になったと思いますが、『自分たちが上手い、強い』と思わせてしまったらそこで成長が止まってしまうと思います。この先にはベレーザがあって、なでしこジャパンがあって、世界がある。そこを目指してサッカーをして欲しいので、褒めてあげたいですが、勝ったからこそ正しく指導してあげないと選手の未来が危なくなるのでは、とも思います」

 周囲の期待を上回る大勝は、一方で目に見えない心の隙を生むかもしれない。だからこそ、坂口監督は「勝ち負け以上に大事なことがあります」と言い切る。 

 メニーナのサッカーのコンセプトや指導の方向性は、トップチームのベレーザと共通している。

 貫いてきたのは、「ピッチに立つ選手たちが相手の出方を見ながら、主体的にサッカーをする」ことだ。

 ベレーザのコーチが練習を見にくることも、メニーナの選手がベレーザの練習に参加することもあるという。日々、最高のお手本を身近に見ていることで、選手たちの意識は自然と高まっていく。それは、他のチームにとっても一つの指針となるだろう。

 坂口監督は環境面のアドバンテージを改めて強調した。

「女性アスリートは体の成長やピークが早いので、早い時期からトップレベルに近い環境で試合や練習をできる機会があれば、選手たちの成長を早めることにもつながります。多くの選手がそういう機会を得られるようになればいいなと思っています」

坂口佳祐監督(写真提供:東京ヴェルディ)
坂口佳祐監督(写真提供:東京ヴェルディ)

 準決勝でメニーナとの”姉妹対決”が2年連続で実現(昨年は2回戦で対戦。ベレーザが3-1で勝利)する可能性もあったが、叶わなかった。ベレーザが準々決勝でジェフユナイテッド市原・千葉レディースに0-3で敗れたためだ。ベレーザの皇后杯の連覇は「4」でストップ。メニーナは準決勝で、9試合負けなしと絶好調の千葉と対戦することとなった。

【ユース出身者の活躍が光る大会に】

 プロチームを破って4強に進出したのは、メニーナだけではない。

 なでしこリーグのセレッソ大阪堺レディースは、WEリーグのノジマステラ神奈川相模原(3-2)とアルビレックス新潟レディース(1-0)を破って4強に進出した。C大阪堺もメニーナと同じく、自チームで育成した選手たちが軸となっていて、高校・大学生が主体。新潟戦の先発メンバーの平均年齢は19歳だった。

 WEリーグからは千葉と三菱重工浦和レッズレディースが4強に駒を進めている。両者とも、育成に力を入れて実績を残してきたクラブだ。所属選手のうち、ユース出身者の割合は約9割のベレーザに次いで浦和が6割超、千葉が4割超と、他クラブに比べて多くなっている。

 つまり、今大会は各チームの“育成力”に光が当たった大会とも言える。

 千葉はベレーザ戦で、左サイドのDF市瀬千里、DF藤代真帆、MF鴨川実歩のユースラインが安定したプレーを見せた。

 勝利を引き寄せる2点目を決めた藤代にそのホットラインの強みを聞くと、こう答えてくれた。

「ユースから長くやってきた分、分かり合えていることがありますし、年齢が上の選手でも(試合中の要求などを)言いやすい部分があるので、それがいいプレーにもつながっていると思います」

 10代からトップレベルの厳しい環境下で技術や自分の武器を磨いてきた選手たちは、他のチームに移籍しても適応力を発揮している。

【WEリーグ勢の苦戦】

 プロチームが次々に敗れる番狂わせは、WEリーグ勢が置かれた厳しい状況も明らかにした。苦戦の要因として考えられるのが、コンディションの差だ。

 リーグ戦から試合間隔が1カ月以上空いたため、WEリーグの選手たちからは「試合勘がなく難しかった」という声が聞こえてきた。また、11月末に行われた代表の欧州遠征に浦和とベレーザは最多5名ずつを送り出し、主力が合流してからの練習日数が1週間強しかなかった。

 一方、C大阪堺やメニーナは春からシーズンを戦い、皇后杯は序盤からトーナメントを勝ち上がってきたため、コンスタントに試合をこなしてきていた。その差は大きかったはずだ。

 準決勝は1月5日に行われ、決勝(2月27日)までは再び1カ月半以上空く。1月20日からインドで行われるAFC女子アジアカップがあるためだ。その間、カップ戦などは予定されていない。厳冬期だけにケガのリスクも高まり、心配だ。

 こうした状況を踏まえれば、来季以降は大会の日程や、アマチュア(春開幕)とプロ(秋開幕)でシーズンが異なる現状についての見直しも必要ではないだろうか。

 いずれにしても、準々決勝から1週間の間隔で行われる準決勝は、浦和や千葉も良いコンディション下での好ゲームが期待できる。

 対戦カードは、浦和対C大阪堺(16時キックオフ)、メニーナ対千葉(19時キックオフ)の2試合。

 10代の選手たちが躍動するC大阪堺とメニーナは、更なる成長の階段を駆け上がることができるか。それとも、浦和と千葉がプロの意地を見せるか。見どころ満載の2試合となりそうだ。

 試合はNHK-BS1で生中継される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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