かんぽ生命の「不適切販売」は完全なる「ブラック営業」です。
■「ブラック営業」とは何か? 「ブラック企業」と比べる
「ノルマ達成のためなら、お客様の不利益となる商材でも平気で販売する」
このような営業を「ブラック営業」と私は定義しています。私は、企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントですから、声を大にして言いたい。
「ブラック営業」にならなくても、目標ぐらいは達成できます。
現に、今回問題となったかんぽ生命の営業の中にも、お客様のことをマジメに考え、目標を達成している営業は大勢いるのですから。マジメな営業とブラック営業との決定的な違いは「信頼関係」です(後述します)。
いっぽう、ブラック企業とは何か。ブラック営業と混同されないためにも、ここで改めて紹介しておきます。
ブラック企業とは、「過重労働・違法労働などが横行した、離職率の高い企業」のことを指します。ブラック企業は「企業」を指す。ブラック営業は「手法」を指しています。
■ かんぽ生命の不適切販売は「ブラック営業」か?
かんぽ生命の不適切販売の実態を整理します。このたび発覚した、かんぽ生命と日本郵便がお客様に不利益を与えた契約件数は、なんと9万件にのぼると言われています。(2014年4月からの5年分のみ)
その主な内訳は、以下の2種類
・高額な保険への乗り換えを勧誘した
・新旧契約を重複して結ばせ、保険料を二重に徴収した
(※ 問題となっている、健康状態などを理由に再契約できず、無保険状態のお客様を作ったケースは『不適切販売』とみなさず、除外)
営業が販売手数料を考えて営業活動をするのは当然。しかし、お客様に不利益となる乗り換え勧誘は、保険業法違反です。ですから、今回のケースは、完全なるブラック営業です。
そもそも営業ノルマが「100」だとして、「5」の販売手数料を「20」売れば達成できるな、と考えることがダメなのです。
ニーズに合う商材をお客様ごとに提案し、その手数料が「3」なら「3」。「4」なら「4」。「1」なら「1」……。このように報酬となる手数料を積み重ねて、最終的にノルマの「100」に達するよう営業活動をすればいいのです。
「それができるなら誰でもやる」――という声が聞こえてきそうですが、当然にできます。
ウサギとカメが競走し、最後にカメが勝つ「ウサギとカメ」の話と同じ。
真摯に、コツコツお客様の利益に向き合っていれば、営業はお客様と正しい信頼関係が構築されていきます。そうすることで、お客様がお客様を紹介してくれるようになるのです。地道に、お客様との関係を維持することでノルマは達成されていくのです。
したがって、販売手数料から逆算して、都合のいい保険商品を提案するのはダメに決まっています。目先の金に目がくらみ、ラクして結果を出そうとしつづけるから、こうなるのです。
まさに、ブラック営業がやる手口そのものです。
■「ブラック営業」と「詐欺」の違い
さすがに、ブラック営業と詐欺は違います。詐欺は、他者(お客様)を騙して、金品を奪ったり、損害を与えることです。ですから犯罪行為と呼ばれます。
もちろん、かんぽ生命、日本郵便は詐欺集団ではないので、今回の販売手法は詐欺ではありません。ただ、「詐欺だ」と指摘されても仕方のないことをしていたのは事実です。
たとえば、契約がとれそうな高齢者を狙って訪問し、相続対策をうたって、高額な保険へと乗り換えを勧誘する手口は、この一例です。営業は、ゆうちょ銀行の残高を確認したうえで勧誘するため、悪質と言えます。
手数料を稼ぐためには手段を選ばないという姿勢は、これまで積み上げてきた信頼資産を著しく壊したことでしょう。
近年、日本郵便の収益に陰りが出はじめ、かんぽ生命の「販売手数料」をアテにしはじめたことが問題の本質です。
「易きに流れる」とは、まさにこのこと。
■ 著名な大企業は「ブラック営業」をやめよ
身近に感じていた局員が勧めるものですから、提案されるがままに受け入れてしまうお客様(とくに高齢者)は多かったことでしょう。
だからこそ、この「裏切り行為」に多くの人が憤りを覚えています。金融庁が処分し、徹底調査に乗り込む姿勢を出したのもうなずけます。
近年、メガバンク、地銀などが高齢者を対象に、手数料の高い「投資信託」を積極的に勧めていることも、金融庁は問題視しています。投資信託等の販売において、「顧客本位」の取り組みをしているか定期的にモニタリングを実施しはじめています。
悪徳とレッテルを貼られるようになった「リフォーム業者」と同様です。金融機関はブラック営業を改めないと、いくら著名な大企業とはいえ、今後は若くて優秀な人財を確保することはできなくなることでしょう。ますます経営は厳しくなります。