日本初!2輪の「ル・マン24時間レース」完全生中継が実現。日本チーム、TSRの連覇なるか?
日テレG+(ジータス)が思い切った決断を行った。オートバイ耐久レースの世界選手権「FIM世界耐久選手権(EWC)」の2018-19年シーズン第2戦として開催される「第42回ル・マン24時間レース(24H Motos)」が25.5時間に渡って完全生中継で放送されることになった。
2輪のル・マン24時間・生中継は史上初!
フランスのル・マンで開催される「ル・マン24時間レース」。4輪は見たことがあるが、2輪は見たことがないという人がほとんどではないだろうか。それもそのはず、4輪の方はかつてテレビ朝日などが生中継し、現在はスポーツチャンネルの「J SPORTS」が24時間の完全生中継の放送を行なっているが、2輪の方は過去に日本国内のテレビで生中継された例がない。
今回放送を行うのは、夏の鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)を含む「FIM世界耐久選手権(EWC)」の放映権を獲得した日本テレビ放送網(日本テレビ)。同系列のスポーツチャンネル「日テレG+(ジータス)」ではスタート進行からゴール、表彰式までを完全生放送。また無料放送となる「BS日テレ」でも一部時間に限り放送される。そして、傘下のインターネット配信サービス「Hulu(フールー)」でも映像配信される。
「FIM世界耐久選手権(EWC)」に関しては昨年から同系列が「日テレG+(ジータス)」や「BS日テレ」でダイジェスト版の放送を行なっているが、生放送となると初めてだ。
本物のル・マンスタートが見れる!
2輪のル・マン24時間は公道区間を使う4輪とは違い、MotoGPフランスGPを開催する常設サーキット区間のブガッティ・サーキット(1周4.185km)を使って開催される。
その最大の特徴はやはり「ル・マン式スタート」だ。
スタート時刻になると同時にライダーが一斉にバイクに向かって走り、バイクにまたがってエンジンをスタートさせるという伝統のスタート方式だ。夏の鈴鹿8耐でも採用されるスタート方式で、2輪耐久レースでは定番となっている。
しかし、その名前のルーツは実は2輪ではなく、4輪のル・マン24時間レースにある。4輪もかつては同じ方式を採用していたが、シートベルト装備の時代になっても装着しないままスタートするドライバーが居たため、4輪ではこの方式は消滅。2輪だけで生き残った。
1923年に始まった4輪に対して、2輪は1978年からと歴史は浅いが、今回で42回目の大会を迎える伝統の大会になりつつある。ちなみに鈴鹿8耐も同じ年に1回目が開催された。
昨年は日本チームとしてTSRが初優勝
過去41回開催されたル・マン24時間で優勝を飾ったマシンは全て外国車だ。と言ってもこの表現はフランスでは外国車という視点。実は過去41回優勝を飾ってきたのは全て「日本車」なのである。
これまでの優勝回数を見てみると、最多はカワサキで13回、次いでホンダとスズキがそれぞれ12回、ヤマハが4回優勝している。全60台中、BMWやアプリリアなどのヨーロッパ車も出場しているが少数派。41年間、日本車ばかりが優勝しているレースでも昨年は7万6000人の観衆を集めたように、フランスでの人気は絶大だ。
そんな中、昨年は史上初めて日本国籍のチーム「F.C.C. TSR Honda France」(TSR/三重県・鈴鹿市)が2輪のル・マン24時間で優勝。2016年から参戦して3度目の挑戦で頂点に登りつめ、TSRはその勢いのまま「FIM世界耐久選手権」2017-18シーズンの年間王者に輝いた。この優勝でホンダの優勝回数はスズキに並ぶことになり、あと1回勝てば最多勝のカワサキに追いつくことになる。
また、TSRが参戦する以前には日本人ライダーが挑戦した例が多数ある。その中で最も輝かしい歴史を残したのが北川圭一(きたがわ・けいいち)で、2004年にル・マン24時間レースで日本人として初優勝。2005年、2006年には「FIM世界耐久選手権」の年間王者に輝いた。日本人で同選手権のチャンピオンになったのは北川だけだ。北川は今回の生放送で、現地のレポーターを務めることになっている。
TSR連覇へ!日本人選手として出口も参戦
「FIM世界耐久選手権」の新シーズンは年をまたいで開催であるため、すでに昨年の9月に「ボルドール24 時間レース」(フランス/ポールリカール)で開幕している。半年のブランクを経てのシーズン再開だ。
日本期待の「F.C.C. TSR Honda France」は昨シーズンまでライバルチームだった「GMT 94 YAMAHA」の撤退によりシートを喪失したマイク・ディ・メッリオ(フランス)をチームに迎え入れ、ジョシュ・フック(オーストラリア)、フレディ・フォーレイ(フランス)の新ラインナップになった。新しい組み合わせの3人ながら、開幕戦の「ボルドール24 時間レース」でサバイバルレースを巧みに走り抜いて優勝。獲得ポイントの多い24時間レースをまず一つ制した。
TSRは参戦当初は渡辺一馬、伊藤真一らの日本人選手を起用していたが、耐久の本場、フランスの文化に溶け込むことが勝利への近道と考えた藤井正和・総監督は近年、フランス人を中心にした外国人ライダーの編成を選択している。日本のワークスチームが参戦する最終戦・鈴鹿8耐ではワークスに近い待遇となるTSRに憧れるライダーは多く、フレディ・フォーレイやマイク・ディ・メッリオはチームからオファーしなくともライダー自らアプローチして来たという。
今やフランス人にとっても憧れのチームに成長したTSRは今大会で24時間レースに初めて現行型のホンダCBR1000RR SP2を投入。電子制御が大幅に進化したマシンは鈴鹿8耐など8時間レースでは実績があるが、24時間レースとなると信頼性の面では不安要素が残る。しかし、戦闘力が低い旧型でいつまでも安牌を取るレースを続けることは将来的には後退となるため、現行型の投入を決断。どのチーム、メーカーも電気系トラブルにいかに早く対処できるかが、現代24時間耐久レースのキーともなっており、今回もサバイバルレースになることは確実だ。
そして、日本人ライダーとしては「Webike Tati Team Trick Star」(カワサキZX-10R)から出口修(でぐち・おさむ)が参戦する。鶴田竜二(つるた・りゅうじ)が監督を務める鈴鹿8耐の人気チーム「トリックスター」は2016-17シーズンに日本チームとして年間参戦したが、昨シーズンは参戦を断念。今季からフランスの「Tati Team」とのコラボレーションで復帰した。
開幕戦のボルドール24時間は改造範囲が少ないSST(スーパーストック)クラスに参戦し、クラス2位表彰台獲得と好スタートを切ったが、総合でも8位という好成績だったため、今大会から総合優勝を争うEWCクラスにスイッチ。TSRと同じ舞台でル・マンの優勝を争うことになった。2016年にはボルドール24時間で3位表彰台にも上がった45歳のタフネスライダー、出口修はただ一人の日本人ライダーだ。
北川圭一が2000年代に「FIM世界耐久選手権」で活躍して以降、日本とシリーズとしての同選手権は繋がりが少なくなっていたこともあり、日本チームや日本人選手の数はごく少数だ。しかし、TSRがル・マンで優勝したことで、状況は一気に動き始めた。プライベーターとしての参戦ながらもメーカーが「FIM世界耐久選手権」に再び注目しているのも事実。グローバルなビジネス展開、支援活動がスタンダードになりつつあるモータースポーツ界で、今回のような24時間の完全・生中継の実施は大きな影響を与えるだろう。
日本勢の参戦は少ないが、まず、そんな状況なのに完全生中継が実施されることが画期的と言える。そして24時間の中継を見ながら想像力を膨らませて欲しい。まだ冬から春になったばかりのフランスで、寒い中、フリー走行を含めて30時間以上一睡もせずにレースをすることがいかに大変かを。2輪のル・マン24時間は、鈴鹿8耐とも4輪のル・マン24 時間とも次元が全く違う過酷なレースなのだ。
【第42回ル・マン24時間レース】
日程:2019年4月20日(土)午後3時〜21日(日)午後3時
場所:フランス、ル・マン ブガッティサーキット(1周4.185km)
※現地時間
【テレビ中継】
20日(土)21:50〜21日(日)23:00
21日(日)19:00〜22:54 (ゴールパート)
20日(土)21:45〜21日(日)23:00 (国際映像・英語コメンタリー)