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それでも「マスク」は新型コロナやインフルエンザなどの感染症「予防に効果」がある

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 新型コロナが5類へ移行してから感染者は減らず、インフルエンザも流行の兆しをみせている。この状況で取り沙汰されるのは、やはりマスク。マスク着用は新型コロナやインフルエンザの予防に効果があるのかないのか、はっきりしてきた。

マスクは効果あるのかないのか

 新型コロナが世界的なパンデミックになってから3年以上が経ち、社会や医療体制も新型コロナに立ち向かえる戦術を持つようになった。以前の生活や経済活動が戻り、過度な感染対策をしなくてもすむようになっている。

 一方、まだ新型コロナは完全な収束には至っておらず、感染者が大きく減っているとは言いがたい。さらに、インフルエンザが早くも流行の兆しをみせ、各地の学校では学級閉鎖や休校などが出始めている。

 人流抑制や時短などによって痛めつけられたコロナ禍のような感染対策に戻るわけにもいかないが、それでも新型コロナやインフルエンザのような感染症を少しでも拡大させないようにしなければならない。政府や行政も強いアナウンスを出せない状況で、いったいどうすればいいのか戸惑う人も多いだろう。

 コロナ禍では、政府や行政からの推奨アナウンスもあり、ほとんどの人がマスクを着用していた。その後、マスク着用は個人の判断にまかされるようになり、現状(2023年8月から9月)で電車内でのマスク着用率は3割から4割ほどだろう。コロナ禍でのマスク飲食のように、食事中にいちいちマスクを着脱している人は全く見かけなくなった。

 ネット上で交わされる議論などをみると、特に子どもの情操教育的な観点からマスクに強い拒否反応があるようだ。マスクの着用は個人の判断なのに、今度は逆の同調圧力が生じて公的な現場でマスク非着用の動きさえ出ている。

 マスクの感染防止効果については、今でも様々な議論がある。いったい、マスクはしたほうがいいのか、しなくてもかまわないのか、どうなのだろうか。

新型コロナもインフルエンザもマスクに効果あり

 結論から言えば、新型コロナウイルスやインフルエンザなどに、感染しない、感染させない、という点で、マスクの着用には一定の効果があることが明らかだ(※1)。

 例えば、WHOや香港大学などの研究グループが2020年4月に発表した論文(※2)によると、サージカルマスクを着用することで感染者から出る飛沫(5マイクロメートル以上、直径、以下同)やエアロゾル(5マイクロメートル以下)中のウイルスの検出が減ることがわかったという。

 この研究では、香港の一般外来を受診し、呼吸器感染症にかかっていない参加者を募集し、マスクをしているかしていないかで参加者のウイルスの排出の有無を比較したところ、マスクを着用した場合、呼気の飛沫中のインフルエンザウイルス、エアロゾル中の(新型コロナではない)季節性コロナウイルスの検出量が大きく減り、呼気飛沫中の季節性コロナウイルスの検出量が減少したことがわかった。

 例えば、飛沫で比較すると、季節性コロナウイルスはマスクなしでは10人中3人からウイルスが検出されたのにマスクありでは11人のうち、ウイルスが検出された人は一人もいなかった。また、インフルエンザウイルスはマスクなしでは23人中6人からウイルスが検出され、マスクありでは27人中1人からしかウイルスが検出されなかった。

この研究で使われたサージカルマスクと同じもの。Kimberly Clark社のHPより
この研究で使われたサージカルマスクと同じもの。Kimberly Clark社のHPより

 エアロゾルでの比較では、季節性コロナウイルスの場合、マスクなしでは10人中4人からウイルスが検出されたのに、マスクありでは11人のうち、ウイルスが検出された人はいなかった。また、インフルエンザウイルスはマスクなしでは23人中8人からウイルスが検出され、マスクありでは27人中6人からウイルスが検出された。

 このことから季節性コロナとインフルエンザに関して言えばマスクをすることで飛沫中のウイルスはかなり減り、エアロゾル中のウイルスは季節性コロナでウイルスが減ることがわかった。一般的な風邪症状を引き起こすライノウイルスについては、両者に大きな違いがなかったという。

 呼吸器感染症の病原体は、子どもの呼気からも排出される。10代前半の子どもを対象に米国で行われたマスクの研究によれば、サージカルマスクは特にクシャミによって排出される飛沫(5マイクロメートル以上)を約54%減少させたという(※3)。また、布マスクは子どもに人気だが、サージカルマスクよりも機能性で劣る。

 同じように、サージカルマスクの着用により、インフルエンザにかかった人の呼気中のウイルス量が約1/3になったという研究もある(※4)。これは2013年に発表された米国の研究グループによる研究で、特に5マイクロメートル以上の飛沫に効果があり、5マイクロメートル以下のエアロゾルでもウイルス量を減らす効果があるようだ。

マスクありなしで飛沫とエアロゾルのインフルエンザウイルス量を比較したグラフ。Via:D Milton, PLOS PATHOGENS, 2013
マスクありなしで飛沫とエアロゾルのインフルエンザウイルス量を比較したグラフ。Via:D Milton, PLOS PATHOGENS, 2013

 また、米国とドイツの研究グループが、過去のインフルエンザの流行時に人々がマスクを着用していたと仮定した場合のシミュレーションをした結果によれば、マスクの着用率が20%で着用の仕方がいい加減(45%)でもインフルエンザの感染を90%以上減らす効果があり、着用率が50%に上がって着用の仕方のいい加減度(35%)が下がってもインフルエンザの感染を95%以上減らす効果があることがわかったという(※5)。

マスクは不織布のものをしっかり着用する

 また、マスクを着用するかどうかは、健康状態、かかっている病気の種類、自身の社会的関係性などを考慮する必要がある。マスクには感染する確率を下げる利益があるが、呼吸が乱れたり社会生活に支障をきたすというリスクもある。政府や行政、公衆衛生当局は、個々人がマスクの着用の意思決定ができるように十分な情報を提供しなければならないだろう(※6)。

 マスク着用と感染症の拡大に関する研究では、参加者が適切にマスクを着用しているか、よくわからないという限界がある。単にマスクを着用していればいい、というものではなく、きちんと密着させなければ、比較したい両群の違いがわからなくなる。特に、日常生活をおくる子どもを含んだ地域社会の集団を対象にした研究で、どのようにマスク着用が行われているのかを評価するのはかなり難しい。

 マスクと顔の間からウイルスが入ってくることを完全に防ぐことができない場合、感染防御の効果はあまりないと主張する研究がある(※7)。マスクが効果を発揮するためには、マスクと顔の間から流入する空気を極力、抑えなければならず、マスクと顔の間をなるべく密着させなければ効果は低くなるからだ。

 新型コロナとインフルエンザが同時に流行しかねない状況では、マスクを着用し、入念な手洗いやうがいを励行し、屋内では小まめに換気をすることなどが基本的な感染対策として重要なのは間違いない(※8)。

 この中で簡単で効果的な対策はマスク着用だ。新型コロナでは、まだ症状が出ないか、症状が軽いうちに他者へ感染させるケースが多い。

 もちろん、周囲に人が少ない屋外、十分に換気ができていたり、人との距離が離れていて会話がない室内などでマスクの必要性は低い。マスク着用は個人の判断だから、ケースバイケースでつけるつけないを決めればいい。

 だが、せっかくマスクを着用するのなら、布マスクやウレタンマスクではなく不織布マスクを、顔にしっかり密着させて使ったほうがいいだろう(※9)。

※1-1:Derek K. Chu, et al., "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.395, Issue10242, P1973-1987, 27, June, 2020

※1-2:Jeremy Howard, et al., "An evidence review of face masks against COVID-19" PNAS, Vol.118 (4) e2014564118, 11, January, 2021

※1-3:Wei Deng, et al., "Masks for COVID-19" ADVANCED SCIENCE, Vol.9, Issue3, 25, January, 2022

※1-4:Zillur Rahaman, et al., "Face Masks to Combat Coronavirus(COVID-19) - Processing, Roles, Requirements, Efficacy, Risk and Sustainability" polymers, Vol.14(7), 1296, 14, March, 2022

※2:Nancy H. L. Leung, et al., "Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks" nature medicine, Vol.26, 676-680, 3, April, 2020

※3:Peter P. Moschovis, et al., "The effect of activity and face masks on exhaled particles in children" Pediatric Investigation, Vol.7, Issue2, 75-85, June, 2023

※4:Donald K. Milton, et al., "Influenza Virus Aerosols in Human Exhaled Breath: Particle Size, Culturability, and Effect of Surgical Masks" PLOS PATHOGENS, doi.org/10.1371/journal.ppat.1003205, 7, March, 2013

※5:Henri Froese, Angel G A. Prempeh, "Mask Use to Curtail Influenza in a Post-COVID-19 World: Modeling Study" JMIR Publications, Vol.3, No.2, 27, May, 2022

※6:Shervin Molayem, Carla Cruvinel Pontes, "Face Masks to Prevent COVID-19: A Critical Appraisal of Current Evidence" Journal of Oral Medicine and Dental Research, Vol.4, Issue1, 2023

※7:C Raina Maclntyre, Abrar Ahmad Chughtai, "Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings." BMJ, Vol.350, h694, 2015

※8:Harald Brussow, Sophie Zuber, "Can a combination of vaccination and face mask wearing contain the COVID-19 pandemic?" MICROBIAL BIOTECHNOLOGY, Vol.15, Issue3, 721-737, 28, December, 2021

※9:C Raina Maclntyre, et al., "A cluster randomized trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers" BMJ Open, 5:e0006577, 22, April, 2015

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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