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民主党代表選で問われるもの:総選挙敗北の教訓

竹中治堅政策研究大学院大学教授

民主党史の中の総選挙敗北

12月25日に民主党代表選が行われる予定である。代表選は民主党の再生をかけたものとなる。その際、民主党が総選挙で獲得議席わずか57という大敗をした理由を把握して新代表を選出することが重要である。

壊滅的大敗について数多くの論評がなされている。ほぼ意見の一致が見られるのは民主党政権の実績を多くの国民が評価しなかったためということである。

政策としては2009年のマニフェストを守れなかったこと、消費増税、震災や原発事故への対応の不備、普天間基地の移設をめぐる日米関係の動揺、日中関係の悪化などが指摘され、政治運営面では党内抗争、党の分裂などが挙げられている。

政権の実績が関係していることは言うまでもない。

しかしながら、ここでさらに一歩引いて民主党結党以来の流れで今回の敗北について考えてみたい。長期的に見ると、敗北の遠因は実は2006年の代表交代にある。代表交代に伴って政策が一大転換され、構造改革路線が放棄されたことが大きく響いているのである。

構造改革路線

下記の政策をご覧頂きたい。この政策がどの政党のものかわかるであろうか。

財政

国家財政に企業会計的視点を導入し、実態を国民にわかりやすく示す。行政改革・経済構造改革を進め、国・地方をあわせた財政赤字について、2010年まで の明確な削減・抑制の数値目標を設定する。経済情勢に柔軟に対応し、持続可能な経済成長と財政再建を両立させる。赤字国債・建設国債の区分をなくし、限られた資金を政策的に必要な分野に回せるように改革する。

経済

自己責任と自由意思を前提とした市場原理を貫徹することにより、経済構造改革を行う。これにより、3%程度の持続可能な経済成長をめざす。

規制改革

規制改革を長期的経済発展の基本と位置づけ、経済的規制は原則廃止する。環境保全や消費者・勤労者保護などのための社会的規制は透明化や明確化を進める。

この政策には構造改革という文字が並ぶ。財政の再建目標が2010年ということがなければ、みんなの党、あるいは日本維新の会のものかと見紛うような政策である。

これは民主党が現在もその基本政策として掲げるものである。1998年4月に民主党が新党友愛や民政党などと合併した際に策定された。今も民主党のホームページに「民主党基本情報」として載っている。

民主党は1996年9月の結党以来、構造改革を掲げてきた。2001年4月に小泉純一郎内閣が発足し、構造改革を推進するようになってからも民主党は「改革を競い合う」という立場を取り続けた。また、民主党は財政健全化も重視し、2004年参院選挙や2005年総選挙では年金目的消費税の導入もマニフェスト(公約)として掲げていた。

この改革路線が支持されたために民主党は結党以来成長を続けることができた。

格差対策重視

転機は2006年4月の代表交代であった。偽メール事件によって前原誠司氏が代表を辞任し、小沢一郎氏が代表に就任する。

小沢代表は改革路線を全面的に放棄、2006年12月に「政権政策の基本方針」(いわゆる「政策マグナカルタ」)をとりまとめ格差対策を民主党の看板とする。これには2007年参院選、2009年総選挙のマニフェストの柱となった子ども手当、農家への戸別所得補償、高校無償化などが盛り込まれていた。さらに、年金目的消費税の導入は撤回された。

民主党は2009年総選挙に勝利し、一連の政策を実現しようとする。

しかしながら、この政策転換は少なくとも四つの問題を残し、民主党政権を大きく拘束することになった。

第一に、格差対策の柱の子ども手当、戸別補償などは受益者が限られ政権全体の浮揚には繋がらないこと。

第二に、国民全般に果実が及ぶ成長政策には政権のエネルギーは注がれないことになったこと。確かに新成長戦略などを立案した。しかし、それは民主党政権が最重要視するものではなかった。

第三に、政策転換の過程で構造改革を厳しく批判し、経済財政諮問会議も象徴として目の敵にしてしまったため、この会議を利用できなくなってしまったこと。新たな統治機構を導入しようとして、そこにもエネルギーを割かなくてはならないことになった。

第四に、消費増税について批判を浴びることになったこと。菅内閣や野田内閣が消費増税に取り組んだのはもともとの民主党の政策への回帰であった。しかし、消費増税を撤回していたために、マニフェスト違反という非難を招いてしまう。

この主張には当然反論が予想される。民主党は格差対策を掲げて戦った2007年参院選や2009年総選挙に大勝したではないかという議論である。しかしながら、実質的にはいずれの選挙も民主党が勝利したというよりも自民党が支持を失い、その票が民主党に向かったというのが実態である。2007年参院選で自民党は改革路線を徹底しなかったことや年金記録問題のため敗北した。2009年総選挙では2005年総選挙から三回も首相が変わることに国民が幻滅したのであった。格差対策が国民から積極的支持を受けた訳ではなかった。例えば、2009年8月、総選挙直前に朝日新聞社が行った世論調査では、55%の回答者が子ども手当を評価しないと答えている。

改革路線への回帰は可能か

今回の総選挙で改革指向の日本維新の会とみんなの党の比例区での得票率はそれぞれ20.3% 、8.7%である。民主党の得票率は15.9%。参考として小泉改革に対し、民主党も改革を打ち出して戦った2003年総選挙の数字を掲げる。民主党の得票率は37.4%である。民主党政権に失望した有権者が多かったことは疑いの余地がない。ただ、そのうち民主党に改革を求めていた人の多くが自民党には向かわず、日本維新の会やみんなの党に投票したと考えられる。

民主党再生の鍵は、改革路線に回帰する代表を選べるかどうかにかかっている。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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