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岸田政権の動き(2月11日から17日)―責任追求は将来の国民の判断次第

竹中治堅政策研究大学院大学教授
岸田文雄 衆議院予算委員会 2月14日(写真:つのだよしお/アフロ)

はじめに

 この記事では2月10日の週を中心に裏金問題の展開や見直しの方向性について前回の記事(岸田政権の動き(2月4日から10日)に引き続き紹介する。また岸田内閣が推進する重要政策の展開についても説明する。

支持率の低迷

 2月15日に時事通信が9日と12日にかけて実施した世論調査の結果を報道している。内閣支持率は16.9%と1月から1.7ポイント低下、不支持率は6.4ポイント増の60.4%であった。内閣支持率はこれまでで最低、不支持率もこれまでで最高の数値となった。時事通信の調査で支持率は他社の調査に比べて低めを記録することが多いものの、とても低い値である。自民党の政党支持率は16.3%だった。いわゆる青木率=内閣支持率+自民党支持率は前月と続き33.2%だった。青木率が50%を切ると政権が倒れる可能性が高くなると考えられている。首相にとって厳しい状況が続く。

アンケート調査の結果

 裏金問題については新たな展開があった。2月13日に自民党は全議員374人および選挙区支部長10人を対象としたアンケート調査の結果を公表した。アンケート調査は6日に配布され(『朝日新聞』2024年2月6日)、二問(政治資金パーティーから得た収入の政治資金収支報告書の記載漏れの有無と記載漏れがあった場合の額)だった。不記載を認めた回答者は78人、自民党が正確な記載ではないと認めた回答者が7人(『朝日新聞』2024年2月14日)。この7人の回答者は政党支部や借入金として収支報告書に記載していたと考えられる(『毎日新聞』2024年2月14日)。

2018年から22年の不記載額の総額はおおよそ5.8億円である。自民党の調査は逮捕・起訴などのため離党した池田佳隆、大野泰正、谷川弥一3名の国会議員を対象としていない。この3人を入れた不記載額は約7.8億円となる(『毎日新聞』2024年2月14日)。

検察のラインは3000万円か

 不記載額の最高は3526万円不記載の二階俊博議員、2000万円を越しているのが三ッ林裕巳議員(不記載額(以下同)2954万円)、萩生田光一議員(2728万円)、山谷えり子議員(2403万円)、堀井学議員(2196万円)、橋本聖子議員(2057万円)である。検察は不記載額を把握していたはずである。二階俊博議員の秘書は還流分を不記載した理由で略式起訴されている(『日本経済新聞』デジタル版 24年1月18日)。このため、検察は議員あるいは関係者の政治資金規制法違反の法的責任を問うラインを3000万円以上で引いたと考えられる。

報告書の公表

 自民党は続いて15日に裏金問題で聞き取りを行った結果をまとめた報告書を公表した。聞き取りは2月2日から8日にかけて、資金還流を受けた議員及び元議員85人および派閥・グループの代表者あるいは事務総長8人を対象に実施された(『日本経済新聞』24年2月16日)。

 報告書の内容を簡単に紹介したい。還流された資金と認識していた人は32人、認識していなかったのが53人である(『日本経済新聞』24年2月16日)。一方、還流された資金を使用した人は53人、使用していない人は31人である(『日本経済新聞』24年2月16日)。使用しなかった理由として13人が「不明朗な金銭だった」と回答している(『日本経済新聞』24年2月16日)。還流された資金と認識していた人と、不明朗な金銭だった考えていた人がどの程度重複しているのかは不明であるものの、相当数の政治家が環流された資金をいかがわしいものと考えていたことは明らかである。

派閥の要請と安倍派幹部の責任

 それでも政治資金収支報告書に記載しなかったのは派閥からの締め付けや還流という認識がなかったことが理由として挙げられている。報告書には「秘書から派閥に対し『寄付金として記載したい』と申し出たが、派閥からは『記載しないでほしい、記載すると他の議員に迷惑がかかる』と言われた」、「環流という認識がなかったので問題意識もなかった」という理由が記されている(『朝日新聞』デジタル 24年2月15日)。

 また「派閥総会で誰も責任を取ろうとしない。誰かがけじめをつけなければならない」「22年に安倍晋三元首相が止めるといった制度を復活させた幹部の責任問題だ」と安倍派幹部の責任を問う意見も載せられている(『日本経済新聞』24年2月16日)。

政治責任

今後は、岸田政権が還流問題の政治責任をどう取ることにするのかということが問題となる。

 2月15日に岸田首相は「関係者に説明責任を果たしてもらわなければならない」(『日本経済新聞』24年2月15日)という考えを述べている。首相はこれまでこの問題を派閥の次元で捉えてきた。相変わらず、党総裁としての自らの責任については全く意識していないようである。2月16日に衆議院政治倫理審査会の幹事会で野党は関係する自民党の衆議院議員51名の出席を求めた。

 政治倫理委員会で議員を対象に審査を行うためには議員からの申し出か25人の委員のうち9人以上の申し立てが必要であり、申立ての場合さらに出席した委員の過半数の賛成が審査開始決定に必要である(『NHK』2024年2月13日)。決定された場合も、出席に応じるかどうかは議員次第である。

政府の役職に就くことができるのか

 今後、自民党が一定期間の役職停止などの処分を行うことは考えられる。ただ、より重要なのは、結局、政治責任の追求は我々国民の将来の判断次第であるということである。ただ、政治の問題を取り上げる上で大きな力を持つメディアの判断も重要なファクターとなる。

 関係する議員の政治責任について、主要メディアがほぼ沈黙する問題を一つ指摘しておこう。今回、還流資金について政治資金収支報告書に記載しなかった議員の政治責任を問う場合、今後、彼らが、閣僚をはじめとする政府の役職に就くことができるかどうかが本丸の問題である。

法案審議という難問

 政治家の政治資金をめぐる疑惑はこれまでも何回も明るみに出てきた。これまでの前例を見ると、疑惑を指摘された議員の多くは法的責任を問われなかった場合であっても、結局、以後、政府の役職に就くことが厳しくなっている。これは政府の役職についた場合、野党が国会審議で当該政治家を厳しく追求し、法案審議を遅らせることが必至で、これを首相が恐れるのが最大の理由と一般には考えられている。ただ、今回は関係した議員があまりにも多く、関係議員が政府の役職に就けなくなった場合、その影響は大きい。

国民の判断

 こうした責任追求は究極的には国民の判断に委ねられる。将来ある時点で、時の首相が関係議員を起用した場合に、野党の反発をどれだけ国民が後押しするかがその後の政治過程を大きく左右することが予想されるからである。国民が野党の姿勢を強く支持すれば、野党は法案審議を遅らせるために色々な選択ができる。ただ、この際、メディアも力を持つ。メディアがそうした人事の問題点をどこまで追求するかは国民の判断にかなりの影響を持つからである。

戦闘機の第三国輸出問題

 最後に重要政策の展開について触れておこう。

 現在の防衛装備移転三原則及びその運用方針のもとでは日英伊が共同開発する次期戦闘機の第三国輸出は認められていない。制限を緩和し、輸出を可能にするための協議が与党間で昨年から行われてきた。しかし、現在、公明党は輸出を認めることに慎重な姿勢を取っている。2月13日に首相は公明党の山口代表と会談し、第3国への輸出について政調会長が協議を行うことで合意した。

 また岸田内閣は、最重要政策の一つである少子化対策を実施するのに必要な少子化対策関連法案を16日に閣議決定した。児童手当は12月から所得制限がなくなり、高校生も対象となり、児童手当支給中の子どもが3人いる場合には第3子には3万円が支給されることになる。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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