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SpotifyやYouTubeが注目するワールドツアー中の春ねむり、海外で注目される理由とは?

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
photo by 春ねむり

●世界は、日本に先駆けて春ねむりを発見した

シンガーソングライター、ポエトリーラッパー、トラックメイカーとしてインディペンデントに活動する春ねむりが現在、世界各国で35公演のライブツアー中だ。国内アーティストが世界で有名になるための必須方程式=アニメタイアップやゲームタイアップなど一切無しに、自らの作品力とライブでの評判のみで躍進中である。しかしながら、国内音楽ジャーナリズムでの春ねむりの評価はまだ定まってはいない。

全曲トラックプロデュースを手がけ唯一無二の作家性を確立した、キャリア最高傑作となった最新アルバム『春火燎原』を携えたワールドツアー。残るはUK、アイルランド、そして7月1日に東京・恵比寿リキッドルームで開催される日本凱旋公演となっている。なお、同日には配信リリースされていたアルバム『春火燎原』のCDが数量限定生産でのリリースが決定した。

海外での躍進は2019年からはじまった。アジアツアー(全5公演)&20万人級の巨大フェス『Primavera Sound』を含むヨーロッパツアー(全15公演)。2022年3月には、パンデミックの影響もあり2年間、4度にわたる延期の末、ようやく実現した北米ツアーが全公演がソールドアウトという盛況ぶり。

2年連続で参加した、世界最大規模のフェス『SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)』への出演におけるバズが起きた海外に通用するパフォーマンス力の高さ(昨年は、自身のライブのみならずPussy Riotのステージにも招かれ「Police State」でゲストボーカルとしても参加)、そして辛辣な批評で知られる米音楽メディア『ピッチフォーク』にてアルバム『春火燎原』が8.0点の高得点を獲得が、その人気に火をつけた。さらに『9 Albums Out This Week You Should Listen to Now』(今週聴くべき9枚のアルバム) にも選出。日本の作品が批評対象となることは珍しく、近年では宇多田ヒカルのアルバム『BADモード』が取り上げられたことは記憶に新しい。なお、アルバム『春火燎原』は、アメリカ最大の音楽評価コミュニティ『Rate Your Music』でも世界11位にランクイン。注目度の高さは折り紙つきだ。

春ねむりの躍進は続く。YouTube本国で展開された世界中の注目アーティストを支援する『Foundry Class of 2022』、Spotifyが国内外のリスナーに注目の新進気鋭アーティスト10組を紹介する『RADAR: Early Noise 2023』への選出というふたつのプログラムに選ばれたことも快挙だ。相乗効果で、ネットを通じて春ねむりへの注目度は世界中へ広がっている。

https://youtube-jp.googleblog.com/2022/07/foundry2022.html

https://kompass.cinra.net/article/202301-EarlyNoise

●海外パブリシストが語る、春ねむりの魅力

ここまでに至る道は、まさに長く曲がりくねった道だった。2016年、春ねむりとして活動をスタート。7年という期間を経て、自らの精神性と向き合い続けたことで作品性は研ぎ澄まされた。春ねむりは全作品、全ライブで真剣勝負をしてきた。その目的は、自分が信じる想いを作品を通じて発進するために。そして長く音楽活動を続けていくために。

ゆえに春ねむりは自らを120%解放できるライブにてシャウトする。ジャンプする。ダイブする。全身全霊で自分をあらわしていく。だが、オーディエンスにノリ方を強制することはない。そこにいるオーディエンスの自由に任せる。しかし、誰もが春ねむりのライブを観たら感動をあらわにする。それこそが、春ねむり、ライブ未体験のオーディエンスに伝えたい想いだ。

昨年から春ねむりの海外におけるパブリシストを担当し、『SXSW』においてリアルとネットで大きなバズを巻き起こすきっかけを作ったBIG PICTURE MEDIAのナタリー・シェイファーは言う。

「春ねむりはロックよ。これほどまでパンクなアティチュードを感じる勢いの強さに衝撃を受けました。真摯な部分が、日本語はわからないんだけどライブパフォーマンスからも伝わってきて。ライブの素晴らしさに度肝を抜かれたわ。顎が床に落ちたの(笑)。そのすごさを再認識したのが昨年の『SXSW』でした。会場にいた春ねむりを知らないオーディエンスも、ライブ中にどんどん魅力が伝わって惹きつけていくことに感動したの。『ピッチフォーク』などメディアでの高評価の理由は、春ねむりの作品力が持つパワーよ。彼女はフガジやビョークなど、本質的な音楽の魅力を持っているわ。他の表現者と同じことをしていないオリジナリティーの高さ。春ねむりは、これまで見たことがないエキセントリックなスタイルを持っていて、比べられない才能があると思う。今後も、もっとツアーの本数を増やして、より活躍していってほしい。曲は『Deconstruction』が特に好き。一緒に歌いたくなるのがすごいと思う。」

筆者は、いてもたってもいられず今年の3月8日、春ねむりのNYブルックリンで行われたワンマン公演を観にアメリカへ渡った。これまで様々な国に取材で訪れたが、思えばNYは今回が初めてだった。

●ブルックリンでの春ねむり、ライブレポート

NYから地下鉄でブルックリンへ移動。地下鉄は地下ではなく地上に出て川を渡り、古めいた高架上を走り続けた。ここ数年ですっかりブルックリンはおしゃれな街に変化したと聞いていたが、ベニュー(ライブハウス)のあるマートル・アベニューは、地下鉄線路の南端にあるローカル駅であり、少しばかり危うい気配を感じた街並みだった。

photo by fukuryu
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まるでスプラトゥーンの世界のようだなと感じた駅に降り立ったらすぐに、たばこやチップなどをせびられた。思えば、NYマンハッタンでは、一切こういったことがなかった。

開演前、すでにライブハウスの前にはアンテナの早いオーディエンスが並んでいた。よくある日本アーティストの海外公演の客層とは異なることに気がつく。春ねむりは、アニメタイアップもワールドワイドなゲームタイアップもやってはいない。海外向けにセッティングされたジャパニーズフェスやアニメフェスにも出演していない。

春ねむりを待望する海外のオーディエンスとはロックな客層だ。パンク、インディーロックを求めるオーディエンスがどんどんライブハウスへ吸い込まれていく。それはまるで、自分だけが知る刺激的なカルチャーを求め、たどり着いた核シェルターへ避難するかのようだった。

photo by fukuryu
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サイレンが鳴り響く外界の不穏な空気とは打って変わり、ライブハウスの中はあたたかい雰囲気だ。いまどき、ドリンクもスマホ決済でオーダーする。チップもだ。オープニングアクトは地元のエレクトロシンガーが登場した。ニューウェーブなオペラボイス、ラップトップでオーディエンスを揺らす。

会場の、元々はホテルだったというニッティングファクトリー傘下のライブハウス=マーケットホテルは地下鉄ながら高架上に寄り添って設置されている。ステージ裏の窓からは駅のホームが見えるという不可思議なシチュエーションだ。左サイドの窓からは去りゆく電車が見える。ガタンゴトンする古い電車のビートが、ライブ中のサウンドとシンクロする面白さだ。

21時過ぎ、満を持して春ねむりがステージへあらわれた。鳴り渡るサウンドの響きとともにいきなりギアをトップに入れて盛り上げていく。しかしながらオーディエンスに強制することなく、人間性が垣間見えるナチュラルなコミュニケーションによって楽しみ方をわかりやすく示し、行動を促す支配力の高さ。これが春ねむりというアーティストの本質、凄みだと感じた。

盛り上がるフロア、みな日本語曲を歌い叫ぶ。ここはブルックリン。春ねむりは世界の痛みをシャウトする。イントロから沸くオーディエンス。春ねむりのスクリームに呼応する。赤裸々なる叫び、言語を超えた表現、パフォーマンスが真摯に伝わる様をみた。そこにあるのはオーディエンスひとりひとりと向き合うリスペクトと信頼感だ。生バンドではないがこれはロックだ。パンクだ。ハードコアな魂の叫びだ。

photo by 春ねむり
photo by 春ねむり

今回、初めて訪れるライブハウス。海外あるあるではあるが、サウンドチェックの際も狙い通りの音質になかなかままならない中、自らのアイデンティティーを120%発揮して、異国のオーディエンスの気持ちを掴み取る音楽を通じた高次元なコミュニケーション。ライブ後半には、ステージから駆け出しフロア後方のバーカウンターへ駆け上がり、オーディエンスを煽りに煽る。会場がえも言われぬ一体感に包まれた瞬間だ。

photo by 春ねむり
photo by 春ねむり

異国の地で生で聴けた「生きる」が持つ、時代とともに葛藤を越えて輝くポップミュージックが解き放った光を僕は一生忘れないだろう。

春ねむりは、弱者に優しい。それがロックの本質であることを春ねむりは知っている。2023年、世界はいまだ差別に満ち溢れている。春ねむりは、そんな問題の数々に作品力で応えていく。海外のオーディエンスは春ねむりの歌詞をライブでともに日本語で歌い、Googleで検索して言葉の意味を知る。そして共に心を震わす。

photo by 春ねむり
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●ハードコアシーンの最重要バンド、フガジも注目

インディペンデントに活動する日本人アーティストとしてはありえない本数を展開する海外ツアーをへて、春ねむりは実はものすごいアーティストへと進化しているのではないだろうか。翌日、ワシントンD.C.で行われたライブでは春ねむりがリスペクトするハードコアシーンの最重要バンド、フガジのイアン・マッケイが訪れていた。またひとり、春ねむりの理解者が増えたのである。

春ねむりは、現在進行形が垣間見れる最新シングル『ANGRY ANGRY』を4月14日にリリースしている。本楽曲はオーストラリアのミュージシャン、ジャガー・ジョーンズと共作。

“家父長制に支配された社会に抑圧されているすべての人間のためにつくられた”というメッセージを持つハードコアなナンバーだ。すでに世界各国のプレイリストにリストインしている。

まずは本作とアルバム『春火燎原』をチェックして、そして、可能なら初夏に開催されるUK、アイルランド公演、そして7月1日に行われる恵比寿リキッドルームでの日本での凱旋公演にて春ねむりを体感してほしい。

世界は、日本に先駆けて春ねむりを発見したのだ。

■リリース情報

春ねむり 2nd Full Album『春火燎原』

発売日:2023年7月1日(土)

フォーマット: CD ※数量限定生産

<収録曲>

01.sanctum sanctorum

02.Deconstruction

03.あなたを離さないで

04.ゆめをみている (deconstructed)

05.zzz #sn1572

06.春火燎原

07.セブンス・ヘブン

08.パンドーラー

09.iconostasis

10.シスター with Sisters

11.そうぞうする

12.Bang

13.Heart of Gold

14.春雷

15.zzz #arabesque

16.Old Fashioned

17.森が燃えているのは

18.Kick in the World (deconstructed)

19.祈りだけがある

20.生きる

21.omega et alpha

■ライブ情報

『HARU NEMURI “SHUNKA RYOUGEN” TOUR FINAL』

日程:2023年7月1日(土)

時間:開場 16:00 / 開演 17:00

会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM

出演:春ねむり、神聖かまってちゃん

チケット:

スタンディング:¥4,000(+1D)

スタンディング U21:¥2,000円(+1D)

スタンディング U18:¥0円(+1D)※実年齢対象/要身分証

スタンディング『春火燎原』CD(¥2,500)付き:¥6,000(+1D)

スタンディング U21『春火燎原』CD(¥2,500)付き:¥4,000(+1D)

イープラス:https://eplus.jp/haru-nemuri/

ローソンチケット:https://l-tike.com/haru_nemuri/

ぴあ:https://w.pia.jp/t/harunemuri/

※U18チケットはチケットぴあのみの取り扱いあり

■関連リンク

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音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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