「都立高校復権」の裏で「都立高校定員割れ」が意味すること
都立高校改革の副作用
日比谷・西・国立など一部の都立進学校が大学進学実績で躍進し、「都立復権」と騒がれる一方で、2018年度の東京都立高校入試において、多数の学校で定員割れが生じ、急遽第3次募集を受け付けたにもかかわらず、全日制31校433人の募集人員に対し、応募人数は26人にしかならなかった。
背景には東京都による私立高校の実質無償化がある。偏差値の低い都立高校に行くよりは、私立高校に行ったほうがいいという都民の気持ちの表れとも言える。果たしてその判断は合理的なのか。
日比谷高校が東大に53人もの合格者を出した2016年春、マスコミはこぞって「都立復権」と見出しを掲げた。しかし少なくともこの時点での東大合格者数を見る限り、日比谷のほかに「復権」と言えそうなのは西高および国立高くらいである。進学指導重点校であってもそのほかは軒並み一桁前半だったのだ。いわゆる二番手校にあたる「進学指導特別推進校」の6校を合計してもたったの8人。
要するに、都立高校の中での優勝劣敗が進んでいるということだ。これは石原慎太郎都知事(当時)のもと2001年から実施された都立高校改革の結果である。学区を廃止し、東京都全体の優秀な受験生を特定の進学指導重点校に集中させ、進学指導を施し、大学進学実績を伸ばしたのだ。
学区の拡大は、高校の大学進学実績を向上させるうえで特効薬となる。学区が広がればそれだけ、広い範囲から優秀な生徒を集めることが可能になるからだ。
「低迷していた公立高校が奇跡の復活を遂げた」というようなストーリーの背景にはたいてい学区の拡大がある。
東京都全体が1学区になるということは、約1300万人規模という巨大な人口が1学区になるということだ。人口規模から言えば、これは東北地方(青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島)と北陸地方(新潟・富山・石川・福井)をすべて合わせて1学区にしたのとほぼ等しい。
巨大な学区から数限られたトップ校に学力トップ層が集まれば、その学校の大学進学実績が伸びることは容易に想像ができる。ただしその分、都立高校の中での序列化が進み、優勝劣敗がはっきりするという副作用がある。
都立トップ校でなければ私立中堅校のほうがまし!?
東大以外の難関大学も含めて2016年の大学進学実績をまとめたものが下記表だ(拙著『地方公立名門校』(朝日新書)より抜粋)。作成したのは中学受験塾「うのき教育学院」の岡充彦さん。
大学進学実績が学校選びの価値基準のごく一部に過ぎないことを前提としつつ、岡さんは言う。
「『都立復権』というのは『日比谷・西(・国立)復権』ということなのであり、都立高校全般を正しく評しているわけではありません。表からわかるとおり、都立上位校といえども難関大学の合格実績においては中学受験における中堅難易度の学校と同程度です。下手に中学受験するよりも高校受験で都立上位校を目指したほうがいいという考え方をする場合、難関大学合格の可能性の観点から言えば、もしも世田谷学園を切り捨てたのであれば、日比谷や西に合格できない限りその選択は失敗だったことになり、同様に、田園調布学園や獨協を切り捨てた場合、駒場や小山台に合格しても失敗だったということになります」
表中の「A率」は私立大学の合格者数をもとにしており、私立大学を実際の進学の選択肢にすることが多い私立中高一貫校出身者に多少有利な数字になっている可能性はあるが、それでもこの表から読み取れることは多いのではないだろうか。
こうして見てみると、どうせトップ都立高に入れないのであれば、中学受験をしたほうがいい、あるいは私立高校に行ったほうがいいという判断が働くのも無理はない。そして今回の定員割れである。「私立高校実質無償化」がそれをあぶりだしてしまったのだ。
現在、国家レベルでも高校無償化の議論が盛んである。今後、公立高校のあり方や存在意義が大きく問われることになるだろう。