「北欧ラボ」という世界の実験室 課題解決型の情報やあなたのワンクリックでニュースの質は変わるか
3年前になるのですが、私、こういう記事を書きました。
確か、その時まで溜まっていた「もやもや」を、当時、一晩でぐわっと書いたんですね。
どうも、予想外なことに、ずーっと細々と読まれているようです。
基本的には考えは大きくは変わってはいないのですが、私の脳みそがちょっと更新されたので、今晩はががっと書いてみます。
日本メディア独特の「かわいい北欧のつくりかた」っていうのは、否定しているわけではない。というか、私はこれでたまにお仕事もらっているし、つくっている側。レシピはよく知っています。
こういう情報は以前よりも減ったような気がしています。
それで、最近、ノルウェー最大のコーヒー協会発行から雑誌がでました。
「日本のカフェとコーヒーカルチャー」特集では、私は同じようなことをノルウェー語で執筆しています。
(執筆・撮影したのは24~29ページ。ノルウェー語だけど、全ページが無料公開。フグレンとか、オニバスコーヒーとか、日本が注目されておりますよ)
以前の記事では、厳しめな書き方をした覚えがあります(精神レベルが今より未熟だった頃の記事は、もはや読み返したくない)。
今回は逆に、「北欧」という美化される遠き理想郷を、「褒めて」みようと思います!
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「ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、デンマーク、フィンランド」って、違う国だぞ。
「中国、日本、韓国」って、「魅惑的なアジア」でひとくくりで社会現象をまとめられるかいっ!
と、今よりも簡単に熱しやすい私は、当時思っていました。
特に、2か国以上をしっかり現地リサーチしているならまだしも、1か国を軽く見ただけで、「北欧」をタイトルにする流れとか。うーん。
最近は、もうどうでもよくなってきた。
もはや「北欧パッケージ文化」の流れに抵抗するのは、エネルギーの無駄。
ただ、旅行ガイドブックの編集者の皆様は、「北欧」で1冊にまとめるにしても、国ごとにページを切り取れるようにしてほしいな、とかは思うけど(行かない国の情報ページは重い荷物になるだけ)
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さて、日本では「北欧」とまとめられますが、英語メディアなどでは、よくノルウェー、スウェーデン、デンマークをくくり、「スカンジナヴィア」ともまとめることが多いです。
なぜ、「北欧」は暮らし面などで、「すごいぞ」特集されやすいのでしょう?
「北欧というのは、世界にとっての試験ラボ」だな、と私は思うのです。
北欧諸国が、なにかの政策などで逸脱している時、「人口が少ないから、いろいろとやりやすいのだろう」派と、それを否定する派がいます。
私は前者です。
プラス、
- 他国に占領されていた歴史が長くて、自国アイデンティティの確立が遅れた→「今までずっとこうだったんだから、伝統を壊すな!」があまりない
- 「世界初の~」という称号が大好きで、とりあえず色々と先にやりたがる(日本は前例がないと、動かないイメージ)
- 「こういう失敗やリスクが待っているかもしれないから、事前に計画・対策しておこう」という「うまくいかなかった時に」を不安視する傾向があまりない。「できない理由」をだらだらとリスト化しない。「とりあえずやってみて、なんかあったら、その時に考えよう」と臨機応変に対応する
- ヒエラルキーではなく、平等社会。若い人の意見を年上も素直に聞くので、新しいことを、小さい国の中でさらっとできる
- 日本のような「人に迷惑をかけてはいけない」というのがそこまでない。「新しいことをする時は、反対する人は必ずいるよね!」と、がんがん推し進める
- 地震がない、巨大な自然災害も少ない
- 他国とのあつれきもあまりない。ロシアはたまに気になるけど、北朝鮮から何か飛んでくるような危機感はない
などなど。
北欧諸国の「世界で最初の○○になりたい!」という精神カルチャーは、とくに影響が大きいと思う。政治家の人たち、目をキラキラさせて、政策を進めます。
北欧諸国は、「自分たちは小国」という自覚をしっかりと持っています。
だからこそ、「こんな小さな僕たちでも、できることがあるんだぁ!」と素直に喜ぶ。
自信をつけるためのお薬が、「今までなかったこと、ほかの国がまだ達成できていないことを、僕たちが先にする!」。
他の国よりも高い数字を目標にするのが好き(気候変動対策とか。守るかは別として)。
これは他国にとっても良い効果があります。
小さな国を「実験室」と考えてください。
- 彼らの失敗例・成功例。反発があった時に、どう対応したのか?
- 私たちはそこから何か学べるか?どう応用したら、私たちの国でもできそうか?
大きな人口をもつ大国にとっては、北欧ラボの事例は、参考例になるのです。
前例が好きな日本には、ちょうどよい資料です。
それをどうするかは、あとはみなさんの自由。
北欧ラボ、上手に利用するといいのではないでしょうか?
平等精神を大事にする国々なので、惜しまずに情報を共有してくれますよ。
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で、次の話題にいきます。
私は、なぜ「北欧」に前より寛容的になったのか。
オスロ大学大学院でメディア学選考だし、
現地で取材せずに、言葉も分からずに、記事は書きたくない。
大学では、「批判的であれ。自分の考えは書くな」と叩きこまれました。
だからノルウェーに絞っていたのですが。
在住11年目だし?
ノルウェー語が分かれば、スウェーデン語とデンマーク語もなんとなくわかるし?
各国の極右現象や選挙活動を、もっと取材したいし?
「世界一むずかしい言葉」のひとつといわれているらしいけど、「フィンランド語、やってみるか」と、語学勉強を始め、昨年から各国へびょんびょんと飛ぶようになりました。
だから、前より自分の中で、「もやもや」なく、「北欧」という言葉を記事で使えるようになりました。
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そして、もうひとつ理由が。
私は去年からパニック障害になった。
「なに、急にそのカミングアウト」。ですよね。
ただ、関係があるんです。
北欧に住めば、幸せ・悩みなし、なんてことはないのですよ。
ノルウェーの福祉・医療サポートや心の病への理解が素晴らしいので、パニックさんとの共同生活はだいぶ慣れてきました。
が、前よりも「批判的なニュース」を書くのが疲れるのです。私は今、おだやかに生きたい気分。
「ジャーナリストは批判的であれ」とオスロ大学でばしばしと叩きこまれている身ですが、メンタルヘルスが弱っている時に、物事を厳しくみるの、エネルギー使うんです。
もうちょっと、未来をポジティブに、わくわくと、「私にでも、できることあるかも!」って、思ってもらえるような情報も出したいな~。
という、超個人的な理由。
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それで、この文章はまだ終わりではない。もうちょっと付き合ってください。
私がそんなことを、ぼや~っと考えている時に、こんな本を読みました。
『You Are What You Read』
「You Are What You Eat」、「あなたはあなたが食べたもので、できている」という言葉をご存知ですか?
それを進化させたニュース版、「あなたはあなたが読んでいるもので、できている」という本です。
Jodie Jacksonさんは、こう言っている。
「ページビュー重視のネット社会の影響で、ネガティブなニュースが溢れている。そんなニュースが、あなたのメンタルヘルスや身体に与える影響の可能性に、もっと気づくべきだ」。
「悪いニュースのほうが広まりやすいけど、世界はいい方向へいっている」。
この本は、ニュースを作る側の人間なら、「おいおい」と、同意できない部分、言いたいこともたくさん出てくると思います。
たくさんのジャーナリストに反対されたと、著者の方も記しています。
私も「うーん」と思う部分は多い。「批判的なニュース」と「ネガティブなニュース」が、ごちゃまぜになっているような印象を受けて、違和感を覚える時もありました。
ただ、同意できるのが、「世の中は問題ばかりを扱うものではなくて、人の心の支えになるような、課題解決型のジャーナリズムがもっとあっていいのではないか」。
問題や批判ばかりではなくて、「解決に向けて何かしている人たち」、「他者をインスパイアする事例」、「個人レベルでもなにかできそうと希望を与える情報」とのバランスが、もっととれているといいのでは、と。
Jacksonさんは、そのためには、「読者はどういうニュースをクリックしているか意識すべき。クリック数重視による偏ったニュース構図を、メディア業界が変えてくれるのを待つのではなく、自分たちが望む未来につながるような情報をクリックしよう」と提案しています。
あなたの頭は、あなたがクリックして読む情報から影響を受けている。
この本はタイトルだけ見て買ったのですが、時期的に出合えてよかったと思っています。
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そのように色々と事情がかぶり、
私はちょっと方向転換をして、ノルウェーからフィンランド・スウェーデン・デンマークへと対象を広め、各国の言語を勉強して、政治・社会ニュースをこれから増やしていこうかなと思います。アイスランドの言葉と政治は、頭が爆発しそうなので、数年後。
「北欧ラボ」は、そもそも未来に向けた課題解決型が多い。
「この国では、今こんなおもしろい取り組みをしているようです」という事例紹介も増やしていく予定。
褒めまくり、美化・理想化する北欧料理はしませんが、未来がわくわくするような、応援する情報発信を増やしたら、どうなるでしょうね。
なーんも変わらないかな。
何かちょっとは変わるかな?
あなたは、今日どのような情報や言葉を発信しましたか?
あなたは、今日どのようなニュースをクリックしましたか?
Photo&Text: Asaki Abumi