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毛玉だと思ったら虫だった? 冬服をしまう前に知っておきたい害虫対策

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
イラストはイメージ(提供:イメージマート)

大事にしているコートやセーターに虫食い穴が開いてしまったら、とてもショックですよね。3月に入って暖かくなり、冬服を収納する季節になりました。また来シーズンにも着る洋服のため虫食い穴を起こさない収納方法をお教えします。

虫食い穴を起こす犯人は?

家の中の衣類を食害する、「衣類害虫」は、主に蛾(が)の仲間の「イガ」、「コイガ」、甲虫の仲間の「ヒメカツオブシムシ」、「ヒメマルカツオブシムシ」の4種類です。どの種も成虫ではなく幼虫が衣類を食害し、虫食い穴を起こします。

今回は、この4種の中で、羊毛(ウール)に対して最も重要な害虫「イガ」についてお伝えします。イガは漢字では「衣蛾」と書きます。まさに衣類の蛾というネーミングで、成虫は体長5~6mmくらいの小さな蛾です。

どんなに服に付きやすい?

衣類害虫は、幼虫で越冬していて、春先になると1世代目の成虫になります。そこから寒くなるまで2~3世代を繰り返しながら活動しています。「なぜ、虫食い穴を起こすのか?」というと、卵から孵(かえ)った幼虫が成育するために繊維製品を栄養源として食べるからです。また、栄養とならない繊維でも巣を作るために食害する習性も持っています。

繊維製品の中でも好みがあり、イガの場合はウールやカシミヤといった動物性繊維を好みます。次に羽毛やアセテートで、あまり食べられないのは綿、絹、ナイロンです。ただ、好まない繊維でも、皮脂や汗、ソースなどの食べこぼしが付着していると、それが発育に必要な栄養分になるので、汚れが付着しているところを食害します。

どこから家の中に入って来るの?

イガは、野外ではツバメなど鳥の巣に生息していることが多く、外に洗濯物を干した時や、外出時の洋服に付いて、気付かないまま一緒に家の中に持ち込んでしまうことがあります。家の中に入ったイガの成虫は、産卵するための場所を探します。自分の子どもが産まれてすぐに餌を食べることができるように、衣類を見つけて卵を産みます。産卵する布を選択する能力があるので、幼虫が成長できるウール製品を選ぶことが多いです。

毛玉と見間違えて放置しがち?

孵化(ふか)した幼虫は、衣類を食べるとともに、繊維を噛み切って綴り合わせて自分の巣を作り、その巣に入ったまま動いています。幼虫自体の色は乳白色なのですが、いつも巣の中に居るので、虫がいるようには見えません。しかも、潜んでいる衣類と同じ色の巣に覆われており、大きさはせいぜい7mm程度なので、パッと見は毛玉のように見えます。毛玉と思って放置しておくと、そのうちに穴が開いてしまうのです。

下の写真は、イガの幼虫がグレーの布(ウール)を食害しているのですが、どこに居るかわかるでしょうか?(答えは記事下に掲載)

食害されているウール(筆者撮影)
食害されているウール(筆者撮影)

衣類を守る4つのポイント

そろそろコートやセーターなど冬服を片付ける季節ですね。冬服はウール製品が多く、イガに食害されやすいので、収納時に対処しておきたい4つのポイントをお教えします。

1虫を家に持ち込まないように

干した洗濯物や外出時に着ていた洋服に虫が付いている場合があるので、洗濯の取り込みや外出後にはよく見て払いましょう。家の近くに鳥の巣がある場合は特に洗濯物への付着には注意が必要です。

2収納前にきちんと汚れを落とす

食べこぼしや皮脂の汚れなども衣類害虫のエサになります。クリーニングや洗濯などで衣類に付いた汚れをしっかり落として、清潔にしてから収納しましょう。

3保管場所はこまめに換気と掃除を

衣類害虫は高湿度でよく繁殖します。クローゼットやタンスは湿気がこもりやすいので、定期的に換気を行い、小まめに掃除して害虫が発生しにくい環境にしましょう。

4防虫剤を効果的に使う

防虫剤を効果的に使えば虫を寄せ付けない環境を作ることができます。成分は空気より重く上から下へ広がるため、置くタイプは衣類の上に、吊り下げタイプは一番高いパイプにかけて十分行きわたらせましょう。適正量や使用期限を守ることも大切です。

イラストはイメージ(提供:いらすとや)
イラストはイメージ(提供:いらすとや)

防虫剤の注意点

以前は樟脳(しょうのう)やナフタリンが主流で、特有のニオイが取れるまで、外に干して風に当てるなどの手間がかかりました。今は無臭タイプのピレスロイド系薬剤が主流です。また最近は、薬剤に敏感な方や子ども用の衣類にも安心して使える天然植物成分の防虫剤もあります。引き出し用、クローゼット用、スプレータイプなど様々な商品が市販されていますので、収納空間に合うものを選びましょう。ただし異なる防虫剤を同じ空間で使うことは避けてください。化学反応を起こして衣類のシミや変色の原因になる場合があります。

最後に…

侵入を防ぐことは大事なのですが、入ってきた衣類害虫に卵を産ませないこと、もし産んでしまっても幼虫が成育できない環境を作ることが重要なポイントとなります。また、今季はコロナ禍でお出かけが少なくて着なかったコートやセーターも一度出して確認してみることもおすすめします。来シーズン、冬物を出した時に虫食い穴でがっかりしないためにも、春への装いの切り替え時に冬物収納をきちんと行うことが大切です。

食害されているウール(筆者撮影)
食害されているウール(筆者撮影)

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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