劣悪施設の入所者が「貧困ビジネス」を告発 「脱出」する方法とは?
本日7月29日、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEの学生スタッフらが、厚生労働省において記者会見を行い、生活保護の窓口に訪れたホームレス状態の人たちが劣悪な環境の施設に収容されている実態を報告した。
今年1月の厚労省の調査では、全国のホームレスの人数が2820人と、調査を開始した2003年の2万5296人から10人の1近くにまで激減していると発表していた。
しかし、公的統計上でホームレスが減少している一方で、その背後では行政による劣悪な施設への「収容」が進んでいる疑いがある。問題となっているのは、ホームレス自立支援法に基づく「自立支援センター」や、生活保護受給者に多い「無料低額宿泊所」などである。
後者については、厚労省が2020年に実施した調査(「無料低額宿泊事業を行う施設の状況に関する調査結果について(令和2年調査)」)によると16397人が入所しており、国が把握する「ホームレス」数の5倍以上である。これらの施設については、一部に良心的な事業者もいるものの、劣悪な居住環境であることが少なくなく、生活保護費のほとんどをピンハネされるために「貧困ビジネス」であると批判されてきた。
今回の会見では、支援にあたっている学生ボランティア等が、入所していた当事者とともに、施設の環境や行政の対応の問題点について提起したものである。本稿では会見の内容を紹介しつつ、施設に入所させられた時の対処法についても紹介していく。
施設に入所させられた事例
まず、今回の記者会見で自ら発言してくれた当事者たちが、実際にどのような施設で暮らしてのかを紹介していこう。
第一の事例は、九州地方出身の40代男性Aさんのケース。家族関係の悪化や障害者雇用の低賃金などが原因で、2024年5月に九州から上京し、しばらくネットカフェや路上で生活した。6月5日に新宿区役所で保護申請をすると「ゲストハウス」を案内され、しばらくそこに滞在することになった。
ところが、その施設の様子は「汚い」というのが第一印象だったという。においもカビ臭く、部屋は数時間かけて掃除しなければならないほど埃が溜まっていた。
本来、生活保護制度ではアパートへと転宅するための費用が出るはずだが、本人はその説明をケースワーカーから受けた記憶がなく、施設を出るためには自分で貯金して初期費用を貯めなければならないと思っていた。そうしたたところ、7月4日に新宿区役所前でアウトリーチをしていたPOSSEのスタッフと出会い、生活保護の枠内で初期費用が出ることを説明され、7月8日にPOSSEスタッフと転宅交渉を行う。アパートが見つかり、今月末にアパートに転宅する予定となっている。
第二の事例は、埼玉県さいたま市で生活保護を受給している30代トランスジェンダーの男性Bさんのケース。九州地方出身で、生活保護を受給する母子家庭で育った。しかし、母親からの度重なる虐待に耐えかね、23歳の時に実家を飛び出し、さいたま市で生活保護を受給することとなった。
ホームレス状態であったため、行政からは無料低額宿泊所への入所を求められ、従うしかないと思い入所した(その後、他の無料低額宿泊所に転居)。現在の施設は、部屋は個室で6畳程度と広さはあるが、窓ガラスが破損しても修理してもらえず、段ボールで補強している。部屋の周りには粗大ゴミが放置されている。
さらに、エアコンがなく、夏は扇風機、冬はストーブを購入して対処している。最近の酷暑で扇風機をつけても室温が40度を超える時がある。6人で30Aまでしか電気が使えないので、すぐにブレーカーが落ちてしまい、いざこざが起きやすい。
また、キャッシュカードや通帳を入所時に取り上げられており、保護費から必要経費を引かれた1〜2万円程度が渡される。金銭管理についての契約書もなく、入所時に「そういうものだから」という感じで取り上げられたという。
食事は3食提供されるが、朝はコッペパンなどの軽食、昼や夜は質素な弁当で揚げ物ばかりが出てくる。3食で1300円となっているが、割に合わない内容だと感じている。
金銭管理や食事の内容については埼玉県からも指導がなされているが、改善されていないままである。
第三の事例は、都内出身の20歳男性Cさんのケース。Cさんは母親が教育熱心で、小学生の時から強制的に塾に通わされて、大学に進学した。しかし、実際に通学してみると、授業の内容に興味が湧かず、他のことをしたいから大学を辞めると両親に話した。そうしたところ、「家に置けない、大学生ではないのだから自分で働け」と言われてしまった。
親からすると、大学進学までお金と労力をかけてきたのに、裏切られたという気持ちと、父親が病院の廃業により歯科技工士の仕事を失ったことなどから、実家も経済的に厳しいという事情もあるかもしれない。
YouTubeなどで生活保護の存在は知っていたので、実家を出て新宿区で生活保護の申請をしに行った。役所では無料低額宿泊所に入所しなければいけない、と強く迫られたが、ネットで調べた情報から無料低額宿泊所が劣悪な環境であると思っていたので、断った。すると、役所側は「ビジネスホテル」があると別の選択肢を示したので、その方向で承諾した。
実際に役所が紹介してきた「ビジネスホテル」に入ってみると、環境は非常に劣悪だった。一応は個室ではあるが、床がカビだらけ、壁はタバコのヤニで茶色くなっていた。部屋の中にエアコンはなく、廊下に1台だけ設置されており、ドアを開けないと空調が入らない。また、シャワーはお湯が出なかった。
施設に入らず生活保護を受給する方法
上記の事例のように、特に東京近郊では、ホームレス状態の人たちが生活保護の申請時に上記のような「施設」への入所を求められることがほとんどだ。事例ではやむなく入所してしまっているが、入所を断ると、申請できず終わったという相談は多い。
そもそも、法的には生活保護の申請に「条件」をつけてはならない。施設入所を申請の条件とすることは申請権の侵害であり、違法行為である。
さらに、生活保護は法律上、「居宅保護の原則」を掲げており、アパートや持ち家に住みながら受給することを求めている。その上で、施設での保護適用は例外であり、本人の意に反して強制できないとされている。
つまり、いくら入れと言われても、本人が断ればいいのだ。しつこい場合には私たちのような支援者の同行を仰いでもいい。ただ、最も重要なのは本人の意思である。
ただし、施設に入らず路上生活をするのも過酷であるし、役所もそれは認めない。そうした場合には、友人宅に居候したり、ネットカフェやビジネスホテルに宿泊したり、支援団体のシェルターに入って待機することも可能だ。
役所が施設に入れたがる制度上の理由
「施設」から出るためのノウハウを解説する前に、少しだけ制度の説明をしたい。
そもそも、前述の通り生活保護では法律上、「居宅保護の原則」が掲げられており、望めばすぐにでもアパート転宅が認められるべきである。
しかしながら、法律を行政が運用する際の基準である国の通知・通達においては、「居宅生活ができると認められる者」のみにアパート転宅のための初期費用支給を認める、とされてしまっている。つまり、法律では「みんなにアパート生活を認めるべき」と書いておきながら、実際の運用では「役所が認めた者にしかアパート生活を認めない」という「転倒」が起きているのだ。
それでは、「居宅生活ができると認められる者」とはどういう人なのか。具体的には、生活費の金銭管理、服薬等の健康管理、炊事・洗濯、人とのコミュニケーション、などが自力でできる、自力でできない場合には社会資源を活用してできる場合、と示されている。
実は、こうした「能力」を判断するために一定期間「施設」に入所させ、「施設」の管理者などに能力を判断してもらう、方針を多くの役所がとっている。その帰結として、施設に入らなくても保護自体は認めるが、施設に入らないとアパートの初期費用を認めない、という強引な対応をする役所もある。これでは事実上、法律が認めていないはずの施設強制である。
入ってしまった施設から脱出する方法
では、施設に入れられてしまったあとはどうすればよいのか。まず、「居宅保護の原則」を認めろ、という直球勝負で行くなら初期費用の申請書(一時扶助申請書)を出すのがよい。自作の申請書でかまわない。最初の生活保護の開始と同じく、アパートの初期費用についても、役所に申請書を出せば14日以内(最大30日以内)に費用を支給するかどうか判断しなければならない。合わせて希望の物件情報を添付するとなお効果的だ。
特に、「施設を出てアパートに移りたい」とケースワーカーに話しても話が進まない場合には、申請書を出すのが効果的だ。単に話しているだけでは申請行為が成り立たず、ずるずると引き延ばされるからだ。申請書を出すだけで話が一気に進み、アパートに移れる場合も少なくない。
※4ページ目が一時扶助申請書
しかし、やはり「居宅生活ができる」と認められないからダメだ、と拒否されてしまうケースも多い。この場合にはいろいろな手段を動員することになる。
第一に、多くの人は施設の環境に耐えられず、持病が悪化していたりする。本来は治療や療養に専念すべきところを、施設によって阻害されているわけである。そこで、主治医に施設の環境が病状の悪化につながっている、アパートに移った方がいい、などの診断書を出してもらうことが有効になる。
生活保護の目的は「最低生活の保障」と「自立の助長」であるから、病気が悪化していると自立どころではないということであり、話が進むことがある。
ただし、この方法は主治医に理解がある場合に限られてしまう。
第二に、あえて「居宅生活ができると認められる者」の条件に則って認めてもらう方法である。金銭管理や健康管理が自力でできなかったとしても、社会資源を活用してできるようにすればよいとされているため、障害福祉の枠組みでヘルパーを活用したり、社会福祉協議会の金銭管理支援などを利用して「できるようにする」わけだ。
これは、本人が地域で社会生活を送るために当然提供されるべきサービスであるはずだが、自治体は「自力」でできることを求めがちなので、国からの通知を読んで適切に運用すべきであると思う。
どうしようもなければ逃げてもいい
以上は、ある意味では制度上の「正攻法」である。近くの支援者にアクセスできなかったり、主治医の理解がないと難しいかもしれない。もっといえば、もうすでに耐えがたく、解決するのを待っていられない、ということもあろう。
「正攻法」が難しければ、まず逃げてもいいと私は思う。これは文字通りの意味で、施設から脱走するのである。実際、施設から逃げている人は少なくない。路上生活をしている方に聞くと、施設から逃げてきたという話はよく聞く。
「施設」は監獄のような場所だという当事者は多いが、監獄と異なるのは、脱出したところで罪に問われるわけではない、ということだ。生活保護法においても、不正受給でもないし、役所と連絡が取れている限りでは保護が打ち切られるわけでもない。
もちろん、逃げた後の行き場もなく、路上生活をするのも過酷である。そういう意味では私たちのような支援者と一緒にアパート転宅を求めた方がいいと思う。ただ、もう耐えられなければ逃げてもいいのだ。それから相談してもらってもいいということを知っておいてもらいたい。
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*筆者が代表を務めるNPO法人です。社会福祉士資格を持つスタッフを中心に、生活困窮相談に対応しています。各種福祉制度の活用方法などを支援します。
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