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北朝鮮の打ち上げ失敗、油断すべきではない――直ちに「次」に踏み切る恐れ

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北朝鮮が31日、衛星を搭載して打ち上げた運搬ロケット(朝鮮中央通信HPより)

 軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した北朝鮮が、早くも「次の打ち上げ」を示唆している。各国の情報関係者は、今月11日までの通告期間内に北朝鮮が「次」に踏み切る可能性があるとみて警戒を強めているようだ。

◇「まもなく宇宙軌道に正確に進入」

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の実妹で、対米政策を統括している金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会副部長が、衛星打ち上げ失敗の翌朝、談話を発表した。国営朝鮮中央通信を通じて1日に公開された談話には「誰も衛星の打ち上げに関するわれわれの主権的権利を否定できない」というタイトルがつけられている。

 今回の衛星打ち上げに対して、米国家安全保障会議(NSC)のホッジ報道官は「大陸間弾道ミサイル(ICBM)計画と直接関係する技術が含まれている」と指摘し、周辺地域を不安定化して危険にさらし、緊張を高めていると批判した。

 金与正氏はこれを取り上げ、「驚くべきこと、新しいことではないが、やはり米国は、強盗さながらで不正常の思考から出発した、陳腐なうんぬんを並べ立てている。果たして、誰が不要な緊張を高調させ、地域内の安全保障状況を不安定にしているのか」と非難した。

 金与正氏は米国の衛星についても触れ、「われわれの衛星打ち上げが強いて糾弾を受けるべきことなら、米国をはじめ既に数千の衛星を打ち上げた国々がすべて糾弾されなければならないということだ。それこそ自家撞着(自己矛盾)の詭弁にほかならない」と断じた。

 そのうえで「確言するが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軍事偵察衛星は遠からず、宇宙軌道に正確に進入して任務遂行に着手するであろう」と強調した。

◇「警戒を緩めるな」

 北朝鮮は関係国に、衛星打ち上げ期間として「5月31日午前0時~6月11日午前0時」と通報している。

 初日の5月31日に北朝鮮は打ち上げに踏み切ったが、「(ロケットの)1段の分離後、2段エンジンの始動が不正常となって推進力を失い、黄海に墜落した」(北朝鮮国家宇宙開発局報道官)と、失敗を認めた。さらに同報道官は「衛星キャリア・ロケットに導入された新型エンジンシステムの信頼性・安全性が落ち、使われた燃料の特性の不安定さに事故の原因がある」と明らかにしている。

 ただ、この失敗を受け、ある情報関係者は「北朝鮮はあくまでも6月11日まで幅を取っている。その日まで警戒を緩めるべきではない」と警告する。

 各国の情報を総合すると、北朝鮮は平安北道鉄山郡東倉里(トンチャンリ)の西海衛星発射場で2カ所の工事を進めていたという。

 これまで使ってきた衛星発射台の整備に加え、新たな発射台と推定される施設の建設を進めてきたという。新たな発射台近くには液体燃料や酸化剤を注入するための装置がないため、固体燃料を使ったロケットが打ち上げられる可能性もあるという。

 情報関係者は「北朝鮮は失敗を“想定の範囲内”とみているのではないか。次は別の場所から打ち上げる可能性を否定できない」とみる。

 北朝鮮の李炳哲(リ・ビョンチョル)党中央軍事委員会副委員長は「立場」を発表(5月29日付)する中で「6月に、ほどなく打ち上げられるわれわれの軍事偵察衛星1号機」と言及しており、「11日までに打ち上げれば、説得力がある」(同関係者)ということになる。

 ただ、北朝鮮の課題は、その軍事偵察衛星の性能だ。衛星画像の解像度(地上の物体をどの程度の大きさまで識別できるかを示す指標)が不十分だと指摘されている。

 一般に、米偵察衛星などは「解像度は数十cm以下」と言われているが、北朝鮮の場合、「3~10m程度」「せいぜい1~3m」などと指摘されている。衛星として機能するためには「数十cm」が必要とされており、北朝鮮がどこまでこの精度を高めているのか、見極める必要があろう。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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