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『A LIFE~愛しき人~』『カルテット』『東京タラレバ娘』他 話題作出揃う。冬ドラマ第一話レビュー

成馬零一ライター、ドラマ評論家

先週の第一話レビュー(『おんな城主 直虎』『嘘の戦争』等)はこちら

日曜日

A LIFE~愛しき人~

TBS系 夜9時~

http://www.tbs.co.jp/ALIFE/

木村拓哉が主演を務める医療ドラマ。

木村は10年ぶりに海外から戻ってきた外科医・沖田一光を演じている。

木村の元恋人・檀上深冬を竹内結子、木村の親友で深冬の夫・檀上壮大を浅野忠信。

他にも松山ケンイチ、木村文乃、及川光博、菜々緒といった人気俳優が脇を固めており、全体的にリッチなドラマとなっている。

医療ドラマはアイデアが出尽くしているため当初は差別化が難しいのではと思ったが、本作は奇をてらうことなく、職人気質の医師が自分の信念を貫くことで難しい手術を成功させていくというヒューマンドラマと元・恋人と親友との三角関係を軸とした恋愛ドラマの二本柱で進んでいく。

見ていて面白かったのは木村が演じる医師・沖田の仕事に打ち込む姿。

多くを語らず、手術の準備に尽力を尽くす姿は、昔カタギの職人のようで、故・高倉健を思わせる。

いわゆるトレンドの最先端を走ってきたスターとしての木村拓哉とは違う、重厚な大人のドラマとなっている。

その華やかさの裏側にあるストイックさは、インタビュー等で漏れ出てはいたが、ここまでドラマの役柄にフィードバックされた作品は初めてではないだろうか。

おそらく40代の木村にとっての代表作となるのではないかと思う。

火曜日

カルテット

TBS系 夜10時~

http://www.tbs.co.jp/quartet2017/

『最高の離婚』(フジテレビ系)等で知られる坂元裕二脚本のドラマで、カルテット(弦楽四重奏)を組む4人の音楽家の物語。

松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生というキャスティングの豪華さが話題となっている。

また、吉岡里帆が元・地下アイドルのレストラン店員という絶妙な役を演じている。

時代や社会を積極的に描こうとしていた坂元裕二の近作に較べるとコンパクトに見えるが、背後にあるテーマは極めて現代的で目が離せない。

謎が多い作品だが、おそらく一話ごとに登場人物の背景がわかってくるのだろう。

偶然カラオケボックスで知り合ったかに見えた4人の嘘が明らかになった時に、見えてくるものは何か? 

TBSでドラマを書くことで、坂元裕二の新境地となるのではないかと期待している。

水曜日

東京タラレバ娘

日本テレビ系 水曜夜10時~

http://www.ntv.co.jp/tarareba/

東村アキコの人気漫画を吉高由里子、榮倉奈々、大島優子の主演でドラマ化。

アラサ―女子のガールズトークと切羽詰まった恋愛をコミカルかつ辛辣に描いている。

原作漫画と年齢を変えたことで作品のニュアンスが変わってしまった面もあるが、東京オリンピックのある2020年に自分は一人なのか? という問いかけが見事で、タラレバ娘の恋愛模様に興味がなくても、自分のことのように考えてしまう。

ネットの感想を見ていると年齢によって評価が割れているようで、30代を超えると途端に作品のメッセージに対して怒る人が増えていく。

漫画ファンにはぬるいと言われる一方で、身も蓋もない現実を見せられて辛いという意見も多い。

作品だけでなく見た人の反応も面白いので、ロールシャッハ・テストみたいな作品だなぁと思う。

レンタルの恋

TBS系 水曜深夜0時10分~

http://www.tbs.co.jp/renkoi-tbs/

剛力彩芽が演じるレンタル彼女・高杉レミが、毎回いろんな男と疑似恋愛をするというラブコメ。

レミを慕う大学生・山田公介を大賀が、山田の幼なじみで恋心を抱いている道端すみれを岸井ゆきのが演じている。

剛力のコスプレ(一話はなぜかエヴァ初号機)が毎回見られるのが見どころだが、どちらかというと岸井ゆきのが可愛く撮れるかに注目している。

ストーリーは昔、少年ジャンプで連載していた桂正和の『電影少女』(集英社)を思い出させる。

クズの本懐

フジテレビ系 深夜1時55分~

http://www.fujitv.co.jp/kuzunohonkai_drama/

好きになってはいけない人に対して片想いをしている高校生の男女がお互いを慰めあうために付き合っているという話。

テロップの入れ方や音楽の使い方のせいで安っぽく見えてしまうのが、もったいなく思うが、主演の吉本実憂はきわどいラブシーンを演じて奮闘している。

過激さが売りの作品にみえるが、思春期の愛情と性欲をちゃんと描こうとしているのは評価したい。

同時期に放送されているアニメ版と見較べると色々と発見があるので面白いかも。

ラブホの上野さん

フジテレビ系 深夜2時25分~

http://www.fujitv.co.jp/uenosan/index.html

ラブホテルで働く上野(本郷奏多)が恋愛指南役となって童貞の大学生に対して恋愛テクニックを教えていくというドラマ。

心理学的なアプローチには新味はないが、本郷奏多の漫画のキャラクターになりきった演技の巧みさには末恐ろしいものがある。

FOD(フジテレビオンデマンド)で先行配信中。

金曜日

三匹のおっさん3~正義の味方 みたび!!~

テレビ東京系 夜8時~

http://www.tv-tokyo.co.jp/3biki.ossan3/

有川浩の小説をドラマ化した人気シリーズ。

北大路欣也、泉谷しげる、志賀廣太郎という三人のおっさん俳優の息が合った芝居は相変わらずで、一話完結でとても見やすい。

第一話は、ゲストにシャーロット・ケイト・フォックスが登場。

民泊詐欺を題材とした話となっていた。

奪い愛、冬

テレビ朝日系 夜11時15分~

http://www.tv-asahi.co.jp/ubaiai/

倉科カナが主演を務めるドロドロの不倫ドラマ。

脚本は鈴木おさむだが、まず第一にこのタイトルがスゴくて、色々と味付けが濃すぎて圧倒される。

『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で注目された大谷亮平が倉科カナの元恋人で後に不倫相手となる男・森山信を演じている。

森山は足を怪我させてしまった森山蘭(水野美紀)と結婚しているのだが、罪悪感を利用して夫を支配する姿がエロくて、水野美紀がこんな役を演じるのかと、驚いた。

下世話な作品だが、このメロドラマ性には抗えないものがある。

土曜日

精霊の守り人 悲しき破壊神

NHK 夜9時~

http://www.nhk.or.jp/moribito/

昨年放送された大河ファンタジーの続編。

短槍使いの女用心棒・バルサを演じる綾瀬はるかのアクションは奮闘しておりCGもしっかりしていて、テレビドラマの可能性を広げようという意気込みを感じる。

ただ、先行するアニメ版と較べると、引きの映像が使えないためか、空間の狭さが目立って見える。

この辺りの空間の広がりは大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)の方がうまくいっていてファンタジーテイストがある。

三部作というロングプロジェクトのため、作品を作り続けることでバージョンアップしていくと思うので、その試行錯誤も含めて楽しみたい。

豆腐プロレス

テレビ朝日系 深夜0時35分~

http://www.tv-asahi.co.jp/tofu-prowrestling/

AKBドラマの新作で、AKBのメンバーが女子プロレスで戦うという話。

『キャバすか学園』(日本テレビ系)のAKBでキャバクラをやるという企画は、いくらなんでもベタだろうと思ったけど、今回はそれ以上。

そもそもAKB自体がアイドルの世界に身体を張って女同士で戦っているという構図を持ち込んでいて、プロレスだ、キャバクラだ。と言われ続けてきたので、なんだか一周して違和感なく馴染んでいる。

AKBドラマは、物語として面白いかとは別にどれだけメンバーを魅力的に見せられるのか、という課題があるのだが、とりあえず宮脇咲良はかわいい。

男水!

日本テレビ系 深夜0時55分~

http://www.ntv.co.jp/dansui/

男子水泳部の青春を描いたドラマだが、出演俳優が2.5次元ミュージカルで頭角を現したイケメン若手俳優を中心に固めたキャスティングだというのが面白い。

裏で放送されているのがAKB主演の『豆腐プロレス』だというのが象徴的だが、ゴールデンではできない冒険的なキャスティングができることが深夜ドラマの面白さで、ドラマ自体が新進気鋭の若手俳優のショーケースとなっている。

ドラマとしては水泳部が舞台ということもあって、男性俳優の肉体美が拝めることが見どころとなっている。

映像が結構フェティッシュで、男が見ていても結構ドキドキする。

本作が成功すれば2.5次元ミュージカル出身の俳優が一気にテレビドラマに進出するのではないかと期待。

5月には同キャストによる舞台も予定されている。

総評

全体的に力量のある脚本家の作品が出揃ったという感じ。

中でも気になるのは『カルテット』(坂元裕二)『お母さん、娘をやめていいですか?』(井上由美子)『スーパーサラリーマン左江内氏』(福田雄一)『大貧乏』(安達奈緒子)。

俳優視点では木村拓哉の『A LIFE』(本作の脚本も橋部敦子なので、力量は確かだ)、賛否も含めたイベント性では『東京タラレバ娘』に注目している。

また、TVer(ティーバ)の見逃し配信が定着したことで、ドラマの見られ方が変わってきているのではないかと思っている。

以前は本放送を見逃したドラマは中々次を見てもらうことが難しかったが、今はむしろ一話終了後にどれだけSNS等で盛り上がるかが人気の指標となっている。

具体的に言うとTwitterのタイムラインをどれだけ占拠できるかということなのだが、その意味で『カルテット』や『東京タラレバ娘』は二話以降の方が視聴率を伸ばしていくのではないかと楽しみにしている。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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