野木亜紀子脚本WOWOWドラマ『連続ドラマW フェンス』北野拓×高江洲義貴プロデューサー対談(中編)
WOWOWで日曜夜10時から放送されている『連続ドラマW フェンス』。
本作は沖縄を舞台にしたクライムサスペンスで、『アンナチュラル』(TBS系)や『MIU404』(同)で知られる野木亜紀子が脚本を担当している。
ドラマジャーナルでは現在、『フェンス』のプロデューサーの北野拓と高江洲義貴の対談を配信している。
今週は本作が女性のバディものになった経緯やキャスティングについて伺った。
前編はこちら
野木亜紀子脚本WOWOWドラマ『連続ドラマW フェンス』北野拓×高江洲義貴プロデューサー対談(中編)
女性をエンパワーメントするフェミニズムドラマ
――女性のバディものにしようと思った理由を教えて下さい。
北野:最初に野木さんに持ち込んだ企画書では本土と沖縄の男女バディのクライムサスペンスでした。ただ、野木さんから性的暴行事件をメインの事件として扱うならば、女性バディの物語にしたいと提案がありました。野木さんが描く女性バディの物語を個人的にもいつか見たいと思っていましたし、よりテーマを深く描けると考え、野木さんの提案で行くことにしました。
――性的暴行は沖縄と並ぶ、本作の大きなテーマですね。
北野:普天間基地移設問題の発端は95年の少女暴行事件だったのと、僕が記者をしていた時も表に出ない性犯罪事件はありました。女性が訴えにくい環境が沖縄だけでなく、日本にはあると感じていて、こうした事件は埋もれていってしまう。海外ではmetoo以降、盛んにこうした題材で作られていましたし、日本発でも描くべきではないかと思いました。ただ、当初は毎話違うエピソードを1話完結型で描き、縦軸で性的暴行事件を扱おうと考えていました。
――全5話の中の1話だったわけですね。
北野:そうです。「性的暴行事件」を題材にしたクライムサスペンスの中に様々な沖縄の問題を入れていった方が面白くなると、これも野木さんから提案をいただきました。今回の『フェンス』は、女性をエンパワーメントするフェミニズムドラマという見方もできると思います。
――逆に男性にとっては痛いドラマですよね。第2話でイーさんこと伊佐兼史(青木崇高)とキーの過去が描かれましたが、あのやりとりがあることによって、男は全員逃げられなくなるんですよね。性犯罪者を他人事だと思う無関心な男に対して「他人事じゃないからな」と突きつけてくるものがある。坂元裕二さんが脚本を書かれたドラマ『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)に通じるものがあると思います。
北野:性犯罪者に国籍や人種は関係ないという野木さんの考えがセリフに表れていると思います。
――あとは性犯罪自体が政治問題の駒にされてしまうというか。政治利用されることで、別の意味で一番弱い人に歪みが向かってしまう。
北野:沖縄ではどうしても米軍犯罪の被害者がより訴えにくい環境があると思っています。その構造を描けることに意味がありますし、『フェンス』で描いたような事件はどうしても政治的に利用されてしまうんです。
――『フェンス』というタイトルは様々な意味を込めて使われているものだと思うのですが「政治利用はさせません」「曖昧にはしません」という強い覚悟も感じたんですよね。弱者を守るための防波堤みたいなものを作品から感じる瞬間があったのが面白かったです。
当事者性を意識したキャスティング
――具体的なキャスティングはどの段階で決まったのでしょうか?
北野:企画が通った後です。そこはNHKとWOWOWでは作り方が似ているかもしれないですね。先にキャスティングが決まっているわけではなかったので。
高江洲:企画ありきでしたね。
北野:主演の松岡茉優さんは野木さんからのご提案です。女を嘆きながらも女として闘わざるを得ない、今回のキー役にはぴったりではないかとのことで。
高江洲:松岡さんというと、ちょっと弱い女性的な役か孤高の天才みたいな役が多かったので意外でしたよね。
北野:松岡さんがキーのイメージを作り上げて現場に入ってくださったので、僕らは松岡さんのお芝居をとにかく信じて撮っていくことで成り立つ現場でした。野木さんの作品はポップさのさじ加減がとても難しいのですが、編集でつながったものを観たら、毎話心をわしづかみにされるお芝居があり、この人は本当に天才なんだなと思いました。
――松岡さんが演じるキーが魅力的で、序盤で彼女のことをすぐに好きになれたのでドラマに没入できました。こういう社会派ドラマの主人公って大手マスコミのエリート社員が真実を暴くみたいな感じになるのであまり感情移入できないことが多いのですが『フェンス』はもっと地に足のついた立場から描いてくれているので違和感なく楽しめました。まず原稿料の話から始まるのがいいですよね。
北野:それは野木さんの発明ですね。
――野木さんの過去作の主人公の中でもいままでにいないタイプですよね。これまでの主人公は真面目な優等生タイプが多かったので。
高江洲:警察や法医学者といったちゃんとした職業の正義感を抱えてきた人を描いてきたけど、この問題に切り込むにあたっては、それだけでは足りない。どうしても入り込めない部分があるからキーみたいなキャラクターが必要だった。と野木さんは取材でおっしゃってましたね。
――大嶺桜を演じた宮本エリアナさんは?
北野:エリアナさんはオーディションで決まりました。ブラックミックスの方々にお声がけをして、30人あまりの応募がありました。芸能事務所と外国人俳優の事務所とモデル事務所に連絡し、個人で活動されている方や一般の方にはSNSを通じてDMをさせていただいたりして。
高江洲:北野さんが一生懸命集めて。
北野:日本では役がないこともあり、ブラックミックスの方で俳優業をされている人はほとんどいませんでした。エリアナさんは父親が米軍の佐世保基地の方で桜と境遇が近かったこともありますが、怒る芝居が苦手で心根が優しいこともあり、そこが沖縄で取材したブラックミックスの人たちと通じるものがあるなと思って起用しました。
高江洲:演技は未経験でしたが、モデルの仕事をされている方だから、とてもフォトジェニックで。
北野:撮られることに慣れていましたよね。台詞の覚えも素晴らしかった。
――今回のキャストは沖縄出身の方を大勢選ばれたそうですが。
北野:総勢52名の方を起用させていただきました。
――このキャスティングは初めから考えていたことですか?
北野:当事者キャスティングという世界的な流れは意識しつつも、沖縄の役は沖縄の人が演じないと沖縄のリアリティや空気感が画面に出ないと思ったんですよね。このキャスティングについては野木さんや高江洲さん、松本監督も同じことを考えていました。
――そんな中、沖縄の男性代表といえるイーさんを演じている青木崇高さんが沖縄出身じゃないというのが面白いですよね。青木さんは大阪出身ですが、顔立ちも方言も一番沖縄の人に見えた。
北野:TBSドラマで過去に沖縄ことばを使う役を演じられていました。沖縄の友人も多く、ものすごく沖縄愛に溢れた方なんです。青木さんの起用も最初は野木さんからの提案でした。こういったポリティカルな題材のドラマに出演すると、役と自分の考えが違っていても、役者自身にその役の主張を背負わせてしまうことになってしまう暴力性は感じました。
――矢面に立たせてしまいますよね。
北野:伊佐役は沖縄出身ではない青木さんが演じ、他の沖縄の人の役はできる限り沖縄の方に演じてもらうのはベストなキャスティングだったと思っています。沖縄の人がメインキャストじゃないことを批判される方もいるかもしれないですが、当事者じゃないと演じられないのか、当事者じゃないと描いちゃいけなのかという問題は常にあると思っていて。
高江洲:それってフィクションの表現の力を狭めてしまう恐れもありますよね。大事なことではありますが。
――リアルなものを作ろうと思うと必ずぶつかる問題ですよね。
北野:今回は制作陣に高江洲さんに入ってもらうことで、本土と沖縄の両方の視点から沖縄を描いていけるし、当事者がいることで沖縄内部の問題も描きやすくなりました。沖縄の作品に当事者がいるのといないのとでは、沖縄の人の見方や受け止め方が違うのはわかっていたので。さらに今回は脚本の野木さんと監督の松本さんが女性、僕らプロデューサー二人は男性でジェンダーバランスも良く、この座組で一緒に作れてよかったです。
後編に続く
『連続ドラマW フェンス』
2023年3月19日(日)から毎週日曜22:00放送・配信中(全5話)
脚本:野木亜紀子
演出:松本佳奈
出演:
松岡茉優
宮本エリアナ
青木崇高
與那城奨(JO1)
比嘉奈菜子
佐久本宝
/
新垣結衣(特別出演)
/
ド・ランクザン望
松田るか
ニッキー
Reina
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志ぃさー
吉田妙子
光石研
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