Yahoo!ニュース

2017年 冬ドラマ 第1話レビュー その1(『おんな城主 直虎』、『大貧乏』、『嘘の戦争』ほか)

成馬零一ライター、ドラマ評論家

この記事は、2017年1月から放送された新作ドラマの第1話についてのレビューで、1月15日までに放送された作品を取り扱っている。

今期の傾向としては脚本家や企画に力を入れた作品が多く、バラエティに富んだものとなっている。

クリエイターで見るなら『大貧乏』(脚本:安達奈緒子)、『お母さん、娘をやめていいですか?』(脚本:井上由美子)『スーパーサラリーマン左江内氏』(脚本・演出:福田雄一)、『山田孝之のカンヌ映画祭』(監督:山下敦弘)が今のところ面白い。

来週にはここに『カルテット』(脚本・坂元裕二)が加わるのだから楽しみである。

日曜日

'

おんな城主 直虎

NHK 夜8時~

http://www.nhk.or.jp/naotora/

連続テレビ小説『ごちそうさん』(NHK)の脚本を手がけた森下佳子による大河ドラマ。

第一話は歴史劇というよりは幼少期を舞台にしたファンタジー小説みたいな感じに仕上がっている。

子どもの頃の小さな世界が大人の事情によって容赦なく破壊されてしまい、それがきっかけでヒロインが主人公の男の子を守るために生きようと誓う話になっている。

その三人が後に柴咲コウ、三浦春馬、高橋一生になるのだが、この三人の関係性は『わたしを離さないで』(TBS系)を思わせる。

森下は『JIN-仁-』や『天皇の料理番』(ともにTBS系)などで歴史劇はすでに経験しているため、脚本家としての力量に対しては心配はしていない。

女性でありながら武将として生きた直虎を主人公にすることでどのような物語を紡ごうとしているのか、期待している。

大貧乏

フジテレビ系 夜9時~

http://www.fujitv.co.jp/daibinbo/

小雪が演じる二人の子供を持つシングルマザー・七草ゆず子が、ある日突、然会社が倒産して路頭に迷う。

そこに七草とは高校の同級生だった伊藤淳史が演じる弁護士・柿原新一が絡み、倒産した会社にある不正疑惑が持ち上がってくる。

脚本は『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)の安達奈緒子。

正月に放送されたスペシャルドラマ『君に捧げるエンブレム』に続いての登板だ。

コメディということもあってか、話は多少ガチャガチャしているがシングルマザーの子育てと企業犯罪の話を繋げる手腕が見事である。どちらか一方を丁寧に描くだけならよくある話なのだが、本来なら無関係に見える家庭と会社の世界をリンクさせることで見えてくるものを私たちの生きている社会として捉え直そうとする試みは安達ならでは。

脇役を演じる成田凌と滝籐賢一がいい。

火曜日

嘘の戦争

フジテレビ系 夜9時~

http://www.ktv.jp/uso/index.html

詐欺師モノとして、それなりに楽しいが『スペシャリスト』(テレビ朝日系)と『銭の戦争』(フジテレビ系)の設定と被ってみえる。

初回二時間スペシャルという編成も少しくどかった。

ストレスもないので、気軽に見たい人にはおススメ。

草なぎ剛の演技は安定感があり、ヒロインの水原希子と山本美月がかわいい。

山本美月は真面目な美女の役が増えているが今後こういうキャラクターが定着しそう。

咲 ‐saki‐(放送終了)

TBS系 深夜1時28分~

http://www.saki-project.jp/story/index.html

全4話+スペシャルの本放送はすでに終わっているのだが、印象的だったので書いておく。

麻雀部の女子高生たちが主人公の人気麻雀漫画の実写ドラマ化。

おそらく麻雀をみせたいというよりは、原作漫画に登場するかわいい二次元のキャラクターにどれだけ生身の身体を持つ三次元のアイドルや女優が近づくことができるのか? という2.5次元化を競うゲームとして作られている。

そのため、ドラマとしても麻雀モノとしても評価しようとすると空振りする。

出演しているアイドルが、グラビアアイドルやライブアイドル界隈では知名度が高い女の子が多いのが隠れた見どころだ。

木曜日

就活家族~きっと、うまくいく~

テレビ朝日系 夜9時~

http://www.tv-asahi.co.jp/shukatsukazoku/

就活中の息子を抱えた4人家族の物語。

一人一人が家族に言えない複雑な問題を抱えている感じが山田太一の『岸辺のアルバム』(TBS系)を思わせる。

第一話に関して言うと大手鉄鋼メーカーの人事部長として働く三浦友和が就活で落とした学生から嫌がらせを受ける展開が胃が痛くなるものがあった。

一本芯が通ったテーマがしっかりあるというよりは次から次にトラブルが飛び込んできて、それをいかに回避するのかというゲーム的な展開になりそう。

その意味で重厚そうに見えるが実はバラエティーショー的とも言える。

嫌われる勇気

フジテレビ系 夜10時~

http://www.fujitv.co.jp/kira-yu/

心理学者アルフレッド・アドラーの心理学を解説した『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラーの教え」』(著・岸見一郎、古賀史健)を原案とした刑事ドラマ。

香里奈演じる女性刑事が空気を読まずに本音をポンポンというあたりが「嫌われる勇気」ということなのだろう。

怪しい精神科医が登場したり、次々と猟奇犯罪が起きたりといった物語の見せ方は90年代のアメリカンサイコサスペンスの頃から変わってないので、新味はない。

企画先行で作られたフジのよくある猟奇犯罪モノに収まりそう。

気楽に見る分にはいいが、もう少しオリジナリティがほしいところ。

増山超能力師研究所(第2話まで)

日本テレビ系 深夜11時59分~

http://www.ytv.co.jp/masuyama/

超能力を持つ人間が当たり前に存在する世界を舞台に、日本超能力師協会の認定する超能力師たちが事件を解決していく異色の探偵モノ。

設定は面白い。

第一話は導入部という感じで様子見だったが第二話は浮気調査を透視能力を持った新人・二級超能力師が調査するという話で、浮気をしている夫の以外な浮気相手は途中から展開が読めるが、それなりに楽しめた。

ただ、超能力が絡む意味があまりない気もしないでもない。

金曜日

下剋上受験

TBS系 夜10時~

http://www.tbs.co.jp/gekokujo_juken/

阿部サダヲと深田恭子の中卒夫婦が娘のために中学受験に挑む話。

『ビリギャル』の成功を受けて作られたのだと思うが、阿部サダヲのコメディセンスのなせる技か、思ったよりも楽しめた。

学歴の壁を「ガラスの天井」と言わせる現状認識は実にシビア。

こういうお受験ドラマは自分が学生だった90年代からいくつかあったが、当時に較べると世相が厳しくなっているためか「学歴よりも大事なものがある」といったきれいごとだけでは。

すまなくなっているのを見ていて感じる。

お母さん、娘をやめていいですか?

NHK 夜10時~

http://www.nhk.or.jp/nagoya/okamusu/

友達以上に仲がいい母親と娘のいびつな依存関係を描いた作品。

娘役を波瑠、母親役を斉藤由貴が演じているのだが、斉藤由貴がとにかく怖い。

友達親子みたいな話は良く聴くが、この題材を見つけてきただけで半分は成功したようなものだろう。

脚本は『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)等の井上由美子。

こういう硬質な作風の話を書かせると実に活き活きしている。

波瑠も連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)の明るいヒロイン像とは違い、中途半端な優等生で、その態度は見ていてイライラするが、そんな彼女が周囲から追い詰められていく様がモダンホラー的に楽しめる。

バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウス~で暮らしたら~

テレビ東京系 深夜0時12分~

http://www.tv-tokyo.co.jp/byplayers/

遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研が共同生活をするというリアリティーショー風のドラマ。

彼らが過去に映画を撮ろうとしてケンカ別れをしたという過去や中国で大型ドラマを撮るという虚実が入り混じった展開は、一見面白そうだが、この手のドラマはテレビ東京のドラマではやり尽くしている感があるので、このままでは単なるキャラクター消費で終わってしまいそう。

連ドラでやるなら、もう一ひねり欲しいところ。

山田孝之のカンヌ映画祭(第2話まで)

テレビ東京系 深夜0時10分~

http://www.tv-tokyo.co.jp/yamada_cannes/

『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)のチームが再結集。

カンヌ映画祭で賞をとりたいという山田孝之に引っ張られる山下敦弘という構図で

ドキュメンタリーは進んでいくのだが、誇大妄想気味の山田孝之が、どこまで突っ走るのか見ていてドキドキする。

そして山田孝之が原案として持ち出した殺人鬼の話の主演を務めるのが芦田愛菜という超展開によって、前作とは違う緊張感が画面に生まれている。

土曜日

スーパーサラリーマン左江内氏

日本テレビ系 夜9時~

http://www.ntv.co.jp/saenai/

脚本・演出が『勇者ヨシヒコ』シリーズや『アオイホノオ』(ともにテレビ東京系)の福田雄一。

物語は中年サラリーマンの係長がスーパーマンになるというコメディだが藤子・F・不二雄の淡々としたテイストがちゃんと映像化されている。良い意味で深夜ドラマでやっていた時と同じようにできているのは、福田が脚本と演出を担当しているからだろう。

春クールからは『嵐にしやがれ』が土曜9時になるため、この枠では最後の作品になるかもしれないことも含めて注目している。

途中で堤真一と佐藤二朗に『逃げ恥』の「恋ダンス」を踊らせるのは流石。得意のパロディにも期待している。

リテイク 時をかける想い(第6話まで)

フジテレビ系 夜11時40分~

http://tokai-tv.com/retake/

はじまったのは昨年12月からなのだが、面白く見ているので一応、書いておく。

法務省・民事局・戸籍管理課に所属する男・新谷(筒井道隆)が

未来からやってきたタイムトラベラーを専用の居住区に隔離して保護するという一話完結のドラマ。

タイムトラベラーはそれぞれ過去の後悔をやり直すために現代に現れるのだが、それを防ごうとするところにドラマが生まれる。

東海テレビが制作していることもあってか、既存のドラマとは方法論が全く違うように見える。

前作の『とげ 小市民 倉永晴之の逆襲』くらいから、面白くなってきたので、作り続けてほしい

銀と金(第2話まで)

テレビ東京系 深夜0時20分

http://www.tv-tokyo.co.jp/gintokin/

『カイジ』シリーズなどで知られる福本伸行の人気漫画をドラマ化。

原作は心理ゲームとしてシナリオが完璧なので、そのままやれば、面白くなるだろうという安心感があるのだが、逆に余計な肉付けすると、とたんにそれが邪魔になってしまう。

福本伸行の極度に記号化された絵柄はゲームの面白さを活かすためにそぎ落とされたものだが、そこに生身の役者が改めて肉付けするとどうなるのかというのが、主人公の森田鉄雄を演じる池松壮亮に現れていた。

池松の演技は『デスノート』のLのような男を演じる分には申し分ないのだが

視聴者の分身ともいえる森田の役を演じるにはカリスマ性が滲み出すぎている。

逆にリリー・フランキーが演じる平井銀二や安田巌を演じるマキタスポーツは福本世界にハマっている。

これは演技に対するナルシズムの有無がそのまま画面に現れてしまったように見える。

第二話は安定して面白い。

(「その2」は次週掲載予定)

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

成馬零一の最近の記事