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『雪女と蟹を食う』重岡大毅が演じる、追い詰められた青年の心情が切ない。ATG映画のようなグルメドラマ

成馬零一ライター、ドラマ評論家
テレビとリモコン(提供:イメージマート)

ドラマ評論家・成馬零一のドラマ短評『雪女と蟹を食う』1~2話

 テレビ東京のドラマ24(金曜深夜0時12分~)で放送されている『雪女と蟹を食う』は、タイトルの印象からテレ東の深夜枠が得意とするグルメドラマか思っていたが、予想と全く違う重たい話で、まずはそのギャップに驚いた。

 主人公は精神的に追い詰められ、首を吊ろうしていた青年(重岡大毅)。死ぬ前に青年は、テレビで見た蟹を食べたいと思う。そして、図書館で偶然見かけた裕福そうな人妻(入山法子)を尾行し、家に押し入ると「指輪をわたせ」と言って脅迫する。

 しかし、女は平然としており、指輪は渡せないが「それ意外のことは、あなたの指示に従います」と言う。

 「金を出せ」と男が要求すると、女は金庫にある500万円を渡すと言って男を寝室に招き入れ、突然、服を脱ぎ出す。これは罠だと思いつつも「どうせ死ぬんだ」と、男は女の誘いに乗り、そのまま肉体関係を結んでしまう。

 その後、男は女の運転する車で、北海道まで遠距離ドライブをすることに。

 名前を呼び合うため、男は北という偽名を名乗り、女は雪枝彩女と名乗る。

 北はなんらかの理由で孤独な日々を送っており、心が追い詰められている。

 一方、彩女はある小説家の人妻として裕福な日々を送っていたが、彼女もまた、何やら不安定な内面を抱えており、今の生活から逃げ出したいと考えているようだ。

 2人は北海道を目指す道中で観光地に寄り道し、ご当地料理を食べて温泉を楽しみ、夜は情事にふける。

 シチュエーションだけ抜き出せば羨ましい状況だが、自殺することで頭がいっぱいの北は、この幸福な時間の後に襲ってくる絶望がわかっているので、素直に楽しめない。

 テレ東深夜ドラマらしい、グルメドラマのフォーマットをなぞりつつも、この旅の終りには絶望しかないことが繰り返し提示される。

 全体に漂う絶望的な空気は、ATG(日本・アートシアター・ギルド)の文学映画のようだ。

 原作は週刊ヤングマガジン(講談社)に連載された後、漫画アプリ「コミックDAYS」で配信されたGino0808の同名漫画。監督は映画『ミッドナイトスワン』が高く評価された内田英治。

 ヤンマガという男性向け雑誌に掲載されていた漫画が原作ということもあってか、どん詰まりの青年が抱えている弱さと欲望が、これでもかと描かれている。

 主人公の北を演じるのは重岡大毅。アイドルグループ・ジャニーズWESTのメンバーとして活躍する一方、近年は『これは経費で落ちません!』(NHK)や『#家族募集します』(TBS系)で好演し、俳優としての評価が高まっている。

重岡の魅力は、等身大の優しい好青年を演じられることだが、今作で演じる北の余裕のなさはとても生々しく説得力があり「気持ちがわかる」という男性も少なくないのではないかと思う。

 猛暑が続く中、精神的、経済的に追い詰められた男性が起こす悲しい事件が増えている中、北のような男性を主人公にしたドラマが作られていることに、ほんの少しだけ救いのようなものを感じている。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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