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北京での日韓外相会談はわずか30分間しかない

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
21日に韓国の康京和外相と会談する河野太郎外相。わずか30分で何が話せるのか(写真:ロイター/アフロ)

 日韓関係が険悪の一途をたどり、戦後最悪の状況に陥っている。日韓の青少年交流が延期中止になったり、韓国の格安航空会社(LCC)の運休減便が続発したりするなど、草の根の民間交流や観光業、ビジネスに悪影響が出ている。

 日韓関係がぐっと冷え込むなか、河野太郎外相が21日午後に中国の北京郊外で韓国の康京和(カンギョンファ)外相と会談する。3年ぶりの日中韓外相会談に合わせて実施される「サイドライン(場外)」の呼び名で知られる2国間協議だ。しかし、筆者が19日に参加した外務省による外国メディア対象のバックグラウンド・プレス・ブリーフィングによると、この日韓外相会談の予定時間はわずか30分間。通訳が入れば、実質わずか15分ほどだ。いったい何が話せるというのか。悪化の一途をたどる日韓の外相会談の情報を得ようと、このブリーフィングに参加した外国人記者たちも、あまりの会談時間の短さに唖然としていた。

 外務省によると、日中韓外相会談は2016年8月に東京で行われて以来、3年ぶり。8月20日から22日の2泊3日の日程で北京郊外で行わる。20日夕に日中外相会談、21日午前に日中韓外相会談、21日午後に日韓外相会談が予定されている。

 今回の日韓外相会談は、タイ・バンコクで開催した東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合に合わせて開かれた8月1日以来で、日本政府が2日に輸出管理の優遇対象国から韓国を除外することを閣議決定してからは初めて。1日の会談では河野、康両外相は約1時間にわたって、日本政府が韓国に対して実施した半導体材料の輸出管理強化をめぐって、批判の応酬を繰り広げた。

●互いに主張を述べるだけか

 今回のわずか30分間という短い日韓外相会談でも、輸出管理強化や旧朝鮮半島出身労働者の訴訟をめぐる問題(いわゆる「元徴用工問題」)、さらには24日に更新期限を迎える日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)についても議論される見込みだが、お互いにただ主張を述べるだけにとどまると思われる。河野外相は、元徴用工問題で国際法違反の状態を是正するように要求し、韓国側が破棄を示唆するGSOMIAの延長を求める見通しだ。一方、康外相は、日本政府の輸出管理強化について、「元徴用工判決への不満と結びついた不当な経済報復だ」として、改めて撤回を要求するとみられる。

 韓国外交省は19日、在韓日本大使館の西永知史公使を呼び、東京電力福島第一原発で増え続けている放射線物質を含んだ処理水について、海洋へ放出する計画があるか事実確認を求めたばかり。日韓両国ともチキンレースを展開しており、上げた拳をなかなか下ろせない状況だ。

●韓国人はプライドを傷つけられることを嫌う

 「韓国人はプライドを傷つけられることを嫌う」。筆者の友人でもある韓国の大手新聞社の東京支局長はこう話す。特に7月12日に経済産業省の会議室で開かれた日韓輸出管理当局の実務レベルの「輸出管理に関する事務的説明会」以降、韓国では感情的な反発がぐっと広がってきた。韓国では、このような会議では、最低限のマナーとして水を出すことが当然となっているため、「日本は倉庫のような場所に呼び、挨拶もせず、水一杯も出さなかった」とする新聞見出しの記事もあった

 韓国の主要産業の半導体製造などに使われる重要な化学製品3品目の輸出規制に踏み切ったことに加え、こうした一般庶民に分かりやすい「無礼」で韓国のナショナリズムに火を付けた。

 また、韓国人を感情的にさせる無礼はほかにもあった。韓国大法院(最高裁)による元徴用工判決をめぐり、韓国政府は日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置に応じなかったことについて、河野外相は7月19日、南官杓(ナムグァンピョ)駐駐日韓国大使を外務省に呼び、抗議した。その際に、河野外相は南大使の説明の言葉をさえぎったうえで、語気を強めて「極めて無礼だ」と言い放った。

 作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は8月17日号の『週刊東洋経済』で、「外交の世界において首脳や外相の発言が持つ意味は大きい。『売り言葉に買い言葉』のような状況が、事態を袋小路に追い込むことになった」と指摘している。

 一方、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領も8月2日、日本の韓国に対する輸出管理強化を受け、「私たちは二度と日本に負けない」「加害者の日本が居直って、むしろ大口をたたくような状況を決して座視しない」と言い放ち、抗日姿勢を露わにした。日本に対するナショナリスティックな強硬発言を発することで、自らの政治的求心力の向上と国威発揚を図ったとみられる。

 日本人も韓国人も日韓関係については極めて感情的になりやすい。両国それぞれに歴史的文化的なプライドや対抗心があり、対立時には民族主義やナショナリズムが一気に噴き出してしまう。政治家やメディアが歴史や安全保障、領土の問題を煽れば、なおさらだ。

 日韓関係が一部の過度なナショナリズムにも煽られ、険悪になっているなか、日韓首脳がまず真っ向から向き合い、「対話」の雰囲気を徐々に助長していくことが望まれる。

 思えば、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)も2017年から2018年初めにかけ、「売り言葉」に「買い言葉」で、核兵器の使用さえもちらつかせてチキンレースを繰り広げていたが、拳を下ろし、史上初のシンガポールでの米朝首脳会談に踏み切った。日韓とも国民生活への影響、そして、一国主義者で孤立主義者のトランプ大統領率いるアメリカのグリップ(掌握力)の低下と、中国の著しい軍事的台頭など東アジアの厳しい安全保障を考えれば、いつまでもチキンレースを続け、拳をあげているわけにはいかないだろう。

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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