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底なし気味の政治への提言:政治改革特別委員会の設置を活かして、危機的状況を政治制度を進化させる好機に

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
岸田総理が裏金問題等で記者会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 衆議院は、4月11日(木)、与党自民党の派閥の裏金事件の深刻化、閉塞状況化する進展を受けて、既存の「政治倫理・公選法特別委員会(倫選特)」を改組して、「政治改革特別委員会」を設置した。同委員会は、7会派から30名を超える議員が参加し、政治資金規正法改正などを議論する(注1)。

 これで、裏金事件つまり政治資金で底なし気味の政治の状況が、「自民党」内部だけの問題でなく、政治全体(衆院)の問題となり、ある意味で次のステージに入ったといえるだろう。

 だが、よくよく考えていただきたいのだが、この問題は、単なる政治資金の問題や単なる一政党の問題を超えて、政策・人材・政治勢力的にもオールタナティブ(代替案)を打ち出せない野党も含めた政治全体の問題となっている。そして、そのことが、国民の政治への大きな不信や不満になってきているということができる。

 この状況では、「政治改革特別委員会」の打ち出す内容が政治分野にかかわる人々のインナーでの解決だけで終わらせるようであれば、政治不信は収まらず、さらに拡大することにつながるだろう。

 そのような状況がなぜ生まれているのだろうか?

 それは、今の政治や国会で、次のようなことが起きているからである。

・国民の憤りや不信を逆なでするような対応。

・問題や責任追及もなく、責任回避。メインは党内対応。

・小出し、付け焼刃、後だし、後付け、帳尻合わせ。

・パフォーマンス、表層的対応。

・岸田総理の今回の政治資金への弱腰、腰砕けな対応。

・滑稽な国会の姿、右往左往する滑稽でみじめな議員の姿。

・現状を変えられない現状、与党内および野党にオールタナティブがない。

・政治・国会、政策形成への新たな展望がない。

 要は、「政治は何もせず、何もできず、信頼できない。しかもオールタナティブもない」という不信感と怒り・憤りそして期待喪失、失望感、白けの状況になっているのである。

政治に対して根深い不信感、不満、怒りそして諦めなどの様々な思いや感情が高まり、蓄積されてきている
政治に対して根深い不信感、不満、怒りそして諦めなどの様々な思いや感情が高まり、蓄積されてきている提供:イメージマート

 そして、このような現状には、1990年代以降の次のような政治の背景や政治における理解や思いがあるだろう。

・90年代から2000年代までの政治改革とその失敗への改革に対する改革疲れ、失望、諦めの2010年代。他方、日本の地盤沈下と社会的問題の表出化・拡大化のなかでの通奏低音としての政治や政策的不満や反発の蓄積。それが、今回の政治資金の問題で顕在化。

・「これは税金でも自分たちの金ではない」「こんなことをいつまでやっているのか。早くもっと重要なことをやれ」という意見も多い。

・その意味で、政治資金規正の細かい議論は実は重要でないし、いずれにしろ、国民には理解できない部分ができてしまう。

・政治資金に関するできる限りの透明性はあるべきだが、完全透明化(時限を設けての公開は必要だろうが)は逆に政治の意味をなくす面もあるのではないか。

・政治資金や派閥の問題だけに収斂して議論すると特定政党や総理の枠内での対応に陥る。

・議員や政治関係者だけが議論しても、結局は自分たちに有利で、自分たちに都合の良いことしかしない。何をしても、少なくとも国民にはそのようにしか見えないし、感じられない。

・常に「法の抜け道・抜け穴はある」 法律だけでは問題の完全な解決はできない。

・現在の日本は、政治や政策にかけるべき時間とコスト(ポリティカルリソース)を政治の法令違反や醜聞などで浪費している余裕はない。

・国民の「政治」不信感の解消。政治・議員の側の矜持、意識の改善が必要。変わる、新しくなることをイメージさせるアプローチや「空気」の入れ替えが必要。

 このような状況や背景を考えていくと、「政治改革特別委員会」で議員だけが議論して、政治資金規正法の改定をしても、結局は身内に有利な内容にしかならないし、どのよう内容になっても国民にはそうとしか見えない。

 そこでは、政治における今の「空気感」を変えられる、新しいスキームが必要だ。政治、特に民主主義における制度・仕組みは、人間の社会を運営していくためのメカニズムであるので、完璧はないし、ある時期には良くても社会状況の変化に伴い、改善・改良していくことが求められる。そのことこそ、「民主主義が未完の更新」であるといわれる所以だ。

 つまり、私たちは、問題や課題が起きた時に、それを好機、チャンスにして、仕組みを改善していくという意識や視点が必要なのだ。

 そこで、図「諸外国における議会の独立的地位を有する機関・委員会等」をみていただきたい。

 同図をみてもわかるように、海外でも、政治における問題・課題そして社会的な不満などがある場合に、政治・立法府・議会などにおいて、それらの改善のために、新しい独立した委員会などができていることがわかる。しかも、それらは、議員ではなく、民間人から選出された人材から構成されている。要は、政治における危機的状況などにおいて、その状況を打開していくために新しい仕組みが創られ、制度を進化・深化・新化させることは当たり前のことなのだ。

図「諸外国における議会の独立的地位を有する機関・委員会等」 筆者作成
図「諸外国における議会の独立的地位を有する機関・委員会等」 筆者作成

 また、日本の政治の現状は、国民の政治全体への不信や不満を示唆している。この状況では、国会にいくら委員会が設置され、議員だけが議論し関連法令の改正などをしても、国民からの十分な信頼を得ることは難しい。そこでは、異なる形態のアプローチが必要だ。

 そこで次に、図「主要国の政治資金制度に関する監督等機関」をみていただきたい。

図「主要国の政治資金制度に関する監督等機関」 筆者作成
図「主要国の政治資金制度に関する監督等機関」 筆者作成

 日本およびドイツ以外の国々では、議会から独立した政治資金制度に関する監督等機関があるのだ。しかも、それらは、議会から独立しているだけではなく、国により異なるが、調査や監督などにおいてかなりの権限を有していることがわかる。

 日本でも、設置された「政治改革特別委員会」は、法改正をして終わりではなく、今回の政治危機をある意味の「奇禍」として活かし・乗り越え、今後の政治を切り開いていくためにも、「国会に非議員から構成された政治を調査・監視・監督できる独立の仕組み」の創設を行い、日本の政治制度の進化・深化・新化を果たしていくべきだ。

今こそ、新しい政治の可能性を創り、あるべき政治を創り、守るべきだ
今こそ、新しい政治の可能性を創り、あるべき政治を創り、守るべきだ提供:イメージマート

 国会に独立した機関を創設するとなると、「議員が構成するものでなければならない」というような議論が出るだろう。だが、日本にも実はその先例があるのだ。それが、「国会原発事故調査委員会(国会事故調)」(注2)である。

 この国会事故調および上図の海外の事例・経験を活かした形で(注3)、ぜひ今こそ、日本にも「国会政治調査・監督委員会(仮称)」の創設・設置を呼びかけると共に、その創設を通じて、日本の政治および立法を進化・深化・新化させていくことを期待している。

 日本の政治や立法は、その期待に的確に応えてくれると信じている。

(注1)詳しくは、記事「参院、政治改革委12日設置 与野党合意、35人規模 衆院は11日設置、資金規正法改正案審議」(産経新聞、2024年4月9日)や記事「政治改革特別委を設置 衆院 会期内の法改正焦点」(朝日新聞、2024年4月12日)など参照のこと。

(注2)その委員会については、『「国会原発事項調査委員会」 立法府からの挑戦状』(塩崎恭久、東京プレスクラブ、2011年12月)などを参照のこと。

(注3)筆者は、その立ち上げ期および運営期に国会事故調にかかわる貴重な経験があり、その際の経験とそれに基づく同様の仕組みの改善点を、次の記事に書き残してあるので、それを参考にしていただきたい。

「国会事故調に関する私的メモを公表する…日本の政治・政策インフラの向上のために#知り続ける」(Yahoo!ニュース、2021年3月11日)

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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