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月曜ジャズ通信 2014年1月20日 冬晴れゲロッパ絹の靴下号

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

もくじ:

もくじ

♪今週のスタンダード~オール・オブ・ユー

♪今週のヴォーカル~ダイアン・リーヴス

♪今週の自画自賛~スティーヴ・レイシー『リフレクションズ』

♪今週の気になる1枚~ナタリー・コール『エスパニョール』

♪執筆後記

「月曜ジャズ通信」のサンプルは、無料公開の準備号(⇒月曜ジャズ通信<テスト版(無料)>2013年12月16日号)をご覧ください。

マイルス・デイヴィス『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』
マイルス・デイヴィス『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』

♪今週のスタンダード~オール・オブ・ユー

先週は「オール・オブ・ミー」、今週は「オール・オブ・ユー」です。

うーん、紛らわしいかなぁ……。

こちらは“スタンダード界のマイスター”と呼ぶべきコール・ポーター作詞・作曲の1954年の作品。

1955年にミュージカル「絹の靴下」の挿入歌として用いられ、アメリカ人俳優のドン・アメチーが歌いました。1957年には映画化されてフレッド・アステアが歌い、レコーディングされています。

コール・ポーターについては映画「五線譜のラブレター」(2004年公開)でその半生が描かれていましたが、ホモセクシュアリティであったことが大きなポイントになっていました。

彼の創造の源泉がラヴ・パワーであり、そこから数々のラヴ・ソングが生み出されたことを正しく評価するには、ごまかすことが許されない事実だったからでしょう。

すなわち、この曲でポーターが使った“君”という一語にも、1950年代当時のアメリカでは公には語れなかった“忍ぶ想い”というニュアンスが漂っていて、それがまたジャズ・ミュージシャンの琴線に触れたことが想像に難くないわけです。

♪All Of You- Fred Astaire & Cyd Charisse (1957)

映画「絹の靴下」で「オール・オブ・ユー」が流れる場面です。歌っているフレッド・アステアは言わずと知れた1930~50年代のハリウッド・ミュージカルを担った名優。マキシ・スカートの下の美脚が想像される相手役のシド・チャリシーはソ連の文化委員という役柄なので、英語のイントネーションがヘンなんですね。

♪Miles Davis- All of You

舞台版「オール・オブ・ユー」のヒットに真っ先に飛びついたのがマイルス・デイヴィス。1956年9月にレコーディングしています。もしかしたら、CBSが映画公開に先駆けて仕掛けた企画だったのかな?

♪Keith Jarrett Trio- All of You

ピアノ・トリオによるヴァージョンは、1986年のキース・ジャレット“スタンダーズ”によるものをどうぞ。

ダイアン・リーヴス『ビューティフル・ライフ』
ダイアン・リーヴス『ビューティフル・ライフ』

♪今週のヴォーカル~ダイアン・リーヴス

“新”御三家の2人目はダイアン・リーヴス。

1956年米ミシガン州デトロイトの音楽一家に生まれましたが、2歳のときに歌手だった父親が亡くなったため、コロラド州デンバーの祖母のもとで育てられました。

デンバーでも豊かな音楽的環境のなかにいた彼女は、大学の途中でロサンゼルスに移り、歌手としての活動を始めます。1980年代前半は、ビリー・チャイルズとの共演などジャズ的な活動もあったものの、大部分はいわゆるポピュラー・シンガーという括りのなかのものでしたが、それを一変させたのが1987年。

復活の狼煙を上げた老舗ジャズ・レーベル“ブルーノート”との契約を機に、ジャズ・ヴォーカル界に新風を吹き込む話題作を次々に発表したのです。

日本にもジャズ・デビュー直後に来日し(プロモーションおよび第2回マウント・フジ・ジャズ・フェスティバル)、その超絶的な歌唱テクニックと自由奔放な表現力で観衆を魅了しました。

今世紀に入ってからも、2002年にソルトレイクシティで行なわれた冬季オリンピックの閉会式に登場したり、2005年の映画「グッド・ナイト・アンド・グッド・ラック」(監督:ジョージ・クルーニー、日本公開は2006年)にジャズ・シンガー役で出演したりとパワフルな活動を続けており、新作『ビューティフル・ライフ』を引っさげて来日し、さらに磨き上げられた円熟の歌声を披露してくれたことは記憶に新しいところです。

♪That's All- Dianne Reeves

1987年のマウント・フジ・ジャズ・フェスティバルでのステージです。いま見ても圧倒されるステージングですね。

♪Dianne Reeves- Beautiful Life

最新作『ビューティフル・ライフ』の宣伝用トレイラー。ダイアン・リーヴス自身のコメントと、豪華なゲスト・ミュージシャンの紹介などを収録した短い動画です。2013年に亡くなった彼女の従兄弟にあたるジョージ・デュークの映像もあり、感慨もひとしおです。

スティーヴ・レイシー『リフレクションズ』
スティーヴ・レイシー『リフレクションズ』

♪今週の自画自賛~スティーヴ・レイシー『リフレクションズ』

プレスティッジ・レーベルの創立65周年記念企画として11月と12月に1期分それぞれ20タイトルずつ合計40タイトルがリイシューされた“ニュージャズ・クロニクル”のうちの1枚、スティーヴ・レイシー『リフレクションズ』に入っているリーフレットに、富澤えいちが執筆した「MY PRESTIGE」という短いコラムが掲載されています。

内容は本作とは関係なく、「プレスティッジについて自由に書いてください」というオファーに応えたもの。実は、どのアルバムのリーフレットに収録されるのか事前に知りませんでした。

ボクがこのコラムに書いたのはリー・コニッツ『サブコンシャス・リー』にまつわる想い出で、サックスつながりではあるもののスティーヴ・レイシーとはかなり“毛色”が異なっているので、混同しないようにご注意召され。

スティーヴ・レイシーといえば、フリー・ジャズの最前線で活動し、1970年以降も“ポスト・フリー”を掲げてトンがったサウンドを追求し続けたイメージが強かったのですが、1958年収録の本作は全曲セロニアス・モンクの楽曲を取り上げているせいか、スティーヴ・レイシーという音楽家のルーツを垣間見せる、ジャズ愛にあふれた内容となっています。

本家モンクの演奏と比較すればモンクのほうがフリーっぽく聴こえるんじゃないかと思わせるほど、スティーヴ・レイシーの出自はオーソドックスだったことがうかがえるという、まさにレアな作品と言えるでしょう。

ただし、これが気に入ったからといって安易に1960~80年代の諸作に手を出すとヤケドをするので、取り扱いにはくれぐれも注意してくださいね。

♪Steve Lacy Quartet- Ask Me Now

該当アルバムの音源です。メンバーは、スティーヴ・レイシー(ソプラノ・サックス)、マル・ウォルドロン(ピアノ)、ビュエル・ネイドリンガー(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)。

♪Steve Lacy & Toshi Tsuchitori at La Palace Paris スティーブ・レイシー 土取利行

こちらは取り扱い注意の1979年の演奏。

♪Subconcious- lee- Lee Konitz- Warne Marsh 1954

リー・コニッツ『サブコンシャス・リー』はこんな感じ。やっぱり違いますよね。こういうタイプのジャズは“クール・ジャズ”と呼ばれています。

ナタリー・コール『エスパニョール』
ナタリー・コール『エスパニョール』

♪今週の気になる1枚~ナタリー・コール『エスパニョール』

1975年のデビュー以来、アメリカのポピュラー音楽シーンの最前線を走り続ける“歌姫”ナタリー・コールの新作は、自身初となるスペイン語でのアルバムとなりました。

彼女は、“世紀のヴォーカル”と謳われたナット・キング・コールの娘ですが、幼いころに死別しています。

デビュー曲がグラミー賞を受賞するなど脚光を浴びてからも、その話題に触れようとせずに過ごした期間が長かったのですが、1991年のアルバム『アンタッチャブル』で父親の愛唱曲をカヴァーして以降は、心に残っていた“わだかまり”も氷解したようです。

今回のアルバムのアイデアも、発端にはナット・キング・コールのベスト・セラー『コール・エスパニョール』(1958年)や『ミス・アミーゴ』(1962年)の影がちらつき、アメリカの音楽シーンにヒスパニックな旋風を巻き起こした先駆者の功績をリスペクトするかたちになっています。

選曲はいずれもラテン歌謡でもおなじみの曲、つまり“古い曲”ばかりです。それをオリジナルのスペイン語で、ストリングスを混じえたオーソドックスなアレンジで歌うナタリーは、まるで昔の写真から抜け出してきたようにさえ思えます。

しかしながら、こうした時代的なギャップを違和感なく“演じて”しまうことができるところがナタリー・コールの真骨頂でしょう。そう、彼女は“時代の寵児”である自分の経歴を昇華させ、タイムレスな存在になりつつあると言えるのです。

だからこそ本作は、懐メロでもリメイクでもなく、現在進行形のポップなサウンドとしてリスナーに受け入れてもらうことができるのです。

特筆しておきたいのは、「アンド・アイ・ラヴ・ヒム」。原曲はザ・ビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ハー」で、彼女は歌詞の“彼”を“彼女”に変えて、スペイン語に仕立てました。この本作ならではの異質なアプローチを歌いこなしてしまえるところが、ナタリー・コールの真の実力であり、愛すべきキャラクターなのです。それをタップリと楽しみながら、ラテンの世界を味わっていただきましょう。

♪Natalie Cole En Espanol

『エスパニョール』についてナタリー・コールとプロデューサーのルディ・ペレスが語っているプロモーション動画です。バックで彼女の歌が父親のナット・キング・コールの歌とオーヴァーラップしているところなどを楽しみながら、アルバムの雰囲気を味わうことができる構成になっています。

♪Natalie Cole- This will be 1975

ナタリー・コールのデビュー曲「ジス・ウィル・ビー」は、ビルボード全米総合チャート6位のヒットを記録し、グラミー賞の最優秀R&B女性ヴォーカル賞、最優秀新人賞に輝きました。日本では翌1976年に東京音楽祭でグランプリを受賞した「ミスター・メロディ」のほうが耳馴染みがあるかもしれませんね。

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富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』
富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』

♪執筆後記

ナタリー・コールの動画を探していたら、こんなのを見つけて、しばらく手を止めて見入ってしまいました。

「ソウル・トレイン」というのは1971年にスタートしたアメリカのTV音楽番組で、日本にディスコ・ブームを巻き起こすきっかけとなりました。

当時まだ小学生だったボクも、夜中に放映していたこの番組を親の目を盗んで見ながら、世の中には学校では教えないような音楽があるんだなぁとドキドキしていたことを微かに覚えています。

ナタリー・コールの1976年のヒット曲「ミスター・メロディ」を手繰っていくうちに見つけたのがこの「JAMES BROWN Soul Train 1974」。歌っているのは西田敏行でもグッチ裕三でもなく、“ファンクの帝王”ことジェームス・ブラウンですので念のため。

それにしてもバックのJBホーンズ、キレキレのプレイですね。トロンボーンのフレッド・ウェズリーとアルト・サックスのメイシオ・パーカーにはインタビュー取材をしたことがあるので、自分が中学生だったころの彼らの映像を見ているとなんか不思議な感じがします。JB'sとギャラでモメたときにみんなをクビにして、代わりにデヴィッド・マシューズを雇って打ち込みで再現させたという話をマシューズ本人から聞いたこともあったりと、帝王の周辺はジャズ的なエピソードにも事欠きません。

と、今週はちょっと脱線気味で失礼いたします。

富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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