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拝啓、NHK様。今年の「紅白」どうでしょう?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

拝啓、NHK様。

今年の「NHK紅白歌合戦」(以下「紅白」)の司会者や出場歌手が公表されました。平成最後の国民的番組、果たしてどんな内容になるのでしょう。ここ数年の「紅白」を振り返り、今後を考えてみたいと思います。

昨年の「紅白」、覚えていますか?

まずは、昨年(2017年)の大晦日に放送された「第68回NHK紅白歌合戦」です。平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は前半の第1部が35・8%、後半の第2部は39・4%でした。特に第2部は「視聴率歴代ワースト3」だったことから、悪い意味で話題となりましたよね。

しかし、「紅白」を視聴率だけで評価するのは一面的過ぎるのではないでしょうか。ネット社会の進展に伴い、視聴者側におけるテレビの優先順位は下がり続けてきました。また番組を放送時に見るのではなく、録画などで好きな時間に見る「タイムシフト視聴」も日常化しています。

かつて、ヒットドラマといえば視聴率が20%以上のものを指していました。いまや15%で十分ヒット作と呼ばれ、10%で及第点といわれる時代です。またバラエティ番組でも、年間平均で15%を超えるのは「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)や「ザ!鉄腕!DASH!!」(同)など数少ない。

そんな状況下、約4割もの人が同じ番組をリアルタイムで見たことに驚くべきなのです。いまだに「紅白」はそれだけの求心力を持っているのかと、逆に感心したと言っていい。

昨年の内村光良さんの臨機応変な司会ぶりは確かに見事でした。しかし、誰もがNHKの「LIFE!~人生に捧げるコント~」を見ているわけではありません。同番組を前提とした演出が目立つことが気になりました。

美術セットとしてはステージ上に巨大なパネルが設置され、歌い手ごとに様々な映像を背後に映し出していました。使い勝手はいいのでしょうが、安上がり感は否めない。加えて凡庸で退屈なカメラワークが多かったことも残念です。

出色の出来だった2016年

全体の出来としては、明らかに前年(16年)のほうが上でした。出場者と曲目の選定、歌う順番、ステージ美術、映像設計、司会進行、さらに楽曲とリンクしたミニ・ドキュメンタリーなども含め、視聴者の「求めているもの=見たいもの」と、制作側が「創りたいもの=見せたいもの」のバランスが絶妙だったのです。

特にバラエティ要素に工夫がありました。映画「君の名は。」や「シン・ゴジラ」、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、さらに「PPAP」など、16年のポピュラーカルチャーを反映したものだったという点で、音楽で1年を振り返る「紅白」本来の趣旨にも合致していました。

また、楽曲とリンクした「ミニ・ドキュメンタリー」と呼べるVTRも見ごたえがありました。ゆずの「見上げてごらん夜の星を~ぼくらのうた~」は、16年7月に亡くなった永六輔さんが作詞した名曲に、新たな詩とメロディーを加えたもの。ゆずは、永さんの“親友”である黒柳徹子さんを訪ね、永さんとこの曲について、貴重な証言を聞き出していましたっけ。

桐谷健太さんは、奄美大島の小学校や東日本大震災の被災地である石巻市を訪問。その上で、全国各地から集まった歌声と共に、「海の声」を歌い上げました。そして氷川きよしさんが「白雲の城」を歌った生中継先は、16年4月の熊本地震で被災した熊本城でした。

司会の有村架純さんは、夏の台風で大きな被害を受けた岩手県久慈市に行き、復旧活動のボランティアを続けてきた地元の中学生たちと交流しました。同じく司会の相葉雅紀さんは、1964年の東京オリンピックで、金メダル第1号となった重量挙げの三宅義信さんにインタビュー。16年がオリンピックイヤーだったこと、また4年後には東京がその舞台となることを思わせてくれました。

これらの「ミニ・ドキュメンタリー」は、短いながらも内容が充実していました。しかも、押しつけがましさが希薄でした。オーバーに言えば、「紅白」は見るけれど、「NHKスペシャル」や「ETV特集」などはあまり見ないという視聴者にも、2016年がどんな年だったのかを、テレビを通じて再認識させてくれたのです。

今後の「紅白歌合戦」、どうします?

とはいえ、前述のように昨年の「紅白」が約40%もの視聴率を獲得したことも事実です。同じ内容を、多くの人に、同時に届けることができる“テレビの力”を再認識すると共に、その力を何に使うのか、どう生かすのか、送り手側はあらためて考えてみて欲しいと思います。

音楽に対する趣味・嗜好も多様化し、過去のように単なる大型音楽番組を目指していけばいい時代ではありません。また中途半端なバラエティ番組にしてしまうのは余りに惜しい“国民的番組”です。その悪い例が2015年の「紅白」でした。

民放各局のヒットアニメのテーマ曲が、多数く歌われました。次に映画「スター・ウォーズ」の人気キャラクターも登場しました。ただし演出が凡庸で、サプライズ感はほとんどありません。先方は新作のPRになりましたが、「紅白」にとってどんな意味があったのか。

加えて、恒例のディズニーショーです。ミッキーのキレのいいダンスは見事ですが、年始客に向けた東京ディズニーランドのプロモーションにしか見えませんでした。そしてダメ押しが吉永小百合さんの登場で、映画「母と暮せば」の宣伝臭が強過ぎました。つまり、全体が音楽番組というより、完全に“音楽バラエティ”だったのです。

そこから一転して、「見たいもの」と「見せたいもの」のバランスを巧みに保ちながら、「ショー」としての成熟度・洗練度を増したのが16年です。おそらくその延長上に今後の「紅白」があるのではないでしょうか。これからの数年は一種の改革期間であり、出場歌手の顔触れも、楽曲の見せ方も、まだまだ変わっていくはずです。

もちろん、今年の“中身”はほぼ決まっていると思いますが、今後のことを考えてみた場合、極端なことを言えば、「男女(紅白)に分かれての勝負(合戦)」という仕組みそのものを、あえて見直してみるのもいいかもしれません。

性別、年代、音楽ジャンルなどを全てシャッフルし、その年の音楽シーン全体と1年という日々の流れを振り返ることができるような「しめくくり番組」とするのです。さらに放送時間も、以前のように午後9時からの2時間45分にして、番組の密度を高めることだって考えられます。形骸化した「大型」にこだわり続けることもないと思います。

ただし、最後の「蛍の光」の大合唱だけは止めてはいけません。「紅白」の高まりの余韻にひたる間もなく、雪深い寺院から響いてくる、あの朗々たる除夜の鐘の音こそが、日本の正しい大晦日なのですから。

いずれにせよ、この60年間、毎年ほぼ欠かさず見てきた「紅白」。今年もまた、12月31日の夜を楽しみにしています。

                                                             敬具

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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