言えば言うほど人が動かなくなる言葉、フレーズとは?
なかなか言うことを聞かない人がいます。行動を変えてほしいと言ってもなかなか行動を変えてくれない部下がいます。そういう場合、あなたはどうしますか。私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。売れる商品を開発したり、ブランド力をアップさせたりして売上目標を達成させるわけではありません。従業員……とりわけ営業や販売員の行動を劇的に変えて目標を達成させる支援をしています。ですから多くの経営者、マネージャーから、どうすれば人は行動を変えるのか? どのように言えば部下は動くのか、といった多くの相談を受けます。
相手を説得するときになぜその行動を起こしたほうがいいのかその論拠を正しく説明したほうがいいと言う人がいます。なぜ行動を変えた方がいいのか。相手に、その行動をとったほうがメリットがあると理解してもらうことがまず先決だ、と言う人もいます。理屈ではその通りなのですが、万能薬ではありません。現場でコンサルティングをしているとわかります。「正しい論拠を伝えれば、相手は行動を変える」というのは綺麗ごとです。あーでもない、こーでもないと、「やらない理由」「できない理由」を言う人もいるのです。
特に危険なフレーズは相手のメリットを強く打ち出す論拠です。「君のため」「君の将来のため」「君の家族のため」などと言うと、相手の態度をさらに硬化させることがあります。気を付けたいですね。
「なァ、もっと積極的に行動を変えていこうよ。もっと組織のために動いてくれないか。私はね、君の将来のことを思って言ってるんだよ。何を隠そう、君は当社の幹部候補生だ。常々、社長ともそう話してるんだから」
などと言うと、
「私は別に、将来、課長や部長になりたいなどと思っていません。出世したいと考えた事は1度もないです」
と、残念な返答が返ってきたりします。別バージョンも紹介しましょう。
「君は確か、昨年一軒家を立てたそうだね。素晴らしいじゃないか。さぞかし奥さんやお子さんも喜んだに違いない。ただ、住宅ローンも大変だろう。20年、30年払い続けるのはしんどいはずだ。お子さんの教育費もバカにならないだろうしね。もっと営業成績を上げれば、給料も増えるし、きっと返済もラクになっていくだろう。家族も幸せになるはずだ。な、もっと結果を出せるよう、一緒に考えよう、行動を変えていこうじゃないか」
上司が諭すように、こう話しても、
「わが家の住宅ローンや子供の教育費のことまで心配してくださってありがとうございます。ただ、私はお金さえあれば幸せになれるだなんて思っていません」
といった、ひねくれた態度で反論されることになるかもしれません。
「私は別に、お金さえあれば幸せになれるだなんて言ってないよ。ただ、君の将来とか、家族のことを考えるとだね……」
「今のままでかまいません。だいたい、妻のお父様が多くの不動産を所有している関係で、返済に困ったら、いつでも力になると言われています」
「ああ、そうなのか……。住宅ローンの返済に困っていないことはわかった。しかし、私は君にもっと行動を変えてほしいんだよ。組織のために」
「私が昨年立てた一軒家のローンについて話を持ち出したのは、部長のほうですよ」
「いや、確かに、そうだけど……」
「もう一度言いますが、我が家はそれほどお金に困っているわけではありません」
「うーん……。だったら、別にいいんだが、その……」
「君のことを思って、あえて私は言ってるんだ」などと言えば言うほど、相手に「すり替え」の言い訳をさせるネタを与えてしまいます。本論からかけ離れてしまうのです。
私はよく「未完了効果」という言葉を使います。納得感は未完了。しかし、とりあえず行動を進めることで目標達成に向けた学習効果が高まることを「未完了効果」と呼びます。まだ何もスタートさせていない時点だと「わからないことがわからない」状態。しかし、何らかの行動をはじめることで、どのような阻害要因があるのか、どのような想定外の問題にぶち当たるかが判明します。こうして仮説の精度が上がっていくのです。
部下から「どうして、それをやらなくてはならないんですか。意味がわかりません」と反論されても、
「やればわかるから」
と返答します。
「やればわかるからいいんだよ」この一点張りでいきます。
「やればいい、と言われても……。納得できません」
「納得できないって、どういうこと?」
「ですから、私は納得できないんです」
「だから何? 納得できないから、私がやってくれ、ということができないわけ? すべてのことを納得しないと、私の依頼を聞けないのか?」
「いや、そういうわけでは……」
「じゃあ、何なの?」
「何なの、と言われましても」
「やってよ」
「え……」
「やればわかるから、やってよ」
「……」
この後は無言です。「私が上司で君は部下。上司の私がやってくれと言ってるんだからやりなさい。それだけ」という態度を繰り返します。行動を変えるべき論拠を言って、納得する相手ならともかく、そうでない人は、どんな理屈を並べても行動を変えません。「変えたくないから変えたくない」と駄々をこねているのです。当たり前ですが、論理的思考能力ゼロです。ゴチャゴチャ言う部下に、ゴチャゴチャ言っても、さらにゴチャゴチャ言い返されるだけです。論理的にリーディングしようとしても難しいと言えるでしょう。
「面倒くさがりや」の人を動かす究極の方法に書いたとおり、上司は部下にとって多少は「面倒くさい人」であったほうがいいのです。理屈ではありません。「どうしてやらなくちゃいけないんですか」と反論しても「いいからやれよ」。「納得できません」と言われても、「君が納得する必要があるの?」と返すような上司は、とても面倒な存在です。
上司が言っていることが根本的におかしくて、不誠実きわまりない話ならともかく、そうでないなら部下も上司が言っていることは理解できるのです。自分の行動をもっと変えたほうがいい。もっと組織に貢献したほうがいい。でも、わかっちゃいるけど、なかなか変えられない。ついつい反論してしまう……ということなのです。ですから、ドン!と背中を押しましょう。「いいからやれって」と笑いながら言いましょう。反論されても「とにかくやれって」と一蹴しましょう。行動を変える理由は、先にあるのではなく、後にあるのです。行動を変えてはじめてわかることのほうが、圧倒的に多いのですから。