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駅突き落とし事件から考える知的障害者の犯罪

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

刑務所に入る人の2~3割が知的障害。では、どうすれば良いのか。

■駅突き落とし事件容疑者逮捕

大阪市のJR新今宮駅ホームーで発生した突き落とし事件で、容疑者が逮捕されました。殺人未遂容疑です。何の面識もない人を、駅のホームからいきなり突き落としたとされる事件です。

このような無差別犯罪では誰が被害者になるかわからないため、私達は強い不安を感じます。

報道によれば、容疑者男性には「軽い知的障害」があるとされています。

産経新聞は、次のように伝えています。

母親によると、容疑者は小学生のころから登校拒否になり、中学2年のとき、精神疾患との診断を受けて通院と薬の服用を続けてきた。中学卒業後は養護学校などに通っていたが、なじめなかったという。

今年11月ごろからは薬の服用をやめ、就職活動をしていた。

出典:産経WEST容疑者の母「世間を騒がせ、申し訳ありません」「就職活動、悩んでいた」2016.12.13

別の報道では、「パンが動いて見える」「耳元で誰かがささやく」などと話すこともあったといいますが、容疑者の障害(精神疾患)の具体名として報道されているのは、現在は知的障害だけです。ここでは、知的障害者の犯罪一般について考えたいと思います。

2020東京オリンピック・パラリンピックを前に、私たちは障害者をどのように見るのでしょうか。

*知的障害者のスポーツ大会としては「スペシャルオリンピックス」がありますが、パラリンピックの出場枠にも知的障害があります。

■刑務所に入る人の2~3割が知的障害者

刑事ドラマや推理小説に出てくる犯罪者は、たいてい有能で綿密な犯行計画を立てます。実際の刑務所には、国立大学出身のような人もいますが、知的障害を持った人が大勢います。

刑務所に入所する人の2~3割が知的障害者だとする調査もあります。中には、難しい裁判用語がわからないまま裁判を受け、入所してくる人もいます。繰り返し犯罪を犯し、何度も刑務所に入る人もいます。

知的障害者が危険だというわけではありません。知的障害者も、しっかりとした家族がいて、環境に恵まれれば、幸せで社会貢献ができる人生を歩んでいます。知的障害がある方々も、多くの人は、働きたい、人々の役に立ちたいと願っています。

しかし、知的障害があるために社会的に阻害され、適切な支援も受けられず、犯罪者になっていく人もいます。彼らをただ刑務所に入れるだけでは、防犯にはなりません。

また別の問題として、知的障害者は容易に誘導尋問に乗ってしまうために、冤罪も多いのではないかとの指摘もあります。

■刑事罰と福祉的サポート

私達社会も、知的障害者の犯罪と更生の問題に、少しずつ気づきつつあります。

窃盗事件での執行猶予期間中に万引したとして、窃盗罪に問われた東近江市の30代男性の判決で、大津地裁(高橋里奈裁判官)が28日までに、懲役1年、保護観察付き執行猶予4年(求刑懲役1年)を言い渡していたことが分かった。裁判官は再犯と被告の知的障害の関係を指摘し、実刑より社会的支援を受けて更生する方が妥当と判断した。

出典:京都新聞「猶予中に再犯、再び猶予判決 大津地裁、知的障害者に」2016.4.29

この裁判では、通常であれば実刑になるところを、福祉の支援で更生できるとし、検察も控訴しませんでした。数年間刑務所に入れ、出所したらまた犯罪を犯し、また逮捕する。そんなことを繰り返すよりも、社会の中で生きていけるように支援したほうが良いと判断したのでしょう。

■障害者の犯罪と私達

今回の事件報道では、ネット上で早速「知的障害だから無罪になどするなよ!」といったコメントが多く見られます。もちろん、責任に応じた制裁は必要です。被害者保護は当然であり、被害者の応報感情も無視できません。けれども、刑罰だけでは更生できない人々もいます。

東京パラリンピックに向って、いま知的障害やその他の障害全体について、私達の姿勢が問われています。身体障害以上に、知的障害は周囲からの理解を得にくく、孤立しやすいものでしょう。

向こうから車椅子の人が来たからといって、露骨に嫌な顔をする人は少ないでしょう。でも、向こうからへらへら笑いながら、あるいはぴょんぴょん飛び跳ねながら誰かがやってきたら、不愉快そうによける人もいるでしょう。

社会から阻害されることが、犯罪者を生みます。

今回の報道によれば、「お母さんがつきっきりで世話をしているのをよく見ていた」と語る近隣の人もいます。

知的障害者は、軽度も含めれば約2パーセントの確率で生まれてきます。どの家族にも、知的障害児が生まれる可能性があります。

社会が誰かを、○○病とか○○障害と名づけるとしたら、それはその人を一方的に責めるのではなく、社会的全体で支援していくという意味なのではないでしょうか。

○山本譲司著『累犯障害者』新潮社

手をつなぐ育成会(知的障害児者の幸せを願い活動する会)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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