Yahoo!ニュース

俺の振り飛車どう? 豊島将之九段、四間飛車を採用! 藤井聡太名人に挑戦する名人戦七番勝負第5局

松本博文将棋ライター

 5月26日。北海道紋別市・ホテルオホーツクパレスにおいて、第82期名人戦七番勝負第5局▲藤井聡太名人(21歳)-△豊島将之九段(34歳)戦が始まりました。

「定刻となりました。第82期名人戦七番勝負第5局。藤井聡太名人の先手番で対局を開始してください」

 立会人の屋敷伸之九段が対局開始の合図をして、両対局者は一礼。持ち時間9時間、2日制の対局が始まりました。

 先手番は藤井聡太名人。まずはいつも通り、茶碗を手にして、お茶を飲みます。そして初手、飛車先の歩を突きました。

 まず注目されるのは、後手・豊島九段の作戦です。2手目は角筋を開きました。これまでと同様の立ち上がりです、第1局では横歩を取らせてからの乱戦に進みました。第3局では豊島九段の新型雁木に対して藤井名人が速攻に出ています。

 そして本局。序盤の駆け引きの末、16手目、豊島九段は四間飛車に振りました。どこかで出るかもしれないと言われていた振り飛車が、ついにここで出たというわけです。藤井名人からの誘いに応じたところもあるのかもしれませんが、それでも相当な準備がなければできない決断でしょう。

 豊島九段は近年、たまに振り飛車を指していました。

 SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2023では羽生善治九段・渡辺明九段(東軍)-藤井名人・豊島九段(西軍)によるリレー将棋が指されました。その際には、豊島九段が三間飛車を選んでいました。

 昔もいまも、振り飛車はファンの間では人気が高い戦型です。名人戦では、升田幸三元名人、大山康晴15世名人らが常連だった頃には、振り飛車対居飛車の戦型が多く見られました。

 しかし近年、タイトル戦の番勝負では居飛車党同士の対戦が多く、振り飛車の採用率はかなり少なくなっていました。そうしたこともあって、名人戦で豊島九段が飛車を振ったのを見て、ネット上では早くも歓声が見られました。

 2020年の名人戦第5局▲豊島名人-△渡辺明挑戦者戦では、序盤で渡辺挑戦者が飛車を4筋に転回しました。

 ただしその一局は「振り飛車」「四間飛車」のカテゴリには入れづらいでしょう。

 どちらかが序盤の早い段階で飛車を移動し、玉を囲い合う振り飛車は、名人戦では2011年の第3局▲森内俊之挑戦者-△羽生善治名人戦、後手の羽生名人が中飛車に振って以来のようです。

 谷川浩司九段(17世)、森内九段(18世)、羽生九段(19世)ら歴代の永世名人は、基本的には居飛車党ですが、タイトル戦番勝負の中で、ときおり効果的に振り飛車をまぜてきました。

 1972年の名人戦七番勝負では、振り飛車の王者・大山康晴名人に対して、2勝3敗でカド番に追い込まれた中原誠挑戦者(のちに16世名人)が逆に振り飛車を採用して逆転制覇につなげた故事もありました。

 本局、豊島九段の四間飛車に対して、藤井名人は居飛車穴熊を目指します。28手目、豊島九段は飛車を4筋から3筋に転じて速攻を見せた局面で、12時、昼食休憩に入りました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事