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挑戦者・渡辺明九段、会心の指し回しで藤井聡太王位に勝利 王位戦七番勝負第2局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月17日・18日、北海道函館市「湯元 啄木亭」において伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負第1局▲渡辺明九段(40歳)-△藤井聡太王位(21歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 17日9時に始まった対局は18日17時40分に終局。結果は97手で渡辺九段の勝ちとなりました。

 七番勝負は両者ともに1勝1敗(1千日手)となりました。

 第3局は7月30日・31日、徳島県徳島市・渭水苑でおこなわれます。

 藤井王位と渡辺九段の通算対戦成績は藤井21勝、渡辺5勝。渡辺九段にとっては1年2か月ぶりの勝利となりました。

渡辺九段の会心譜

 第1局の先後は、千日手局は藤井王位。指し直し局は渡辺九段でした。現在の将棋界のタイトル戦番勝負では「一局完結方式」が採用されているため、第2局の先手は渡辺九段になります。

 戦型は第1局指し直し局と同様に、相掛かりとなりました。渡辺九段は同じように指し進めていきます。最後は詰みを逃して逆転負けを喫したものの、途中までは渡辺九段が押していた展開でした。

 24手目、藤井王位は縦に飛車を進めるモーションで、渡辺陣の歩を取ります。藤井王位から手を変えて、前局とは異なる進行となりました。渡辺九段は歩を損した代償に、いち早く陣形の整備を進めます。

 49手目。渡辺九段は藤井陣の左右を利かせる角を自陣に打ち据えます。

 52手目。藤井王位が角を合わせた局面で渡辺九段が53手目を封じ、指し掛けとなりました。

 明けて2日目。渡辺九段の封じ手は、自然に同角と応じる手でした。

 渡辺九段はうまく戦機をつかんだ形で、ここから本格的な戦いが始まります。

藤井「序盤の組み上がりのあたりから、具体的にどういうふうに戦いが始まるかというのが非常に難しい将棋だったんですけど。ちょっとそこでバランスを崩してしまったので、力不足だったかなと思います」

 61手目、渡辺九段が藤井陣の7筋に歩を打った手が好手でした。

藤井「▲7四歩と垂らされたところでちょっと、苦しい可能性はあるかなという気がしたんですけど」「やっぱりこっちの3筋の形が思っていたよりもキズになってしまうような感じがしたので。そのあたりは少し自信がないかなという気がしていました」

 64手目。今度は藤井王位が渡辺陣の3筋に歩を垂らします。対して渡辺九段が52分考え、銀取りに歩を打ったのがうまい順でした。

渡辺「△3八歩垂らされたところは▲3五歩からやっていかないとしょうがないかなとは思ってたんですけど。手段2つぐらいある局面が続いたので。少し指せてるのかなとは思ってたんですけど。ただ、どれも変化としては際どいので。ちょっとどうかなっていうところはありました」

藤井「△3八歩に▲3五歩で切り返されて、相当苦しい形になってしまったので。(1日目、封じ手前に)▲5六角と打たれたあたりの対応がよくなかったかなという気がしています」

 ペースをつかんだ渡辺九段は、強く踏み込みます。飛車を取らせる代償に角桂を取り、藤井陣に角を打ち込んで優位を確かなものとしました。

藤井「そのあたりはかなり厳しい形勢だと思っていました」

 渡辺九段は中段に角を成り返り、手厚く馬を作りました。

渡辺「▲6五馬作ったところはちょっと厚いかなと思ったんですけど。ただそのあと、▲6五桂いいタイミングで跳ねないと、△7七歩打たれるんで。そのあたりがちょっと、組み立てはけっこう難しくて、長考になってたところですかね」

 藤井王位はときおり、がっくりとうなだれます。これは第1局でも見られた仕草ですが、第1局ではそこから逆転劇が生まれました。

 89手目。渡辺九段は中段に桂を跳ね出し、藤井玉の上部に利かせていきます。藤井王位が銀を上がって受けたのに対し、91手目、王手で放った中段の角が決め手となりました。

 渡辺九段は桂を成り捨て、角を切り飛ばして鮮やかなフィニッシュ。藤井王位に粘る余地を与えない会心譜となりました。

渡辺「なんかつかみどころが難しい将棋ではあったんですけど。2日制なのでそのあたりが、難しいながらもけっこうケアできた部分は多かったかなと思います。あんまり間がなくまた次あるので。それまでに作戦を練って臨みたいと思います」

 王位戦七番勝負初登場で、初の王位獲得を目指す渡辺九段。1勝1敗のタイに追いつきました。

藤井「(次局は)まずはもう少し競り合いにできるようにがんばりたいと思います」

 藤井王位は明日7月19日、22回目の誕生日を迎えます。22歳での永世王位資格獲得はなるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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