周囲1680万光年を完全破壊!?初期宇宙で恐怖のクエーサーが判明
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「周囲の環境を破壊する恐るべき天体を確認」というテーマで解説していきます。
国際的な研究チームは、超遠方にあるクエーサー「VIK J2348-3054」の周囲の環境を分析したところ、驚くべき現象が確認されました。
この成果は2024年7月に公表されています。
●宇宙一明るい天体「クエーサー」
こちらの画像、一見天の川銀河内の恒星に見えますが、実は恒星と比べて桁違いに遠くにあり、桁違いに明るく輝く「クエーサー」という分類の天体です。
よく知られている恒星までの距離はせいぜい数百光年、遠くても数千光年程度ですが、この天体との距離を調べると、数十億光年以上という、桁違いの超遠方に存在していました。
恒星と変わらぬ明るさで見えて、恒星より遥か彼方に存在するということは、実際はとてつもなく明るい天体であるとわかります。
実際クエーサーは、超新星爆発のように突発的に輝く天体や現象を除いた、比較的長期にわたって安定して輝き続ける天体としては、「宇宙で最も明るい天体」と言われています。
そのまばゆい光の起源は超遠方にある銀河の中心にある、超巨大なブラックホールに膨大な量の物質が流れ込むことでその周囲に形成される、降着円盤であると考えられています。
ブラックホールの強大すぎる重力により、降着円盤は数十億度という超高温に加熱されており、ブラックホールが属する銀河全体と比べ桁違いに明るく輝くこともあるそうです。
●周囲を破壊するクエーサーが判明
国際的な研究チームは、超遠方にあるクエーサー「VIK J2348-3054」の周囲の環境を分析し、その成果を2024年7月に公表しました。
VIK J2348-3054は以下、「今回のクエーサー」と表記します。
現在の地球からは、今回のクエーサーの約130億年前の姿が見えています(z=6.9)。
つまり光が放たれてから130億年もかけて地球に届くほど、今回のクエーサーは超遠方に存在するということです。
○クエーサー周囲の銀河を特定する
これまでの様々な研究で、非常に遠方にあるクエーサーは物質の高密度領域に存在すると考えられています。
そのため理論的には、クエーサーの周囲には多くの銀河や、星形成が活発な領域が存在するはずです。
しかし一般的な銀河はクエーサーと比べて極めて暗いため、クエーサーの周辺の銀河を観測で特定するのは困難です。
そんな中でしばしば観測対象となるのが、ライマンα輝線銀河(Lyman α emitters, LAE)という銀河です。
LAEには活発な星形成領域が存在し、そこからライマンα線と呼ばれる特定の波長の電磁波が強く放射されています。
ライマンα線に絞って観測可能なので、周囲のノイズを排除して検出しやすいのです。
○分析と結果
研究チームは今回のクエーサーの周りに、38個のLAE候補を発見しました。
比較として、Chandra Deep Field South (CDF-S) という有名な領域では、同体積内のLAE候補が2個だけ発見されています。
このことから今回のクエーサーの周りは理論通り非常に高密度で、星形成が活発なLAEも多数存在することがわかりました。
それにもかかわらず、クエーサーの周囲1680万光年だけはLAE候補が全く存在しないのです。
この領域のLAEが偶然存在しない確率は1.2%と低く、何らかの物理現象が作用していることを示唆しています。
この状況が偶然生じた可能性も当然残されていますが、最も可能性が高い有力な説明として、クエーサーからの強烈な放射によって周囲の環境で星形成が妨げられている可能性が指摘されています。
前述したように、クエーサーの莫大なエネルギーの放出源は、銀河中心に存在する超巨大ブラックホールの降着円盤などの構造です。
これらの構造はどれだけ巨大でもせいぜい数光年規模ですが、そのような構造が周囲1680万光年という広大な範囲を、星が新たに誕生できない死の世界にしてしまうというのは、改めてクエーサーという天体の壮大さを思い知らされます。
ただし現時点では、今回のクエーサーの周囲にだけ星形成が活発な銀河が存在していない事実に対する明確な説明は存在していません。
今後のより広範囲で詳細な観測と分析が求められています。