メジャーリーグ歴代最高の新人王バッターは誰だ?
メジャーリーグの最優秀新人選手賞は1947年から始まり、記念すべき最初の受賞者は黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンが選ばれた。最初の2年間はメジャーリーグ全体で1人だったが、3年目の1949年からはアメリカン・リーグ(AL)、ナショナル・リーグ(NL)の各リーグから1人ずつ選ばれるようになった。
過去に新人王に選ばれた打者はジャッキー・ロビンソン(1947年、ブルックリン・ドジャース)、ウィリー・メイズ(1951年NL、ニューヨーク・ジャイアンツ)、カル・リプケンJr.(1982年AL、ボルチモア・オリオールズ)、デレク・ジーター(1996年AL、ニューヨーク・ヤンキース)など球史に名前を残す殿堂入り選手から、ボブ・ハメリン(1994年AL、カンザスシティ・ロイヤルズ)、マーティー・コードバ(1995年AL、ミネソタ・ツインズ)といった一度もオールスターにも選ばれずに新人の年の輝きを取り戻せなかった選手まで多種多様なキャリアを辿ったバッターがいる。
中には新人離れした活躍で1年目からメジャーの中心選手となった選手もいたが、歴代最高の新人王バッターは誰なのだろうか?
まずは候補者を10人まで絞り、その10選手の成績とインパクト、そして球界に与えた影響を考えながら、歴代最高の新人王バッターを決めてみたい。
候補者に選んだのは以下の10選手。
- ジャッキー・ロビンソン(1947年、ドジャース、一塁手)
- ディック・アレン(1964年NL、フィリーズ、三塁手)
- フレッド・リン(1975年AL、レッドソックス、中堅手)
- マーク・マグワイア(1987年AL、アスレチックス、一塁手)
- マイク・ピアッザ(1993年NL、ドジャース、捕手)
- アルバート・プーホルス(2001年NL、カージナルス、一塁、三塁、外野手)
- イチロー(2001年AL、マリナーズ、右翼手)
- マイク・トラウト(2012年AL、エンゼルス、中堅手)
- アーロン・ジャッジ(2017年AL、ヤンキース、右翼手)
- ピート・アロンソ(2019年NL、メッツ、一塁手)
10位:マーク・マグワイア
このときのマグワイアはまだ筋肉増強剤を使っていなかったが、当時から筋肉隆々の身体を誇り、前年の新人王のホゼ・カンセコと「バッシュ・ブラザーズ」を結成。5月に月間15本塁打を放ち、オールスターまでに33本塁打を記録。それまでのメジャー新人記録はウォリー・バーガー(1930年、ボストン・ブレーブス)とフランク・ロビンソン(1956年、レッズ)が持っていた38本塁打だったが、マグワイアは記録を大きく塗り替えた。2試合を残して50本塁打の大台にリーチをかけたが、長男の誕生に備えて最後の2試合は欠場した。
マグワイアは1990年代半ばから10年ほど続いたメジャーリーグのステロイド問題の中心的人物であり、悪い意味でメジャーの歴史を変えてしまった。
9位:ピート・アロンソ
マグワイアが打ち立てた新人最多本塁打記録はアーロン・ジャッジが2017年に塗り替えたが、僅か2年後にアロンソが新記録を作った。オールスターのホームラン競争でもジャッジに続いて、史上2人目のルーキーとしての優勝を果たして、「シロクマ」(アロンソのニックネーム)のパワーは本物だと全米中のファンにアピールした。
パワーは超一流だが、打率と出塁率はこの10選手の中で最も低く、勝利への貢献度も低かったので9位とした。
8位:ディック・アレン
アレンがデビューした1964年、彼はルーキーとしてメジャー史上最高のパフォーマンスを記録した。新人ながら201安打を放ち、リーグトップの125得点を記録。確実性と長打力を兼ね備え、長打率はリーグ3位で、ライナー性の打球で二塁打(リーグ4位)と三塁打(リーグ1位)も多かった。
WAR8.8はメジャーのルーキーとしては、トラウト(10.5)とシューレス・ジョー・ジャクソン(9.2。1911年、クリーブランド・ナップス)に次ぐ歴代3位。本塁打王に2度、両リーグで長打率と出塁率1位になった打撃はルーキーのときから本物だったが、新人の年は三塁を守ってリーグ最多の41エラーと守備では投手に迷惑をかけた。
7位:アルバート・プーホルス
プーホルスはメジャーの歴代でもトップクラスの「弱点のない右打者」だが、その傾向はルーキーシーズンから顕著だった。この年から10年続けて3割、30本塁打、100打点を記録。1年目から出塁率は4割、OPSも10割を超え、平均以下だったのは走力だけだった。
また、メジャー1年目のプーホルスはレギュラーのポジションがなく、三塁手として52試合、一塁手で31試合、左翼手で38試合、右翼手で33試合先発出場。守備位置が定まらずポジションを転々とする中で、安定した打撃成績を残した。
打撃の全てで素晴らしい成績を残しながらも個人タイトルを1つも取れなかったので7位とした。
6位:マイク・ピアッザ
プーホルス同様にピアザも打撃主要部門全てで1年目から安定した成績を残し、3割、30本塁打、100打点をクリア。しかし、全てのカテゴリでプーホルスが若干上回ったにも関わらず、ピアッザの方が順位が上なのはピアッザが捕手として141試合で先発マスクを被ったから。
メジャーで1年目から捕手として活躍するのはとても難しいのに、ピアッザは1年目から大活躍して7.0のWARを記録した。
5位:ジャッキー・ロビンソン
候補10選手の中でWARが5.0に満たなかったのはロビンソンだけ。打率も3割に届かず、本塁打も10本台で、他の候補選手と比べると見劣りがする。29盗塁で盗塁王のタイトルこそ手にしたが、11盗塁失敗もリーグ最多だった。
それでもロビンソンを5位にしたのは、球界に与えた影響力の大きさを高く評価したから。黒人初のメジャーリーガーとして1年間フルにプレーできたのはロビンソンが強いハートの持ち主だったから。彼によってメジャーの歴史が変えられた。
1987年からはメジャーの新人王が「ジャッキー・ロビンソン賞」との正式名称に変わったのも、メジャーリーグが彼の功績を高く評価したからだ。
4位:フレッド・リン
メジャーの歴史で初めて新人王とMVPをダブル受賞したのが1975年のリン。打撃面だけでなく、ゴールドグラブ賞に輝いたセンターの守備でもレッドソックスの勝利に貢献した。
リンと、同じく新人だったジム・ライスの活躍でレッドソックスは地区優勝を果たし、プレーオフでもアスレチックスを破ってワールドシリーズまで駒を進めた。
3位:アーロン・ジャッジ
53本塁打のアロンソが9位で、52本塁打のジャッジが2位の理由は、ジャッジが驚異の出塁率.422を記録して、OPSも10割を超えたから。また、WAR7.9もリーグ1位だったから。
身長2メートルを超えたジャッジは見た目のインパクトも大きく、プレッシャーの大きいヤンキースでプレーしたのも順位を上げるのに助けとなった。
ただし、あまりにもルーキーイヤーに与えたインパクトが大きく、成績も素晴らしかったので、それを超えるのに苦労している。
2位:イチロー
確かにホームランは少ない。だが、ホームランを打つ以外の全てのことをメジャー1年目からイチローはやってみせた。シーズン242安打は50本塁打を打つ以上に難しい記録だし(年間50本塁打以上は46回記録されているが、242安打以上は10回しか記録されていない)、メジャー史上2人しか達成していないMVPと新人王のダブル受賞も果たしている。MVP、新人王、首位打者、最多安打、盗塁王、ゴールドグラブ賞、シルバースラッガー賞とメジャー1年目から7つものタイトルを手にしている。
イチローの出現により、パワー一辺倒だったメジャーの野球が見直され、ベースボールが本来持っていたアート的な美しさが見直されたのも大きい。MLB公式サイトが2019年11月に掲載した歴代新人王ベストランキングではトラウトよりも上の2位にランクされた(1位はジャッキー・ロビンソン)。
1位:マイク・トラウト
イチローを抑えて1位に輝いたのは、現役最高選手のトラウト。新人選手として初めてWARが10.0を超えた活躍をみせた。
2012年にトラウトがメジャー昇格を果たしたのは4月28日のこと。フルシーズンをプレーして残した数字であってもすごいのに、トラウトは約1ヶ月遅れであの成績を残した。
スピートとパワーはどちらも超一級品で、とくに最近のトラウトは走らなくなったが、1年目は49盗塁で盗塁王に輝いた。新人での「30-30」(30本塁打、30盗塁)もメジャー史上初めての快挙。MVP投票ではミゲル・カブレラ(タイガース)に次ぐ2位だったが、もしカブレラが45年ぶりとなる三冠王を逃していれば、MVPはトラウトの手に渡っていただろう。
「MVP受賞経験のない現役最高打者」、「サイ・ヤング賞受賞経験のない現役最高投手」はデータに基づいたランキングだったが、今回の「歴代最高の新人王バッター」は私感で順位付けしており、異論がある読者の方も多いと思うが、それでいい。
外出を控えて、家で過ごす時間が増えたこの機会に、正解のない独自のランキングを作ってみてはいかがだろか?