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マルチ商法をめぐって夫婦関係にヒビが入り、離婚寸前!AI出資の誘いも受けて新たな危機が!どうなる?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(提供:akaricream/イメージマート)

「妻がマルチ商法に、はまってからというもの夫婦間での言い争いが絶えず、泥沼離婚になる寸前までいきました。もう、こりごりです」

旦那さんはつらい心の内を吐露します。

しかしさらなる危機が近づきます。

「今も、妻は知り合いから暗号資産への出資をしないかとの誘いを受けています」

暗号資産への出資話はラウンジで

旦那さんは奥さんから話の概略を聞いて懐疑的ですが、とりあえず、夫婦で一緒に行って説明を受けてくるとのことでした。

懐疑的だとはいえ、こうした説明をする者の口は上手く、ミイラ取りがミイラになることもあります。そこで筆者の方から「説明を聞いて、すぐの契約は避けて、一端、話を持ち帰った方が良いですね。そして、その内容を教えてもらえますか?」とお願いをしました。

高額な契約する上では、その場での契約を避けて、冷静に考える時間を持つことが必要になります。

ご夫婦は、ラウンジにて40代男性から2時間ほど、出資についての説明を受けました。その場には、この話をもちかけてきた奥さんの知人も同席しています。

「今回、ご紹介するのは、ある博士を中心に海外で開発されている、暗号資産を自動的に取引する”AI(人工知能)開発”の出資についてです。クラウドファンディングにて資金を募っています」と男性は説明します。

驚くことに「すでにAIは試験段階ながら利益は出しており、月10%の配当は出るようになっている」「ビットコインの価格が上がった時に、AIは300%もの利益を出した実績があり、完成した暁には400%はいくだろうとの博士の見通し」とも語ります。

さらに「新たな人を連れてきて出資させれば、紹介者への金銭的なバックもあります。早く参加すればするほど、受け取れる利益も大きくなります」とのマルチ商法的な勧誘も受けます。

「300万円の出資をしてみませんか」と、ご夫婦は持ち掛けられます。

出資の方法としては、国内の暗号資産交換所からステーブルコインを購入し、それを新たな暗号資産に変えて、AIを開発しているA社に送金をする。AIの開発状況や投資金の配当については、自身の専用サイトにログインすることでみられます。

話を聞いて、HPを調べると

説明を受けた翌日、旦那さんから筆者は一連の話を伺い、さっそA社のホームページ(HP)を見てみました。

幾何学模様を取り入れたような、立派な作りになっており、暗号資産などの値動きも満載で金融関連にふさわしい感じのHPといえます。さっそく、どこの国にある会社なのか見ようと思い、所在地を探しました。

しかし、見つかりません。

そこで、旦那さんにこの会社の住所について、紹介者に尋ねてもらうと、驚くべき答えが返ってきました。

「紹介してくれた男性も知らないそうです」

筆者はひっくり返りそうになりました。

紹介者の男性は、1000万円以上の高額な出資をしているとの話です。しかしながら、この会社の住所を知らないというのです。ということは、契約書なども取り交わしていないということでしょう。

これはとても危険です。もし出資トラブルが発生して、この会社に返金を求めようとしても、住所などの連絡先がわからないのでは、交渉のしようがないからです。

今、偽の投資サイト詐欺の被害が多発しており、送金したお金がネット上で増えていくように見せかけて、だます手口が起きています。この被害事例でも、サイトの運営会社の国や所在地がわからず、お金の取り戻しようがない状況が続いています。

また国内でも、AIを使った自動取引で配当が得られると謳って、お金をだまし取った疑いで男らが逮捕される事件も起きています。どうしても「AIが自動取引してくれる」と言われると、それ以上、突っ込んだ質問ができなくなり、相手にお金の運用を任せるしかない状況になります。まさに「AI」は出資者の思考を止めてしまう絶好の言葉になっており、だましの行為に利用されやすいのです。

それだけに、出資する際には、万が一のトラブルに備えて、業者の身元の確認をしておくことは必須になります。それができない状況は、とても危険なのです。

金融庁に電話をしてみると

出資勧誘を行う場合、それが海外の業者であっても金融庁への登録が必要です。そこで金融庁に電話をしてA社が登録されているか、尋ねてみました。

その答えは「登録されていません」でした。

つまり、AI開発への出資を無登録で行っており、これは金融商品取引法の違反行為に問われます。

さらに金融庁の担当者は大事なことも教えてくれました。

「投資型のクラウンドファンディングで資金を募っているとすれば、上限は50万円までですね」

ご夫婦は「300万円の出資」を勧められていますので、クラウドファンディングでの上限金額を超えており、これもアウトです。

改めてHPを見みると、あることがみえてきた!

もう一度、A社のHPを見てみました。どこかに会社の国の情報がわかる痕跡がないかを調べていきましたが、やはりメールアドレスでしか連絡を取れないようになっています。

これも危険サインの一つです。

今、大手企業をかたる偽の通販サイトが多く出現して、クレジット情報を盗まれる、代引きで偽物が送られてくるなどの被害が起きています。やはりこの時も詐欺業者とはメールアドレスでしか連絡を取れないようになっています。

もし被害をメールで訴えても無視されるのがオチです。メールアドレスでしか連絡を取れない業者とのやりとりは、回避するのが賢明です。

「ん?」

この時、筆者はこのメールアドレスに違和感を覚えました。

というのも、アドレスの末尾が見たこともないアルファベット「.**」だったからです。

HPアドレスのドメインも、同じ末尾になっています。

これが日本の企業であれば、「.jp」になっています。果たして、どこの国のものなのか。

調べてみると、「.**」は「B地域」に割り当てられているものでした。

ずいぶん、日本からはるか遠く離れたところだなと思いながら、地域、ドメイン情報を色々と調べていくと、「C島」の名前が出てきて、目が釘付けになりました。

「えっ!ここって……」

この島は、過去に詐欺関連で調べて出てきたことのあるところだったからです。

国際ワン切り詐欺電話で登場した「C島」の名前が登場、しかし

この時は、末尾のドメインから調べたわけではなく、国別の電話番号で調べたものでした。

数年前、国際ワン切り詐欺電話が、多くの人のところにかかってきました。もしかすると、携帯電話の着信履歴に見知らぬ国からの国際電話番号が残されていた人もいるかもしれません。

折り返してかけると「あなたの大切な人が連絡を取りたがっている」などの日本語の自動ガイダンスが流されます。しかしいくら電話口で待っていても、これが延々に繰り返されるだけで「大切な人」は出てきません。つまり、長く通話を続けさせることで料金を釣りあげて、私たちに高額な電話料金を払わせようとするのです。

カラクリは、国際的な詐欺業者と現地の電話会社がグルになって、全世界の人に一斉にワン切り電話をかけて、折り返しの電話を待つ構図だといわれてます。

この時にかかってきた国は「トンガ」「アメリカ」など様々ですが、そのひとつに、これまで聞いたこともないようなところが出てきたことがあります。それが「C島」でした。

もしこの地域に拠点をおいてドメインを取得しているとすれば、背後には、あの時と同じような国際的な詐欺業者が介在している可能性もあります。しかし、さらに調べると、このドメインはこの地域に拠点を置かかなくても取得できるようで、必ずしも「C島」と関連があるとも言い切れないこともわかってきました。また、振り出しです。

やはりこの会社の所在地は、なんとしても確認する必要があります。

必死に探しました。

あるページではD国との記述もありますが、公式ではありません。

アフリカのE国のニュースサイトに、A社の紹介記事もみられます。どうやら、現地の記者がその会社に赴いて取材しているようです。となれば、この国の周辺にある会社かもしれません。ここだとすればD国とは距離が離れすぎていますが、「C島」とは比較的近いことになり、再びその芽も出てきます。

他のキーワードからも調べていくと、やはりE国の周辺の国をうかがわせる結果が出てきますが、残念ながら、正確な会社の場所は、現在でもわからずにいます。

調べれられるのはここまです。

1年半ほどで、このAIは完成するそうなので、その時にも、本当にこのAIで利益を生み出し続けているのか。今後の推移を見続けたいと思います。

いずれにしても、今、出資している人たちは、自分の貴重なお金を失うことがないように、しっかりと相手の会社の住所及び電話番号など、すぐに取れる連絡先を確保すべきだと考えます。

話し合いが何より大事

旦那さんには、A社は金融庁に無登録で、出資の勧誘を行っており、しかも投資型のクラウドファンディングでの上限を越えた金額を募るなどの行為もあることを伝えました。

個人的にも、過去の取材経験から、会社の所在地がよくわからず、とても危険な臭いのする出資だと感じており、もしこのプロジェクトに出資して誰かを勧誘すれば、ご自身も違法性を問われかねないとの見解を話しました。

これを聞いた、旦那さんは納得した様子でした。

そして「実は……」と、ある告白します。

「以前に、妻のマルチ商法をやめさせたい一心で、マルチ関係者との連絡を、すべて強制的にやめさせたことがあるんです」

この時、奥さんとは激しい口論になって泥沼離婚の寸前までいったそうです。

しかし、その後も話し合いを続け「何かあれば、夫婦間で相談する」という取り決めをして、徐々にマルチ関係の人との連絡を取ることを許していったと言います。

マルチ商法にはまった人の考えを一方的に変えようとしても、なかなか難しいものです。何より大事なことは、お互いがどんな心の苦しみや悩みを抱えているのか、しっかりと向き合って話し合い、双方にとって一番納得いくような解決策を導きだしていくことです。

今回のAI開発の投資も、そうしたなかで、ご夫婦で話を聞きに行くことになりました。

最終的には、二人で話を聞き、契約を思い留まったことで、奥さんも何か吹っ切れたような感じになってきたといいます。

「今、妻も化粧品のマルチ商法は今後、やめようと考えているようです」それを受けて旦那さんも「その会社の化粧品を、自分で使うくらいは許そうかと思っています」と語ります。

「最近、妻の表情が以前とはだいぶ変わってきたように感じています」

嬉しそうに話す旦那さんの言葉には、ほっとした思いがにじんでいるように感じられました。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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