メディアの方へお願い 「フードロス」より「食品ロス」を使って欲しい理由とは?
2019年、「食品ロス削減推進法」が成立・施行された。筆者のところにも、以前にも増して、マスメディアからの食品ロスに関する取材が増えている。
そこでお願いしたいのは、報道の際、できれば「フードロス」という言葉より、「食品ロス」という表現を使って頂きたいということだ。
英語で「フードロス」と言うと日本で使っているのと違う意味で伝わる可能性
日本では、食べ物の廃棄のうち、食べられる部分(可食部)と食べられない部分(不可食部)に分け、食べられる部分(可食部)のみを「食品ロス」と呼んでいる。ここに、魚の硬い骨など、一般的に食べない部分は含まれていない。
しかし、英語で「food loss(フードロス)」と外国籍の方に言った場合、日本で意図している部分とは違って伝わる場合がある。
このことは、2018年、京都大学で開催された食品ロス削減全国大会の前日、廃棄物の研究に携わる浅利美鈴先生の研究室でも話題になった。ちょうど会議で来日している外国籍の研究者が複数いらっしゃったからだ。
日本の食品ロスは英語で「food waste」
日本語の「食品ロス」を、米国人の翻訳者に訳してもらったところ「food waste(フードウェイスト)」と訳された。この翻訳者は日本の大学に一年間留学経験がある。筆者が海外で行う講義や国際シンポジウムのパワーポイントや原稿も何度も訳してもらっており、日本の事情も理解している人である。
翻訳者で翻訳コーディネーターのYasuko Satoさんは、日本で使われている「フードロス」は、英語では「food waste」を指す、と指摘している。
英語では無駄になる食べ物全般を指して「Food Loss and Waste」
FAO(国際連合食糧農業機関)の公式サイトには、Food Loss and Food Wasteという言葉が書かれている。これを読むと、
「food loss」とは、食品の量が減ること、もしくは質的な価値(たとえば栄養価など)が減ることを指している(Food loss is the decrease in the quantity or quality of food resulting from decisions and actions by food suppliers in the chain, excluding retailers, food service providers and consumers)。
「food loss」は、フードサプライチェーンの中の、サプライヤー(供給業者)の決定や行動による損失を指し、小売業者や外食サービス、消費者に起因するものは除く、と書かれている。
でも、日本で「食品ロス」という時には、小売業者や外食サービス、消費者に起因するものは含まれている。
英語論文でもFood Loss and Wasteという表現が多く使われている。
食品ロス問題の研究者である小林富雄先生の著書『改訂新版 食品ロスの経済学』(農林統計出版)では、FAO(国際連合食糧農業機関)の定義を、次のように紹介している。
外国籍の人に「食品ロス」の意味を伝えようとして「フードロス」と言ってしまうだろう
日頃、日本で「フードロス」という言葉を繰り返し使っている人が、国内外にいる外国籍の人に伝えようとした場合、とっさに「food waste(フードウェイスト)」と言い換えられるだろうか? 言い慣れている「food loss(フードロス)」という言葉が、ごく自然に口から出てくるのではないだろうか。
でも、実際には、日本で使われている意味と、外国籍の方が頭で思い浮かべる意味とが違っている可能性がある。
世の中に日本人しかいないのであれば、気を遣う必要はないかもしれない。
でも、どんな時も、そこに日本人だけでなく外国籍の方もいることを想定した方がよいのではないだろうか。食品ロスの話だけではない。自然災害の時も、電車の人身事故が発生した時も、非常時に食品を寄付する時も。自分が異国にいる逆の立場だったら「外国籍の人間のことも考えて」と思うだろう。
食品ロスの問題を語る場合、日本語では「食品ロス」を使った方が望ましく、英語では「Food Loss and ( Food ) Waste」という言葉を使った方が、多国籍間でのコミュニケーション上、誤解が少ないのではないかと、筆者は考えている。
影響力の大きいマスメディアの方には、できれば法律で使われており、農林水産省や環境省、消費者庁など、各省庁で使っている「食品ロス」という表現を使っていただければありがたいと思う。
<参考>
消費者庁 食品ロス削減 食べもののムダをなくそうプロジェクト
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