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メディアの方へお願い 「フードロス」より「食品ロス」を使って欲しい理由とは?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

2019年、「食品ロス削減推進法」が成立・施行された。筆者のところにも、以前にも増して、マスメディアからの食品ロスに関する取材が増えている。

そこでお願いしたいのは、報道の際、できれば「フードロス」という言葉より、「食品ロス」という表現を使って頂きたいということだ。

英語で「フードロス」と言うと日本で使っているのと違う意味で伝わる可能性

日本では、食べ物の廃棄のうち、食べられる部分(可食部)と食べられない部分(不可食部)に分け、食べられる部分(可食部)のみを「食品ロス」と呼んでいる。ここに、魚の硬い骨など、一般的に食べない部分は含まれていない。

しかし、英語で「food loss(フードロス)」と外国籍の方に言った場合、日本で意図している部分とは違って伝わる場合がある。

このことは、2018年、京都大学で開催された食品ロス削減全国大会の前日、廃棄物の研究に携わる浅利美鈴先生の研究室でも話題になった。ちょうど会議で来日している外国籍の研究者が複数いらっしゃったからだ。

2018年10月、京都大学で廃棄物の研究に携わる浅利美鈴先生の研究室で、筆者は手前右から6番目(関係者撮影)
2018年10月、京都大学で廃棄物の研究に携わる浅利美鈴先生の研究室で、筆者は手前右から6番目(関係者撮影)

日本の食品ロスは英語で「food waste」

日本語の「食品ロス」を、米国人の翻訳者に訳してもらったところ「food waste(フードウェイスト)」と訳された。この翻訳者は日本の大学に一年間留学経験がある。筆者が海外で行う講義や国際シンポジウムのパワーポイントや原稿も何度も訳してもらっており、日本の事情も理解している人である。

翻訳者で翻訳コーディネーターのYasuko Satoさんは、日本で使われている「フードロス」は、英語では「food waste」を指す、と指摘している。

私たちが日常生活で目にするカタカナの「フードロス」は、小売店や飲食店、家庭での食品廃棄を指していることが多く、その場合は、food wasteに当たります。カタカナ言葉を訳すときは、丁寧な確認が必要です。

出典:翻訳者で翻訳コーディネーターのYasuko Satoさんの記事(エコネットワークス)

2019年10月、G-20国際シンポジウムで発表する筆者(関係者撮影)
2019年10月、G-20国際シンポジウムで発表する筆者(関係者撮影)

英語では無駄になる食べ物全般を指して「Food Loss and Waste」

FAO(国際連合食糧農業機関)の公式サイトには、Food Loss and Food Wasteという言葉が書かれている。これを読むと、

「food loss」とは、食品の量が減ること、もしくは質的な価値(たとえば栄養価など)が減ることを指している(Food loss is the decrease in the quantity or quality of food resulting from decisions and actions by food suppliers in the chain, excluding retailers, food service providers and consumers)。

「food loss」は、フードサプライチェーンの中の、サプライヤー(供給業者)の決定や行動による損失を指し、小売業者や外食サービス、消費者に起因するものは除く、と書かれている。

でも、日本で「食品ロス」という時には、小売業者や外食サービス、消費者に起因するものは含まれている。

英語論文でもFood Loss and Wasteという表現が多く使われている。

SDGsの12番が最も食品ロス削減に関係している(国連広報センターHP)
SDGsの12番が最も食品ロス削減に関係している(国連広報センターHP)

食品ロス問題の研究者である小林富雄先生の著書『改訂新版 食品ロスの経済学』(農林統計出版)では、FAO(国際連合食糧農業機関)の定義を、次のように紹介している。

FAO(2014)では、Parfitt, et al.(2010)やFAO(2011)を引用しながら、「Food Lossは貧弱な生産過程や生産及び供給構造、制度・法的な枠組みに起因する、意図されない(unintended)なもの」としている。一方、「Food WasteはFood Lossの一部であり、商品選択上の問題などの経済的行動、不十分な貯蔵管理や事故などによる劣化や期限切れによりサプライチェーンから除外されたものを指す」としている。しかし、実際に両者を区分して計測することは困難であり、同著では両者をFLW(Food Loss and Waste)とまとめて表記している。

出典:小林富雄先生の著書『改訂 食品ロスの経済学』

農林水産省ASEAN事業の寄付講座でフィリピン・セブで講義(農林水産省関係者撮影)
農林水産省ASEAN事業の寄付講座でフィリピン・セブで講義(農林水産省関係者撮影)

外国籍の人に「食品ロス」の意味を伝えようとして「フードロス」と言ってしまうだろう

日頃、日本で「フードロス」という言葉を繰り返し使っている人が、国内外にいる外国籍の人に伝えようとした場合、とっさに「food waste(フードウェイスト)」と言い換えられるだろうか? 言い慣れている「food loss(フードロス)」という言葉が、ごく自然に口から出てくるのではないだろうか。

でも、実際には、日本で使われている意味と、外国籍の方が頭で思い浮かべる意味とが違っている可能性がある。

世の中に日本人しかいないのであれば、気を遣う必要はないかもしれない。

でも、どんな時も、そこに日本人だけでなく外国籍の方もいることを想定した方がよいのではないだろうか。食品ロスの話だけではない。自然災害の時も、電車の人身事故が発生した時も、非常時に食品を寄付する時も。自分が異国にいる逆の立場だったら「外国籍の人間のことも考えて」と思うだろう。

食品ロスの問題を語る場合、日本語では「食品ロス」を使った方が望ましく、英語では「Food Loss and ( Food ) Waste」という言葉を使った方が、多国籍間でのコミュニケーション上、誤解が少ないのではないかと、筆者は考えている。

影響力の大きいマスメディアの方には、できれば法律で使われており、農林水産省環境省消費者庁など、各省庁で使っている「食品ロス」という表現を使っていただければありがたいと思う。

<参考>

農林水産省 食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢

環境省 食品ロスポータルサイト

消費者庁 食品ロス削減 食べもののムダをなくそうプロジェクト

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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