新型コロナで営業自粛中でもなぜか来場者が増加 マンション販売センターの意外な事情
新型コロナウィルスの影響で、商業施設や飲食施設の客足が落ち、経済への影響が懸念されている。人が集まるところは、現在、積極的に来場を促すことができず、それが経営サイドにとって大きな問題となっている。
分譲マンションの販売現場も同様で、各社とも3月に入ってからの集客活動を自粛。新たな広告などを出さず、販売センターでのイベントも中止して、来場者を積極的に集める姿勢はない。
その結果、マンション販売センターも寂しい状況に陥っているのかもしれない。そう思っていたら、「予想したほど来場者は減っていない」という現場の声が聞こえてきた。
実際はどうなのか、実状を調べるため、アンケート調査を行ってみた。
3月1日以降、来場予約のキャンセルが続出したが……
アンケートの内容は、教育機関の多くが休校となり、コンサートやイベントが軒並み中止された時期に、マンション販売センターの来場者は「減った」のか「変化なし」か、「むしろ増えた」のか、現場の感触を3択で答えてもらうもの。対象とした期間は、3月1日の日曜日から8日の日曜日までの8日間だ。
主要不動産会社22社に質問メールを送り、回答してくれたのが18社。総数209の首都圏新築マンション販売センターの状況がわかった。
209のうち、「来場者が減った」と感じているところは87。そのなかには「減ったことに違いないが、大幅な減少ではなく、微減」のところも含まれるのだが、とにかく約42%の販売センターで来場者が減った。そして、「変化なし」は84で、「むしろ増えた」が38現場あった。
ちなみに、すべての販売センターで3月1日から8日までの間、来場予約のキャンセルが続発したという。新型コロナウィルスの感染不安があるなか、家族での外出を控えよう、という動きがあったわけだ。
一方で、新規の来場者(それまで販売センターを訪れたことがなかった人)が増えるという現象が生じ、その数がキャンセルを補って「変化なし」と「むしろ増えた」という販売センターを数多く生じさせた。
全体の約42%で来場者が減っているのは事実だが、残り約58%では来場者が減っておらず、「むしろ増えた」と感じられる販売センターが約18%もある点は注目に値する。
そこで、思い出すのは、2011年のちょうど今頃。東日本大震災の直後、首都圏のマンション販売センターに起きた、ある現象だった。
東日本大震災の後、マンション購入検討者が増加したことも
東日本大震災の後、首都圏のマンション販売センターは、営業を自粛するところが多かった。3週間から1ヶ月、販売センターを閉めたのである。そのなか、営業を続けた不動産会社があった。
日本全国でマンションを分譲し、仙台でもマンション分譲を行っていたA社もそのひとつだった。じつは、仙台では大震災の直後からマンション購入者が一気に増えた。災害で家を失った人たちが、地震被害が軽微だった仙台市内のマンションを購入しようとしたのだ。
その要望に応えるため、仙台でのマンション分譲を休まず続けたA社は、首都圏でも販売センターを閉めることなく、営業し続けた。すると、思いのほか、来場者が多かった。私が取材した多摩地区の販売センターは、震災の自粛ムードが続く4月はじめの日曜夜6時で、ほぼ満席の混雑ぶり。驚くほどの熱気で、来場者の多くが次のように話してくれた。
「地震の怖さを目の当たりにして、今の木造アパートが不安になった。少しでも早く、頑丈な鉄筋コンクリートのマンションに移りたいと思い、開いている販売センターに来た」
東日本大震災の直後、「家を買う気になれない」という人が多かったなか、「今だからこそ、家を買いたい」という人もいたわけだ。ことほど左様に、マイホーム購入者の動きは単純ではない。
時間ができたので……、子どもを遊ばせたくて……
では、今回、新型コロナの不安があるなか、マンション販売センターに行ってみようと考えた人たちは、「なぜ、今?」だったのか。理由を尋ねてみた。
多かったのは、
「以前からこのマンションに興味があった。今回、急に仕事が休みになり、時間ができたので見に来た」というもの。
「子どもと一緒に家に居続けるのも飽きてきた。かといって、商業施設に行っても子どもの遊び場が閉鎖されている。その点、ここ(販売センター)には、小さいながらも子どもの遊び場があるので、ちょうどよいと思って」という人もいた。
「とりあえず、見るだけ」という来場者が少なくないのだ。そのように軽い気持ちで訪れて、感染のリスクはないのか、と心配する人も出てきそう。しかし、現在のマンション販売センターは、必ずしも感染リスクが多い場所とはいえない。
というのも、現在の新築マンションはゆっくり販売が主流となっており、混雑する販売センターは滅多にないからだ。
意外に、他者と接触する機会は少ない
近年、マンションは1年以上かけて販売するのが普通で、青田売りにもこだわっていない。マンションの建物が完成して1年くらいまでの間に売れればよい、と考えられている。
つまり、1年から2年かけて販売されるケースが増えている。仮に、全100戸のマンションを1年あまりで売る場合、月平均で7、8戸ずつ売ればよいということになる。短期間にたくさんの来場者を集めようとはしていないのだ。
実際、販売センターの来訪者は、1日に10組も来れば多いほうで、1日数組というのが普通だ。7時間程度の営業時間中、5組か6組の来場者であれば、他の来場者と一緒になる場面は少ない。シアター映像も一組ずつ案内され、観覧が終わったら、十分に換気が行われる。
打ち合わせ、商談は小分けしたブースで行われ、そのブースが広いため、対面する営業員との距離が離れる。そして、営業員は必ずマスクを着用しているので、安心感は大きい。加えて、提供される飲み物はペットボトルやパック入りで、ひとりに一つずつ渡される。
現在のマンション販売センターは、他者と接触する場面が少ないので、「時間ができたので、ちょっと行ってみようか」という軽い気持ちで出かける人が多いのかもしれない。
今、マンション販売センターを訪れる人たちは、東日本大震災の後、強い購入意欲をもって販売センターを目指した人たちとは性格が異なる。「どうしてもマイホームを買いたい」という気持ちが弱いのだ。
それでも、不動産会社にとってはうれしい来訪となる。マンションに興味を持っていただけるだけでもありがたい、と、予想外の来場者は各地の販売センターで歓迎されている。