何かがおかしい「働き方改革」 ……そんな都合のいい改革が本当にできるのか?
「働き方改革」は都合のいい改革?
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルティングを10年以上続けています。クライアント企業の目標を達成させるために、どのように組織改革をすればよいか、講演やセミナーで「やり方」を指南するだけでなく、実際に現場でその任務を担ってきました。このように多くの企業の「現場」を知っているからこそ、言えることがあります。
現在政府が進めている「働き方改革」は、企業側の視点からするとかなり都合のいい改革であり、真の「働き方改革」が成される企業はかなり限られるだろう――。これが私の意見です。
コストとリターンの2軸で考える
企業活動を、投資する「コスト」と、効果としての「リターン」の2軸で考えてみましょう。そうすれば、説明がしやすくなります。コストは大きく分けて以下の3つです。
■経済的コスト → お金
■時間的コスト → 時間
■精神的コスト → ストレスや労力
これらコストの見返りとして考えられるのがリターン(効果)です。
■経済的リターン → お金
■時間的リターン → 時間
■精神的リターン → 幸福感、やりがい
成功しない典型的な組織は、何もコストをかけずにリターンだけを得たいという発想をします。お金もかけないし、時間もかけないし、ストレスや労力もかけない、という姿勢です。たとえば長時間労働を是正したい――つまり残業削減という「時間的リターン」を得たいのであれば、そのためのお金や時間、ストレスが必要です。その投資を惜しんでは何のリターンも得られません。
人を雇うためにお金を使う、業務効率化のためのIT投資を行う……という「経済的コスト」をかけたり、どうすれば残業を減らせるのかと、時間(時間的コスト)をかけ、知恵を絞ることは、どんな企業にも必要なことです。そしてアイデアを出すためには当然のことながらストレス「精神的コスト」が不可欠。何となく考えていては「改革」などできません。かなりプレッシャーをかけられないと、斬新なアイデアなど出てこないものだからです。
効果は徐々にしか現れない
「働く人」や「働き方」の多様化も、「働き方改革」の目玉です。
時間や空間に縛られない働き方を浸透させるために、在宅勤務できる環境や組織文化を変えること、セキュリティ対策なども必要です。この場合も「経済的コスト」「精神的コスト」をかけなければなりません。特に、従来通りの環境で働く人と、異なる労務環境の人とが一緒に過ごすには、それなりのストレス(精神的コスト)がかかります。人間の心理状態には「現状維持の法則」があり、たとえ正しいとわかっていることでも、これまでと違うことを受け入れるには、理屈ではない葛藤(精神的コスト)と時間(時間的コスト)がかかるからです。
これを理解せず、拙速に多様性を受け入れようとはしないことです。
さて「働き方改革」がめざす効果は、大きく分けると2つ。労働時間の削減によって得られる「時間的リターン」と、働きがい、やりがいといった「精神的リターン」です。この改革によって、政府は日本の経済成長に繋がるとしていますから、間接的にも「経済的リターン」は効果として求められています。
しかし残念ながら、この3つのリターンを得るためには、まず「それらと同じ種類のコストをかけなければならない」という事実があります。しかし多くの人がそれを知らないでいるのです。これが現実です。
コストというのは、一瞬にして出ていきます。お金や時間、ストレスというのは、投資すればその分だけ出ていってしまいます。しかしその投資した分だけの効果というのは、(残念ながら)徐々に戻ってくるものです。長い時間をかけてリターンが最大化するように、投資バランスを考えることがビジネスにおけるセオリーです。
「考える組織」になっているか?
「働き方改革」を実現するためには、お金も、時間も、労力もしっかりかけていかなければいけません。名前の通り「改革」です。「改善」ではないのです。一筋縄でいかないことをやろうとしているのです。改革をするためには覚悟(精神的コスト)が必要で、それなりの投資を惜しみなく費やす勇気がどうしても求められるのです。
しかし、投資をするにはまずその源泉として、それぞれ3つの「余裕」がなければなりません。「経済的余裕」「時間的余裕」「精神的余裕」です。何らかの犠牲があってはじめて、素晴らしい果実を手に入れられるもの。その犠牲を許容できる余裕が現時点であるか。もしこれらの余裕がないのであれば、どんなに声高に「働き方改革だ!」と経営者が叫んでも、何も起こりません。ちょっと時間をかけて頭をひねったとしても、たいした改革などできないものです。現場で10年以上支援してきたコンサルタントだから言えます。そんな都合のいいことは現実には起こらないのです。
一番の問題は「アイデア力」です。組織に「考える習慣」があるか、とも言いかえられます。
何らかの仕組みを導入すること、制度を変更することで「働き方改革」が成し遂げられるわけではありません。他社の事例などもあまり参考になりません。そのため先述したとおり、組織全体で「知恵を絞る」必要があるのです。しかし多くの会社が「知恵を絞る」ことができない。なぜなら日ごろから「考える組織」になっていないからです。どんなにお金があっても、時間を投資しても、「誰かがやってくれる」「誰かが言ってくれたらやります」という受け身の人が大勢いるような組織では、「働き方改革」など成し遂げられないのです。
すなわち経済的にも、時間的にも余裕があり、「考える習慣」「全員でアイデアを出そうとする社風」が定着している会社に限られるのです。真の「働き方改革」を実現できるのは。皆さんが所属している会社はどうですか。