北朝鮮が「台風被害」で要人粛正へ! 注目は江原道党委員長と人民委員会委員長の処遇
北朝鮮は憂慮されたように台風9号の影響による被害が甚大なようだ。9月3日に台風9号が通過した日本海に面した江原道の中心都市・元山市(人口約36万人)は2日から3日にかけて降水量が200ミリに達する暴風雨に見舞われた。北朝鮮当局の発表(4日現在)によると、すでに数十人の死者が確認されている。
今朝の労働新聞によると、北朝鮮当局は「台風による人民の被害を防ぐよう対策を命じた党中央委員会の決定と指示を思想的に受け止めないでその執行を疎かにし、事前に住民を危険な建物から避難、疎開させなかった」ため人命被害をもたらした江原道及び元山市の幹部らの怠慢を「反党行為」とみなし、「党的、行政的、法的に厳罰に処する」ことを公言した。
党中央委員会の決定は金正恩委員長が8月25日に主宰した党中央委員会政治局会議での台風被害防止に関する決定を意味し、また指示とは9月2日の党中央委員会の指示文を指している。
金委員長は政治局会議で「台風による人命被害を徹底的に防ぎ、農作物被害を最小限にするのは労働党にとって重大な問題である」と強調し、「党員と勤労者らに台風被害防止事業の重要性と危機対応方法を正確に知らせ、台風被害を事前に防ぐための対策を講じるよう」命令していた。当局が指示した指示文の内容は不明だが、北朝鮮の台風対策とはおよそ次のようなものだ。
・危機状況を人民に認識させるための宣伝活動を徹底させる。
・地域の建物、道路、農耕地、鉄道、トンネルなどを常時点検し、危険な箇所を具体的に掌握し、対策を講じる。
・建物について屋根を補修し、街路樹や街灯を固定させ、下水道に沈殿物がたまらないようにするため雨水ポンプ設備を整備し、雨水が流れるようにする。地盤の低い地域では住宅と水源地, 配水池などの浸水を徹底的に防ぎ、飲み水の確保に支障がないようにする。
・送電塔や電線の保護対策を行い、停電を引き起こさないよう電力供給を保障する。
・東海岸地域の水産及び養殖事業所では海上にいる船の位置を掌握し、安全な水域に退避させる。
それにしても唐突の処罰決定である。というのも、9月1日付けの労働新聞の3面に江原道の幹部らが「台風9号による農作被害を防ぐため高い献身性を発揮している」との記事が載っていたからだ。「氾濫が起こりやすい河川の危険な場所を事前にチェックし、いつでも緊急に対処できるよう対策を講じている」と報じられていたばかりだった。
また、一昨日(9月3日)の朝鮮中央通信によると、新任の金徳訓総理が直前まで江原道の金化郡と平康郡を視察し、現地の状況を了解していた。現地で金総理と会議を開いて、台風9号への対策まで協議していた。それが一転、怠慢と罵られ、懲戒となったのは、どうやら8月26日から27日にかけて黄海南道など西部を襲った台風8号が「被害の規模が予想よりも少なかった」(金委員長)とされたことと無関係ではなさそうだ。
被災地の黄海南道・銀波郡大青里を視察した金委員長は「すべての党組織と活動家たちが危機対応意識を持って台風被害を徹底的に防ぐことに関する党中央の指示を受け、即時に安全対策を講じた結果、人命被害を減らし、各部門別の被害規模を最小限にとどめることができた」と自画自賛していた。それだけに江原道・元山での被害状況が許せなかったのだろう。
(参考資料:1カ月ぶりに登場した金正恩委員長の異例の農場視察の裏に何が?
北朝鮮が不祥事を内内に処理せず、ましてや懲罰を公にするのは珍しいことだ。懲罰を公にしたのは2013年12月に公の場で叔父・張成沢党行政部長(兼国防委員会副委員長)の解任を発表し、「反党行為」で処刑して以来ではないだろうか。懲罰対象者は党員資格の剥奪、解任、そして実刑が宣告されることになる。
北朝鮮はかつて、経済問題の失策で担当幹部らを粛正、処刑した過去がある。
農業担当の徐寛熙党書紀が食糧危機の責任を取らされ、1997年に「米帝国主義の指示を受け、我が国の農業を破綻させたスパイ」との罪名を着せられ、処刑されている。また、2010年には財政担当の朴南基党計画財政部長がデノミ政策失敗の責任を取らされ処刑されている。朴南基部長の罪状には「万古の逆賊」とのレッテルが貼られていた。
元山市が中心都市である江原道の党の責任者は昨年4月に党政治局員候補に昇格したばかりの朴正男・江原道党委員会委員長である。また、行政の責任者はチェ・イルリョン江原道人民委員会委員長である。チェ委員長も昨年12月に副委員長から委員長に昇格していた。
朴委員長は咸鏡南道の港湾都市、咸興市海岸区域の党書記から5年後の2001年に江原道党書記に抜擢され、以後19年にわたって江原道のトップとして君臨してきた。金正日政権下の2009年には労力英雄の称号も授与されている。2014年に最高人民会議代議員、2016年には労働党中央委員にも選出され、昨年最高幹部の一員である政治局員候補に抜擢されたばかりである。
彼らにまで責任が及ぶかどうか、注目したい。