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3度の台風到来で北朝鮮農業は壊滅か!? 25年前の飢饉の再来も!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
台風8号に見舞われた平壌市内(朝鮮中央TVからのキャプチャー)

 北朝鮮は長引く国連安保理の制裁に加えて今年は新型コロナウイルスの影響で最大の交易国である中国との国境を封鎖したため経済は閉塞状態にある。そのことは、中国との貿易額が2016年の26億ドルから昨年(2019年)は2億ドルにまで萎縮してしまったことからも窺い知ることができる。

(参考資料:北朝鮮経済は世界で最も「コロナ影響」の被害を受ける! 韓国政府シンクタンクの分析

 何よりも深刻なのは食糧が不足していることである。労働新聞は昨年4月に「金(ゴールド)はなくても暮らせるがコメがなければ1日も生きられない」との故金日成主席の発言を紹介し、人民に「金よりもコメの方が貴重だ」と強調していた。「コメで党を支えよう」というスローガンまで登場していた。

 主食のトウモロコシやコメなどが慢性的に50~60万トン前後不足しているため北朝鮮は毎年農業に力を入れ、増産を呼びかけているが、現実には農業に不可欠な化学肥料の不足や日照り、洪水などの自然災害に見舞われ、思うようにいかないのが実情である。

 特に今年は、上半期には旱魃による水不足に苦しみ、下半期は一転、豪雨と度重なる台風に見舞われ、早くも凶作が予想されている。

 ▲集中豪雨の被害状況(8月初旬)

 北朝鮮は8月初旬に黄海北道、黄海南道、江原道、開城などで記録的な梅雨による洪水被害に見舞われた。黄海北道、黄海南道は数少ない穀倉地帯である。

 被害状況について北朝鮮は「1万6680棟の家屋と630棟の公共施設が破壊され、390平方キロメートルの農耕地が被害を受けた」と発表している。被災地を訪問することのない金正恩委員長が珍しく自ら被災地の黄海北道・銀波郡大青里に赴き、自分用に備蓄しておいた穀物や物資を被災者に支援するよう指示したほどだから集中豪雨が深刻な被害をもたらしたことは十分に察しがつく。

 韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は「金委員長が最高指導者に就任してから最大の被害を記録した2016年よりも農地の冠水被害が大きかった」と分析している。

 ちなみに2016年はOCHA(国連人道主義業務調整局)の報告書(7月20日)によれば、この年の農地の冠水被害により170万人の幼児を含め1050万人が食糧不足に陥った。配給は一人当たり300グラムにまで減少し、国連が飢餓防止のために定めた最低量458グラムを遥かに下回っていた。

 ▲台風8号被害状況(8月26-27日)

 北朝鮮は集中豪雨で被害を受けた農場を立て直す間もなく、今度は400ミリを超える雨と最大瞬間風速36メートルを超える強風に見舞われ、黄海北道や黄海南道をはじめ各地で被害が相次いだ。

 党機関紙「労働新聞」(8月28日付)によると、黄海北道ではまたもや「数百町歩(1町歩は3000坪)にわたって農作物が被害を受けた」ようだ。隣の黄海南道でも農耕地が冠水し、収穫直前のトウモロコシに大きな被害が発生した。平壌近隣も例外ではなく、公共建築物の損壊や農作物の被害などがあった。

 台風が過ぎ去った直後(8月27日)に黄海南道の被災現場を視察した金正恩委員長は「被害規模は予想していたより小さい」と述べていたが、被害を過小評価したのは直前に党政治局拡大会議(8月25日)を開き、人命被害を徹底的に防ぎ、農作物被害を最小化するよう事前に対策を講じていたことによる成果を強調したかったのかもしれない。

 台風8号の被害が大きかったことは、8月30日から31日にかけて経済担当の朴奉珠党副委員長や金徳訓総理をはじめ党最高幹部らをこぞって被災地に送り込み、実態の把握に努めたことからも読み取ることができる。

 ▲台風9号被害状況(9月2-3日)

 一難去ってまた一難で、沖縄に大きな被害をもたらした大型の台風9号が現在、勢力を保ったまま時速55キロで北上し、北朝鮮に向かっている。中心付近の最大風速は40メートル、最大瞬間風速は60メートルとなっているが、北朝鮮では日本海側の元山市がある江原道や咸鏡南道・咸鏡北道が暴風圏に入っていた。

 被害状況はこれから明らかになっていくと思うが、仮に今回被害を最小限に抑えられたとしても予報どおりならば、来週には台風9号よりも勢力の強い10号が北朝鮮に上陸する。北朝鮮全土を縦断するようなことになれば、その被害は半端ではない。

 ところが、金委員長は8月13日に開いた政治局会議で苦境に立たされても「外部からの支援は受けない」と表明している。本当に国際社会に支援を求めなければ、食糧危機に瀕し、最悪の場合、大量の餓死者が発生した25年前の再来になるかもしれない。

 ▲1995年の食糧危機

 北朝鮮は1995年に7月末から8月中旬にかけて全土が水害被害にあったが、国連人道援助局(DHA)に送った当時の北朝鮮の報告書によると、全郡の70%にあたる145の郡が浸水し、全人口(2300万人)の4分の1にあたる520万人が被災した。被害総額は150億ドルで、GNP(当時212億ドル)の4分の3に達した。

 当時、北朝鮮の1日の配給は100グラムしかなく、ユニセフやWFP(世界食糧計画)の報告では7才以下の児童の栄養失調状態は62%に達していた。2年後の1997年に韓国に亡命したファン・ジャンヨプ元労働党書記の証言ではこの飢饉で「50万人が餓死した」とされている。

 北朝鮮がこの年に「苦難の行軍」を強いたことは北朝鮮の人民ならば誰もが知っている公然たる事実である。

(参考資料:金正恩委員長の「ノーサンキュー」の一言で吹っ飛んだ文大統領の「淡い期待」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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