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ベレーザが史上3度目のなでしこリーグ4連覇。永田雅人監督の下で名門クラブが刻んだ新たな歴史

松原渓スポーツジャーナリスト
ベレーザがリーグ4連覇を達成した(写真:Kei Matsubara)

【今季2冠目を獲得】

 なでしこリーグは、27日(土)の第17節で日テレ・ベレーザ(ベレーザ)がAC長野パルセイロ・レディース(長野)を2-1で下し、1試合を残して4年連続16回目のリーグ優勝を決めた。リーグ4連覇は、1990年〜93年と2005年〜08年に並ぶ最長記録。ベレーザは、リーグカップに続く今シーズン2冠目を獲得した。

 試合は前半19分に、中央からMF長谷川唯がミドルを決めて先制。その後、前半終了間際の43分に長野のMF中野真奈美のゴールで同点に追いつかれたが、後半32分にFW籾木結花が左足で決めて勝ち越し。終盤は相手の勢いをうまくコントロールして勝ちきり、ホーム最終戦に詰めかけたサポーターに歓喜を届けた。

 

 だが、試合直後の選手たちの表情には、むしろ悔しさが表れていた。

 チームを率いる永田雅人監督は今シーズン、ただ勝利を目指すだけではなく、試合ごとにテーマを設定し、それをクリアしながら勝つことでチームを進化させてきた。優勝がかかる試合でも、その習慣は変わらなかった。

 

「(この試合は)相手の中盤の強度が高い中をあえて割ったり、クロスに対してペナルティエリアに一気に(人数をかけて)入っていくことがテーマでした。ゴールへの最短の距離を選手たちに強く要求したことで、ボールを失ってカウンターを受けることになり、大事なところでパワーを出せなかった。それは、僕(の要求)が行き過ぎてしまったところです」(永田監督)

 長谷川は2ゴールに絡みながらも「今日の出来は20点です」と、厳しい自己評価を口にした。

「新たにやったことができなかったというよりは、今までできていたことができなかった。目に見えないところで優勝が決まる(試合)というプレッシャーがあったのかもしれません。今日できなかったことは必ず次の試合でできるようにして、次は新しい課題を見つけたいと思います」(長谷川)

 同じ優勝でも昨年と違うのは、このように毎試合、新たなテーマにトライしながら、課題や伸びしろを見つける習慣を作ってきたことだろう。

ホーム最終戦に臨んだベレーザイレブン(写真:Kei Matsubara)
ホーム最終戦に臨んだベレーザイレブン(写真:Kei Matsubara)

【花開き始めた「永田イズム」】

 育成型クラブのロールモデルとも言えるベレーザは、メンバーの多くが下部組織の日テレ・メニーナ出身。平均年齢は約22歳と若いが、主力の多くがなでしこリーグ1部で5年以上の経験を持っている。また、高校や他のチームからの移籍組も含めて全選手が(育成年代を含む)代表実績を持ち、なでしこジャパンには常時8人前後を送り出す。

 そこに新指揮官として迎えられたのが、東京ヴェルディやジェフユナイテッド千葉のアカデミーで指導を歴任してきた永田監督だ。3連覇を成し遂げたチームをさらに進化させるため、永田監督は、常に良いポジションを取りながら攻守において優位性を保つーー欧州サッカーのトレンドでもある「ポジショナルプレー」の要素を採り入れた。

「戦術ありき、では考えていません。相手に対して、自分たちがどういう選手をどのように配置したら個々の特徴が生かせて、次に繋がりを持ったものを発揮できるか。その中で自分たちのスタイルを探ってきました」(永田監督/10月上旬)

 局面ごとの引き出しの多さや選手間の“即興力”はベレーザの強みだが、シーズン当初はプレーに制限が加わったことでそれまでの連動性が影を潜め、第2節で長野に敗れるなど、産みの苦しみも味わった。

 加えて、代表活動で主力選手が抜ける期間が長く、3連覇を牽引してきたMF阪口夢穂が4月のリーグ戦で負傷し長期離脱を余儀なくされるなど、難題は重なった。

 だが、ベテランのDF岩清水梓を中心に土台を固めながら、徐々に成績を安定させていき、6月3日に行われた第9節、INACとの上位対決に勝って首位に浮上。7月には2年ぶりのリーグ杯を手に入れた。

 一方、代表メンバーは4月のアジアカップに続き、8月のアジア競技大会でも優勝して帰国。U-20女子W杯で世界一に輝いた若手選手たちも自信をつけ、9月に再開したリーグ後半戦はその勢いも反映させるように連勝街道を歩んできた。

 約半年でチームは確かな進化を見せたが、永田監督の言葉には、満足した様子は感じられない。

「目標は、高め続けることです。そのための準備と環境は整った手応えがあります」(永田監督/10月上旬)

 練習メニューは多彩だ。コーチングスタッフの得意分野によって守備、攻撃、セットプレーなど、役割分担がなされている。また、南米の男子リーグの試合映像などを用いて、選手の特徴やポジションに合わせたプレースタイルの進化を提案してきた。

「選手たちが『分からない』と言ったら、それはもう僕の勝ちみたいなものですから(笑)。選手たちの頭の中にない引き出しを作れればいいな、と思っています」(永田監督/同)

 選手に新たな課題を提示し続け、サッカーも進化させていくーーそこに「完成形」はないのかもしれない。

【進化を支えた個の成長】

 各ポジションに目を向けると、まず、守備陣の役割は昨年から目に見えて変わった。

 サイドバックは外のオーバーラップだけでなく、中央のスペースを使った攻撃にも参加するようになり、ビルドアップはより多彩になった。DF有吉佐織は代表でボランチとしてプレーする経験をサイドバックのプレーにフィードバックし、センターバックと兼務できるDF清水梨紗は代表でもレギュラーの座をつかんだ。DF宮川麻都は複数のポジションをこなせる強みを発揮し、U-20女子W杯優勝のキーマンになった。

 一方、センターバックは自らドリブルで持ち上がる場面が増えた。

 ディフェンスリーダーの岩清水とともに最終ラインを支えたDF土光真代は、試合ごとに存在感を高めていった。

最終ラインを支えた土光(左)とリハビリ中の村松(写真:Kei Matsubara)
最終ラインを支えた土光(左)とリハビリ中の村松(写真:Kei Matsubara)

 1対1の強さが魅力で、「もともとビルドアップはあまり得意ではなかった」と言う土光だが、今シーズンはフィードも含め、攻守両面で貢献。ケガで離脱中のDF村松智子の穴もしっかりと埋めてみせた。その成長は、下部組織時代からずっと背中を追い続けてきたレジェンドの存在も大きかったようだ。

「ラインコントロールは、今までイワシ(岩清水)さんについていくばかりだったのですが、今年は試合に出る時間が増えた分、自分からもラインの上げ下げの指示をできるようになったと思います。イワシさんはここぞという時にいてくれるし、毎試合、存在の大きさを実感しています。『後ろの選手は嫌われるぐらい、前の選手に(はっきりと)指示を伝えるように』と言われています」(土光)

 最終ラインが高くなった分、守護神であるGK山下杏也加にかかる負担は大きくなったが、身体能力の高さを生かしたシュートストップやクロスへの対応に加え、相手のプレッシャーの中でも積極的にビルドアップに参加した。

 ここまで17試合で、ベレーザが喫した失点数はわずか「6」。最終節を無失点で終われば、2006年以降の最少失点記録となる。

 攻撃面では、長谷川、MF中里優、MF三浦成美、MF隅田凜、MF上辻佑実らが形成する中盤の構成力は相変わらず高く、圧倒的なボールポゼッションを支えた。

 中でも目を引くプレーが多かったのは長谷川だ。昨年までは左サイドハーフがメインだったが、4-1-4-1の2列目にあたる左インサイドハーフが定位置となり、ゲームメーカーの重責を担った。豊富な運動量をより効果的に生かし、最終ラインから最前線まで幅広いエリアをカバー。セットプレーのキッカーを任される機会も増え、FKでは“ブレ球”にもチャレンジするなど、球種を増やしている。

「相手を動かすフェイントや間合いの取り方も、永田さんに映像を見せてもらったり、習っています。そういうところは海外の選手相手にもできるようになってきた手応えがあります」

 そう話す長谷川は1対1でも成長を見せており、システムが異なる代表でのプレーにも期待を抱かせる。

 前線では、個の力が光った。

 初のキャプテンも任されたFW田中美南は昨年に比べてさらにフィジカルが逞しくなり、キープ力も増した。リーグカップ決勝や上位対決など重要な試合で点を決め、3年連続得点王の座はほぼ確実だ。

 また、序盤はケガで戦列を離れていた籾木も、復帰後はクラブと代表の両方で右肩上がりにパフォーマンスを上げている。優勝を決定づけた長野戦の勝ち越しゴールは、3年目の背番号10にふさわしい一発だった。

 両サイドでは、FW小林里歌子、FW植木理子、FW宮澤ひなたの若手トリオがチームを勢い付けた。小林は怪我からの復帰後、着実にコンディションを上げており、長野戦ではキレ味鋭いドリブルを披露。リーグカップで得点王になり、U-20女子W杯で5得点を決めた植木は今後、長く第一線で活躍するストライカーになるだろう。負傷もあり、11月のノルウェー戦への代表選出はならなかったが、そのプレーをなでしこジャパンで見られる日を楽しみにしたい。

 宮澤の魅力については過去の記事でも触れた通りだが、やはりスタジアムに足を運んで見に行きたいと思わせる選手だ。高卒一年目の今年、「高いレベルでチャレンジし成長したい」と自らベレーザの門を叩き、瞬く間にレギュラーに定着。長野戦ではスピードを生かしたドリブルで勝ち越しゴールの起点になり、リーグカップ、U-20女子W杯に続く3つ目のタイトルに貢献した。

「日本で一番強いチームでどれだけできるかというチャレンジでもありましたが、先輩たちが優しく受け入れてくれて、本当に恵まれた環境だと実感しています。今の自分がいるのは多くの人の支えがあったから。それが結果を出せたことにも繋がっています」(宮澤)

 この試合は、強化指定選手で今年ベレーザに入団し、U-20女子W杯では飛び級で大活躍したFW遠藤純もベンチ入りした。また、優勝の瞬間にはリハビリ中の阪口と村松も立ち会い、喜びを分かち合った。今後、強力な戦力が復帰する(加わる)ベレーザが、どのような化学変化を起こすのか。他のチームにとっては脅威だろう。

 11月に始まる皇后杯で、2007年以来のシーズン3冠を目指すベレーザに待ったをかけるチームは出てくるのか。

 なでしこリーグは11月3日(土)に各地で最終節を迎える。すでに順位が決まっているチームもあるが、皇后杯に向けた前哨戦として、各チームの戦いに注目したい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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