宇宙から見下ろせば
1977年7月14日 米フロリダ州ケネディ宇宙センター
今から38年前、日本初の静止気象衛星(GMS)が打ち上げられました。科学衛星の愛称は「宇宙に花開け」という願いから花の名前が多く「ひまわり」という愛称も、24時間いつも地球を見つめていること、天気に関係する衛星であること、この2つから太陽をイメージする花として選ばれたそうです。
初代静止気象衛星の観測は3時間毎でした。現在の30分毎と比べるとずいぶんのんびりしていましたが、当時としては画期的(epoch-making)なことで、低気圧や台風の構造をつぶさに知ることができるようになったのです。それでもしばらくは予報官の経験が重視され、雲の画像はわき役でした。
静止気象衛星の視力
視力検査でおなじみの「C」マーク。正式な名称を知っている人は少ないでしょう。
フランス人の眼科医エドマンド・ランドルトにちなんで「ランドルト環」と呼ばれています。5メートル離れたところから黒い環(直径7.5ミリ)の切れ目(幅1.5ミリ)が識別できたら、視力1.0です。
では、視力1.0の人が静止気象衛星と同じ高度3万5800キロから地球を見たら、どのくらいの大きさまで見えるのかというと、数10キロくらいです。想像していたよりも細かくておどろいていますが、生物学者の福岡伸一氏によると、ヒトの眼は生物界の中で最も優れた解像度なのだそうです。
現在運用中の静止気象衛星ひまわり7号の解像度は衛星の真下で4キロ(赤外)、ヒトの視力でいえば2.0くらいでしょうか。次期ひまわり8号ではさらに解像度がアップして、2キロになります。
世界でつながる環
静止気象衛星を運用している国は日本のほか、米国・欧州・韓国・中国・インド・ロシアです。ロケットや人工衛星技術が確立された1960年代、世界気象監視計画(WWW:World Weather Watch)としてスタートし、地球全体をつなぐ環のように雲観測ネットワークができました。
静止気象衛星を使った観測技術は日々、進歩していて、来月には欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)が新たな静止気象衛星を打ち上げる予定です。地上の観測場所は地球の約7割を占める海によって限界があります。それを補う上で静止気象衛星は重要な役割を担っていて、とくに台風やハリケーンなどの熱帯低気圧の予測向上に期待が高いです。
1999年に運輸多目的衛星 (MTSAT)が打ち上げに失敗したとき、気象関係者のだれもが天を仰ぎました。それを思うと今は恵まれた環境ですが、静止気象衛星の性能向上に、ヒトの知力が追い付かないようでは宝の持ち腐れです。肝に銘じたいと思います。
【参考資料】
福岡伸一,2009:世界は分けてもわからない,講談社現代新書.
気象衛星観測について:気象庁ホームページ
隈部良司,2001:日本気象学会2000年秋季大会シンポジウム「人工衛星からの大気観測―その歴史的展開―」の報告 4. 気象衛星“ひまわり”の観測に基づく雲解析事例集,天気,48,466-470.
立平良三,1983:昭和57年度春季大会シンポジウム「気象衛星資料の利用―その現状と展望―」の報告 1. 静止気象衛星の予報業務への利用,天気,30,77-79.
Global Planning:World Meteorological Organization(世界気象機関)
MSG-4:EUMETSAT(European Organisation for the Exploitation of Meteorological Satellites 欧州気象衛星開発機構)
人工衛星の愛称はどのようにして決められるのでしょうか?:Japan Aerospace Exploration Agency(宇宙航空研究開発機構)
なぜ静止気象衛星(せいしきしょうえいせい)の愛称は「ひまわり」になっているの?:気象庁(はれるんランド)