ブラックホールだけじゃない…ホーキング放射で宇宙の全てが蒸発する可能性が示される
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ブラックホールだけでなく宇宙の全てが蒸発する?」というテーマで動画をお送りしていきます。
オランダのラドバウド大学の研究チームによって、ホーキング放射という現象が基本的に正しいことと、放射によって蒸発するのはブラックホールだけではない可能性が示されたと発表され、世界中で話題になっています。
●ブラックホールの蒸発
1974年、スティーブン・ホーキング博士はブラックホールが徐々に蒸発しているという理論を発表しました。
途方もなく長い時間をかけて、ブラックホールは質量を失っているのです。
ですがブラックホールは極めて重力が強い天体であり、そこからは何も出ることができなかったはずです。
ブラックホールの蒸発を理解するには、対生成と対消滅という概念を知る必要があります。
真空は何も無い空間と考えられていました。
しかし、量子力学では、何もないと思われていた真空で粒子と反粒子が生まれては消える、対生成と対消滅を繰り返していることが分かりました。
宇宙のあちこちで粒子と反粒子のペアの生成と消滅が繰り返されているわけです。
ところが、ブラックホールの事象の地平面のすぐそばで対生成が起きたらどうなるでしょうか?
一方が事象の地平面のそばから離れていき、もう一方が内部へ飲み込まれる場合が起こる可能性があります。
逃げた方の粒子は、「ホーキング放射」と呼ばれます。
ホーキング放射はプラスのエネルギーを持っているため、それと釣り合うために内部に落ちた粒子はマイナスのエネルギーを持つとされます。
ブラックホールの内部では落ちてきたマイナスのエネルギーを持つ粒子と、ブラックホール内の粒子が打ち消し合うことで、ブラックホール全体の質量とエネルギーは徐々に失われてしまいます。
そして最終的にはブラックホールは極めて長い時間をかけて完全に消滅してしまうと考えられています。
●蒸発するのはBHだけじゃない!?
オランダのラドバウド大学の研究チームは2023年5月、放射を起こして蒸発するのはブラックホールだけではない可能性を示す論文を発表し、大きな話題を呼んでいます。
これまで対生成された粒子が生き別れることでホーキング放射が発生するためには、事象の地平面の存在が必須であり、つまりホーキング放射によって徐々に蒸発する天体はブラックホールだけと考えられてきました。
しかし最新の研究では、これは誤解であると示されています。
ブラックホール中心からの距離ごとのホーキング放射の生成量を推定したグラフによると、事象の地平線の半径の約125%の地点で放射線の生成量がピークに達し、それ以遠では放射量が減少してゼロに漸近することが示されています。
重要なのは、事象の地平面から遠く、時空の歪みがそれほど大きくない場所でも、放射の生成が常に0ではないことです。
つまり確かに事象の地平面近傍は時空のゆがみが大きいので放射が生成されやすいものの、事象の地平面がなくても、質量を持つあらゆる物体が、放射を生成する可能性があるということになります。
最新の研究によって、放射の生成においては「事象の地平面はそれほど特別な場所ではない」ことが示されました。
粒子が対生成されたのち、それらが生き別れると、粒子の一方は負のエネルギーを持って重力場の発生源物体に落下することで、その物体は質量とエネルギーを失い、徐々に蒸発するのでした。
つまり最新の研究が正しければ、ブラックホールに限らず、質量を持つあらゆる物体による重力場が原因でホーキング放射のような粒子が生成され、あらゆる物体が蒸発することになります。
中性子星や白色矮星などの高密度天体、大質量の銀河団などはもちろんのこと、現在の宇宙の年齢など比較にならないほど極めて長い年月さえあれば、小さな岩石程度の質量の物体も含む、宇宙の全ての物質が蒸発してしまうかもしれません。
今回の発見が正しければ、宇宙が極めて長く続く場合の終焉シナリオが書き換わる可能性すらあります。
とはいえ、そもそも実際のブラックホールで蒸発が起きているかについては未だに確定的な証拠がありません。
ブラックホールの蒸発現象は実在するのか、実在する場合はそれはブラックホールに限る現象なのか、今後さらなる検証が行われるはずです。