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投手をなめているのか!メジャーが検討中の先発投手6イニングルールに上原浩治が物申す

上原浩治元メジャーリーガー
メジャー初年度で10勝を挙げた今永昇太投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 メジャーリーグが先発投手に関する「新ルール」を検討していることが、スポーツ専門局ESPNの報道で明らかになり、日本でも話題になっている。先発投手に最低でも6回を投げることを義務づけるものだ。100球以上や自責点4以上、負傷の場合は除くというものだが、端的に言えば、これほど投手に不利なルールはないとういのが私の考えだ。

 新ルールには、近年の傾向として顕著な速球派投手よりも、制球や効率を重視する投手へ、全体的にスタイルを変えていこうという思惑があると報道されている。

 球速が上がれば、肩肘への負担がかかり、故障者が出やすいという理屈から、それならば、投手に球速を追い求めないように促すにはどうすればいいか。そこで、長いイニングを投げることを義務づければ、スタミナを浪費するスピードボールに偏らず、「打たせて取るスタイル」へと変えてくるだろうという“読み”があるようだ。スポーツニッポンの記事では、2014年と今季の先発投手の投球イニングを比較している。すると、14年は1試合平均5・97イニングだったのが、今季は5・25イニングに減少したという。

 これまでにも、ワンポイント起用の禁止や、投球間隔を制限するピッチクロックなどが導入されているが、今回の新ルールは検討段階とはいえ、「投手をなめているのか」と違和感を抱いてしまう。

 速いボールで勝負する投手もいれば、緩急を使って制球力を重視する投手もいる。様々な投手がいて、当然である。それぞれの投手は、メジャーの舞台へはい上がってくるまでに、そしてメジャーで生き残るために、強打者と対峙する上で、さまざまな試行錯誤を繰り返して、現在の地位を勝ち取っている。制球が悪くてもスピードボールがあれば勝負でき、逆もしかりだ。投球フォームもスタイルも、「個性」あふれるのがメジャーリーグである。プロ野球選手は「個人事業主」であり、けがのリスクも自分で負っている。

 もちろん、投球スタイルは年齢に応じて変化が求められることがある。若いときは速球派投手でも、年齢とともにスピードに衰えを感じたら、技巧派とまでは言わなくても、変化球をたくさん投じるスタイルへ変わらなければ生き残れない。先発投手が長いイニングを投げられるに越したことはないが、リーグ側がルールでイニング数を義務づけるのは違うだろう。

 投手のけがを防止したいのであれば、他に選択肢はいくらでもある。

 最もわかりやすいのは、いつも言っていることだが、ストライクゾーンを少し広げることだ。あるいは、ボールの反発を落として飛びにくいボールを使えばいい。滑りやすいというボールを変えるだけでも負担は大きく減る。

 ほかにもやれることはある。例えば、日本のプロ野球では、先発投手には“上がり”があり、全試合でベンチに入ることを求められない。先発の役割は、自分が任された登板日に結果を出すことという考え方だ。一方、メジャーは、その日の試合に投げない先発投手もベンチに入る。チーム全体で戦うという方針が徹底されているためだろうが、私の経験からは、絶対にその日の試合に投げない先発投手が醸し出す緊張感のなさは、ベンチの雰囲気にマイナスの作用をもたらすことだってある。

 メジャーも“上がり”をつくって、先発投手が疲労回復や次回登板への調整に充分な時間を費やせるようにすればいいのではないだろうか。

 他にも中継ぎを一人削って、先発投手の枠を一つ増やせば、それぞれの投手の登板間隔が増える。

 投手陣に課せられる制限の中でも、投球スタイルにメスを入れることは、野球をまた単調なスポーツへと進ませていくことになる。強く反対の声を上げたい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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