「導入されたら悪夢」メジャーで検討中の新ルールに上原浩治が物申す
このままでは、メジャーリーグのルールは、ベースボールと野球の違いでは済まさないところまでいってしまうのではないだろうか。
メジャーのオーナー会議で、試合中に打順に関係なく、好きな打者を1度だけ打席に立たせることができる新ルール「ゴールデン・アットバット」の導入が話題になったと日本のメディアでも報じられている。ご丁寧に「黄金打席」と和訳されているが、先人たちが築いてきた野球を根本から覆すような議論は、「居酒屋トーク」で終わらせてほしい。断固として反対である。
報道によれば、メジャーのマンフレッド・コミッショナーがポッドキャスト番組に出演し、オーナー会議で話題になったと丁寧にも公にしたという。
オーナー会議では、さまざまな新ルールが議論されており、その中の一つとして「ゴールデン・アットバット」が話題になったという。コミッショナーは話題に上がっただけの段階として、まだ実現の可能性にまでは踏み込んでいないが、近年は試合時間の短縮を目的として、投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」や投手の牽制回数制限などを次々と導入している。
1試合に1度だけ、スタメンで出場している選手がチャンスで“代打”のように打席に立つことができるというのは、“夢”のような“悪夢”の思考だと思う。
野球は9人もしくは、DHを含めた10人でやることが大前提だ。その中には選手交代はもちろんあっていい。スピードやパワーがある打者がいて、エースと呼ばれる先発や試合の最後を担うクローザーがいて、名手と呼ばれる守備の職人がいる。それぞれが役割を全うする「チームスポーツ」だ。
試合終盤の逆転のチャンスに下位打線に回ってきた打順で、「ゴールデン・アットバット」が導入されていれば、強打者を打席に立たせることができるだろう。「そんな状況があったら盛り上がるよな」というのは、野球ファンが居酒屋で盛り上がる分には確かに面白い。
しかし、現実はどうか。打順は巡り合わせも含めて戦況を左右する。そのために継投策や選手起用という采配がモノを言うことがある。打順が決められていて、等しく打席に立つ中で、試合の流れは双方に傾き、最後には勝敗が決する。打者の打撃タイトルも決まっていく。
私はセ・リーグもDHを導入したほうがいいという持論があり、決して現状のルールや制度に固執するつもりはない。しかし、野球の大前提を覆すようなルール変更に「NO!」と言いたい。
もしも、ゴールデン・アットバットが導入されて、少年野球の世界に広まったことを想像してほしい。頑張って練習をしても、なかなか打てない子どもだっている。それでも、自分の打席でヒットを打とうと努力を重ねてきた。そんな子どもに、非情な“代打”が送られていいのだろうか。DHの導入は、野球のレギュラー枠を一つ増やす、打つのが得意だけど守備が苦手な選手に門戸を広げるメリットがある。しかし、「ゴールデン・アットバット」は、全く逆の「強者」のためのルールだ。
近年のメジャーはワンポイント禁止や守備シフト制限などで、大味な展開を推奨するかのように野球の戦術面を簡素化させ、ピッチクロックなどの導入で「間」を取り除くことを推し進める。若いファン層の取り込みなどを大義名分に掲げるが、背景にあるのは放映権料などのビッグビジネスだ。メジャーの市場規模は拡大傾向を続け、選手も高年俸の恩恵を受けることができている一面もある。ただ、あまりにもビジネス優先に傾倒した小手先のルール変更が本当に「是」なのか。
オーナーたちの単なる“居酒屋トーク”であることを願っている。