Yahoo!ニュース

割り箸は高級な木工品だ! 国産割り箸復活の兆し

田中淳夫森林ジャーナリスト
被災地に寄付をする「3県復興 希望のかけ箸」

「新しい東北」復興ビジネスコンテストで、株式会社磐城高箸(福島県いわき市)の生産する高級割り箸が大賞に選ばれた。このコンテストは復興庁が主催して、被災地の産業復興に役立つ事業を表彰するものだ。

磐城高箸は、いわき市で生産されるスギ(磐城杉)を使って割り箸を製造し、販売している。割り箸と言っても、中国産などの安物とは違い、美しく精巧な高級割り箸だ。地元産木材を高値で仕入れて木材価格の下落で苦しむ林業再生の一端を担っているほか、その過程でも雇用を生み出し、障害者施設に検品などの仕事を発注している。それらの貢献も評価された模様だ。

実は、私と同社の高橋正行社長は、縁浅からぬ関係である。最初に「国産割り箸をつくりたい」と相談受けた際は、その意気やよし、と思いつつもリスキーだと感じた。国産材の割り箸業界では廃業が相次ぎ、厳しいことを知っていたからである。

しかし彼は、2011年に祖父の故郷・いわき市で起業。ところが直後に震災が起きた。とくに4月のいわき市を震源とする余震では工場も破損する。さらに原発事故による放射性物質飛散の風評被害……。

そんな逆境の中でも、心も割り箸も「折れない」でつくり続けた。

それどころか次々と新製品を発表。とくに磐城杉のほか岩手の気仙杉、宮城の栗駒杉を使った「3県復興希望のかけ箸」はヒットした。これは3膳で500円だが、1セット売れる度に各県に50円ずつ寄付をするというものだ。ほかにも浮世絵の箸袋に入れた商品などアイデアとデザイン性の豊かな製品を多く生み出している。

おかげで全国間伐・間伐材利用コンクールの間伐推進中央協議会長賞やソーシャルプロダクツ・アワード2014など数多くの賞を受賞した。最近では、台湾など海外輸出にも取り組んでいる。

話は変わるが、国産割り箸に復活の動きがある。

割り箸そのものは、中国産やロシア産が席巻する中、外食産業の多くがプラスチック箸を導入したため需要が減少しているが、その中で割り箸を見直す動きも起きているのだ。

奈良県吉野など既存の割り箸生産地では縮小が続いているが、金沢や岐阜の郡上、福島でも磐城高箸以外にも、新たな国産割り箸メーカーが各地に生まれている。一度は割り箸を追放した外食産業の中には、国産割り箸にもどす動きも起きている。近くコンビニのローソンが、店で提供される割り箸を全量国産品に切り替えるという。

一つには、ブラスチック箸が意外とコスト高であることや、国産材による割り箸は林業に貢献していることが知られてきたおかげだろう。また割り箸は、もともと身近に触れられる素の木工品であるし、非常に高付加価値商品でもある。それに箸袋は、消費者に直に届く広告媒体として使えるのだ。

それらの点に目をつけ、環境や地域振興、さらに木育などの要素を取り入れた販売を模索することで、新たな可能性が開けてきた。

もちろん量的にはまだまだだが、「割り箸は使い捨て」とか「森を破壊している」といった誤ったイメージを払拭し、精巧な木工品であり、地域に貢献できるアイテムということを広めれば、新たな可能性が広がるかもしれない。

今回の磐城高箸の授賞も、割り箸のイメージを変える一助になってほしい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事