1月は禁酒に挑戦! 欧米で勢い「ドライ・ジャニュアリー」 健康への影響を懸念 お酒離れに拍車も
1月の1か月間だけ禁酒する「Dry January(ドライ・ジャニュアリー)」現象が欧米で勢いを増している。もとはアルコール依存症など飲酒が引き起こす様々な問題に取り組む英国の非営利団体が「年初の1月ぐらいはDry(禁酒)にしよう」と始めた世論喚起キャンペーンのキャッチフレーズだった。しかし今や、普通にお酒をたしなむ人たちの間でも、ドライ・ジャニュアリーに挑戦する人たちが増えている。背景には何があるのか。
フランスの大臣が禁酒宣言
欧州のニュース専門メディア「ユーロニュース」は3日、有名小説のタイトルを引用し、「怒りの葡萄?フランス保健相のドライ・ジャニュアリー宣言はワイン好きのマクロン大統領の怒りを買う恐れ」と題した記事を配信した。
欧州メディアによれば、昨年末に発足した新内閣で保健・医療アクセス担当大臣に就任したヤニック・ノデール氏は、メディアの取材に対し、1月は、毎年そうしているように1か月間、個人的に飲酒を控えると宣言。記者たちにドライ・ジャニュアリーのメリットを力説した。
ノデール氏は心臓の専門医でもある。地元メディアによれば、ノデール氏はドライ・ジャニュアリー・キャンペーンへの支持を公の場で表明した最初の大臣。就任直後のインタビューでも「いかなるアルコール飲料団体のロビー活動にも屈しない」と述べており、今回の禁酒宣言も失言ではなく“確信犯”とみられている。
英国でキャンペーンが始まったのは2013年。フランスでドライ・ジャニュアリーを実践する人が増え始めたのは2020年ごろとされる。ユーロニュースによると、2019年には保健省がドライ・ジャニュアリーへの支援計画を発表した。しかし、ワイン業界に近いマクロン大統領の反対で、計画は実施されなかった。
それでもドライ・ジャニュアリーを支持する世論はじわじわ拡大。英BBCニュースによると、ちょうど1年前、依存症の専門家30人がフランスの高級日刊紙ル・モンドに公開書簡を載せ、政府にドライ・ジャニュアリーを支援するよう訴えた。
米国立医学図書館の公式サイトに昨年12月に掲載された論文によると、フランスの成人の61%がドライ・ジャニュアリーについて知っており、そのうちの20%(全飲酒者の12%)が実践していた。これをフランスの全成人人口に当てはめると、推定450万人が昨年1月の1か月間、禁酒を実践したことになるという。
今年は実践者が一段と増えているようだ。ル・モンドの英語版は3日、「政府の支援がないにもかかわらず、ドライ・ジャニュアリー人気はかつてないほど高まっている」と題した記事を配信した。
米国では過去最大規模に
アルコール飲料消費大国の米国も同様だ。米大手週刊誌ニューズウィークは1日、ドライ・ジャニュアリーに関する記事を載せ、専門家の見方やインターネットの検索頻度を示す「グーグルトレンド」のデータなどを紹介しながら、今年のドライ・ジャニュアリーのムーブメントは過去最大規模になると予測した。
米調査会社シビックサイエンスが2023年末、米国の成人に2024年1月にドライ・ジャニュアリーに挑戦するか尋ねたところ、27%が「そう思う」、22%が「ややそう思う」と回答。その1年前の調査では、24%が「そう思う」、18%が「ややそう思う」と答えており、実践者が増加傾向にあることは間違いないようだ。
米メディアの最近の報道を見ると、ドライ・ジャニュアリーのメリットの解説や、挑戦期間中にお薦めのノンアル飲料の紹介など、報道の視点は多岐にわたり、世論の関心の高さをうかがわせる。
ドライ・ジャニュアリーの人気を後押ししているのは、アルコール飲料の摂取に伴う健康上の様々なリスクが最新の研究で徐々に明らかになってきたことだ。
「酒は百薬の長」は今は昔
「酒は百薬の長」とも言われ、少量の飲酒は健康にプラスと長年、考えられてきた。しかし、ここ数年の間に、飲酒はたとえ少量でも健康を害する恐れがあることが明確になってきた。
米ハーバード大学などの研究グループが2022年に発表した論文は、アルコールの摂取は少量でも心疾患のリスクを高めると指摘。英オックスフォード大学などの研究では、ワインをほんの少量(80ミリリットル)でも毎日飲むと、認知機能の低下を招くことが確認された。
世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究所(IARC)は、アルコール飲料を、人への発がん性を示す十分な証拠がある「グループ1」に分類している。グループ1には他に、タバコやアスベスト、一部のダイオキシン類、有機フッ素化合物のPFOAなどが入っている。
米政府の疾病対策センター(CDC)は、お酒の適量として男性は1日2杯以下(1杯はワイン換算で150ミリリットル)、女性は同1杯以下を推奨している。
だが同時に「最新のエビデンスによると、推奨レベル未満の摂取量でもがんや心疾患など様々な病気を患い、死亡リスクが高まる可能性がある」と注意喚起し、飲酒量は「少なければ少ないほど健康によい」とさらなる節酒を呼び掛けている。
アルコール飲料業界は泣きっ面に蜂
ドライ・ジャニュアリーの広がりは消費者の健康面を考えると好ましいことかもしれない。だが、アルコール飲料業界にとっては、まさに泣きっ面に蜂だ。
日本も含め先進国の間では、若者のアルコール離れなどで、お酒の消費量はただでさえ、頭打ち、あるいは減少傾向にある。
1か月間の禁酒で健康面でのメリットを実感した人が、そのまま一生、お酒を飲まなくなる可能性もないわけではない。
ドライ・ジャニュアリーは日本ではまだ欧米ほど知られてはいないが、日本も欧米と同じくアルコール離れやノンアルブームが広がっているだけに、ドライ・ジャニュアリーがブームとなる日は近いかもしれない。