頂上対決を制したベレーザが、なでしこリーグ3連覇を達成。平均年齢22歳の常勝軍団が見せる成熟した強さ
【最高の舞台で決めた優勝】
なでしこリーグ1部は、2試合を残して日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)がリーグ3連覇を決めた。
9月23日(土)に行われたなでしこリーグ第16節。優勝がかかったベレーザの前に立ちはだかったのは、今シーズンのリーグ戦で唯一、ベレーザが敗れた2位のINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)。
ベレーザが優勝を決めるか、2位のINACが逆転優勝に望みをつなぐかーー。最高の舞台が整った中、ベレーザが2-0というスコアで力を見せつけ、味の素フィールド西が丘に駆けつけたサポーターと歓喜を分かち合った。
ゲームは攻守が激しく入れ替わり、拮抗した。
ベレーザが中央から攻めれば、INACは両サイドバックを起点にカウンターで応酬し、INACが高い位置からプレッシャーをかければ、ベレーザは小気味よいパス回しでその圧力をかわした。
その中で、ベレーザが勝利を引き寄せた二つのポイントを挙げたい。
一つは、守備で主導権を握ったことだ。
前回の対戦時(2017年5月21日、リーグ第9節)は、2列目の選手が流動的にポジションを入れ替えるINACに対し、ベレーザは守備から攻撃への切り替えがスムーズにいかず、後半に取られたPKを決められ、0-1で敗れた。
一方、この試合では2トップのFW田中美南とFW籾木結花がINACの最終ラインにプレッシャーをかけてパスコースを限定し、その攻撃を意図的に中央に誘導。そして、ベレーザは狙い通り、中央を起点にしたショートカウンターから攻撃につなげた。
【試合を決めた2人のエース】
もう一つは、決めるべき2人のFWがゴールを決めたことだ。
2得点はいずれも簡単なゴールではなかったが、そのフィニッシュの質が、この試合では勝敗の分かれ目となった。
前半39分、INACのゴールキックの後、ベレーザは田中と籾木、左サイドのMF長谷川唯の3人が高い位置からINACの最終ラインにプレッシャーをかけて、ペナルティエリアの手前で田中がインターセプトに成功。こぼれ球を拾った籾木は一瞬、顔を上げてINACのGK武仲麗依のポジションを確認すると、ステップを踏まずにシュートを放った。
低すぎず、高すぎることもない、滞空時間を計ったようなループシュートが、ゴール右隅に決まった。田中がボールを奪ってから籾木が足を振るまでにかかった時間は、わずか2秒余り。攻守のイメージを即座に共有できる、ベレーザ攻撃陣の連携の良さと、籾木の技術の高さが生んだ先制点だった。
「この(優勝が決まる)舞台で先制点を決められたので、これまでの得点の中でも印象に残るゴールになりました」(籾木)
いつも通り、試合後は屈託のない笑顔でゴールを振り返った。
籾木は21歳だが、1部でのプレーはすでに6年目になる。なでしこジャパンにも定着し始めた早熟のレフティーは、どんな大舞台でも動じない。
籾木は先制点を決めた直後、7月にケガで離脱したセンターバックのDF村松智子の背番号と3連覇への決意を重ねて、3本の指を立てた。
さらに、ベレーザは54分に田中が追加点を決めた。
左サイドでボールをキープした長谷川からのパスをペナルティエリアの手前、左隅あたりで受けた田中は、INACのディフェンダーを左半身でブロックしながらドリブルで中に切り込むと、右足でゴール左隅にグラウンダーのシュートを流し込んだ。
継続的なトレーニングによって培ってきた体幹の強さやシュート技術が、大一番で1ゴール1アシストの活躍に結実し、2年連続の得点王のタイトルもぐっと手繰り寄せた。
田中は試合後、
「今年は去年に比べて、自分のシュートでチームを助けられるようになったことが、成長した部分だと思います」(田中)
と、優勝の喜びとともに自身の成長の実感を口にした。
2点をリードした後は、ピッチを広く使って攻勢を強めるINACに押し込まれる時間帯が増えたが、ベレーザはディフェンスリーダーのDF岩清水梓、ボランチのMF阪口夢穂を中心に、堅い守備から反撃の機会をうかがった。
そして、72分から出場したFW植木理子がスピードを活かしたプレーでカウンターから決定機を作るなど、終盤のゲームを引き締め、ベレーザはそのまま勝ちきった。
【3連覇を支えたコンビネーション】
ベレーザにとって、通算15度目のリーグ優勝であり、3連覇は2005年から2008年に4連覇を達成した時以来となる。
当時のメンバーは、澤穂希(2015年に引退)を筆頭に、2011年のワールドカップ優勝の礎を築いた代表選手がずらりと顔を揃えていた。
当時の4連覇を知る、現チームで唯一の”証人”でもある岩清水は今回の3連覇について、
「あの頃に戻れたような感じがしますし、以前のベレーザに肩を並べられたのかなと。心強いチームメートがそばにいてくれて嬉しく思います」(岩清水)
と、新たな黄金期を迎えたチームに胸を張った。
岩清水はベレーザで15年目、キャプテンマークを巻いて7年目で、チームの象徴的な存在でもある。10代の若手だった当時と比べて、チームの大黒柱として達成した今回の3連覇は喜びもひとしおだろう。
今シーズンのベレーザの強さを一言で表すなら、「成熟」という言葉がふさわしい。
現在の先発メンバー11人の平均年齢は22.6歳と若いが、その多くが主力になり、現チームのサイクルがスタートしたのは2013年。5年をかけて成長してきたチームである。
優勝するためのハードルは、過去2シーズンに比べても高かった。
開幕前に左サイドバックのDF有吉佐織、シーズン中の7月には村松と、ディフェンスラインの主力2人をケガで欠く緊急事態に陥ったが、最後は両ポジションを本職ではない選手たちが埋める形で乗り切った。
誰が出ても大崩れしない安定感を支えたのは、メンバーの7割以上を占める、下部組織の日テレ・メニーナ出身の選手たちが織り成す豊かなコンビネーションである。
対戦相手が高いモチベーションで臨んでくることは、常勝チームの宿命とも言える。それでも、あらゆる難局を乗り越えてきた選手間のスムーズな意思疎通が、対応力の高さにつながった。
誰よりもお互いを理解している選手たちだからこそ、チームを率いる森栄次監督は、選手全員が各々の良さを発揮できるように心がけてきたという。試合前や試合後、選手と冗談をかわしてリラックスした表情を見せる森監督からは、選手たちに対する全幅の信頼が伝わってくる。
「言われたことをやるのではなく、それぞれがストロング(ポイント)を出し合って、足りないところをカバーし合うサッカーが僕の理想です。どのチームも『対ベレーザ』というモチベーションがあるので、試行錯誤して、守ってきたり、前からプレッシャーをかけてきたりと様々な手を打ってきます。それに対応できているのは、選手個人個人がそれ(相手の狙い)を感じ取ってお互いに理解し合えていることが大きいですね」(森監督)
試合後、森監督はそう言って、新たな歴史を刻んだチームを讃えた。
【攻守の中心】
これまでの2シーズン同様、今年も攻守の中心はボランチのMF阪口夢穂である。
気の利いたポジショニングとパスの緩急でピッチにリズムを作り出し、試合が停滞すれば、自らゴールを決めることもできる。調和とアクセント、その両方を1人で生み出せる阪口は、替えがきかない存在だ。才能豊かな若い選手たちを伸び伸びとプレーさせることができるのは、誰よりも阪口自身が「サッカーを楽しむ」ことに対して貪欲だからだろう。
また、負傷者によるディフェンスラインの入れ替えがあった中、15試合で6失点の堅守を支えているのは、GK山下杏也加の安定したプレーによるところも大きい。
至近距離からのシュートに対する反応や動きのキレが良く、クロスボールに対する飛び出しの判断ミスがほとんどない。そして、ハイボールやミドルシュートのセーブ率も極めて高い。ディフェンスラインの背後のスペースを埋めるポジショニングやコーチングスキルなども含め、GKとしての総合力は代表でのパフォーマンスに比例するように高まっている。
「(ベレーザと代表で)キーパーコーチが変わったり、周囲の環境が変わったことで新しく学べたこともありましたし、代表に呼ばれるようになって、リーグでいかにアピールするかということも意識するようになりました」(山下)
失点の少なさについては「防げる失点がまだまだあります」と、自身のパフォーマンスに対してさらなる改善の余地を感じているようで、今後が楽しみだ。
また、この試合では、ベンチに大きな変化があった。右膝前十字靭帯損傷のため、3月からリハビリを続けていた有吉が7ヶ月ぶりにメンバー入りを果たしたのだ。「ピッチに出るのはまだ難しいと思っていたので」(有吉)、ベンチから戦況を見つめ、試合前やハーフタイムには積極的に声をかけてチームの雰囲気を盛り上げた。
久々にメンバー入りしたことについて、有吉は試合後、
「若い選手たちがきつい中でも頑張れるような声かけをしようと決めていました。最高ですね。ベンチから見る景色は、全然、違いました」(有吉)
と、3連覇の瞬間をチームメートと共にした喜びを口にした。
シーズンを通して、自身が試合に出られない無念さを感じながらも、有吉はレギュラー選手と控え選手、その両方をサポートした。
堅実なリハビリの成果もあり、当初8ヶ月かかるはずだった復帰予定は、短縮されそうだ。皇后杯では、有吉の姿をピッチで見られることだろう。
ベレーザは次節、9月30日(土)にホームの多摩市立陸上競技場で、伊賀フットボールクラブくノ一と対戦する。
優勝チームは決まったが、リーグはあと2試合残っており、熾烈を極めるであろう上位争いと残留争いから目が離せない。